その手に栄光を その2

 星馳せアルスが生きている。

 彼の保有する魔具の仔細を知らぬおぞましきトロアにとって、それはまさしくあり得べからざる事態であった。


 ならば、果たしてその心構えはできていなかったか。


(そうではない)


 左の剣を抜く。ムスハインの風の魔剣。右には、凶剣セルフェスク。


 ――心構えならば、とうにできている。

 その一羽の鳥竜ワイバーンと戦う備えは、今に始まったわけではない。父が死に、己を捨て、光の魔剣を取り戻す決心を決めたその時から、いつでもこの敵を打ち倒すことだけを考えていた。それが今になっただけのことだ。


「……お前に奪われた者たちのことを考えたことがあるか?」


 アルスの金属の腕が、ヒレンジンゲンの光の魔剣を掴む。倒さねばならない。

 ルクノカに食いちぎられた半身が不気味な機械に置き換わっているのだとしても、変わることは何もない。万全の彼と戦うものと同じく、全霊を尽くす。


 敵はこの地平の伝説を踏破した冒険者、星馳せアルスなのだから。


「俺は」


 言葉の途中でトロアは体を捻り、その軌道を避けた。赤光が閃く。背後の岩盤までを直線に灼いた。

 炎そのものが走ったようにしか見えなかった――事実、そうなのだろう。

 それは超絶の速度で断崖を溶解させつつ、トロアの座標へと戻りつつある。

 アルスが名を呟く。


「…………地走り」


 ルクノカとの戦闘では披露の機会を持たなかった魔具である。

 地形に沿って駆け、所有者の意思の通りに敵を自律追跡する超高温の炎。


 そしてトロアの回避のその隙に飛翔している。マスケット銃を構えていた。

 背後からは高速で迫る炎。そして手の届かぬ上方よりの狙撃。


「させん」


 小さな呟きとともに、右の剣の柄を振り抜いた。

 必殺の銃を構えつつあったアルスは、見えぬ力に引きずり落ちる。


 それは機械の体の一点に食い込んだ、小さな楔に作用する力である。


「“渡り”。“逆羽”……!」


 敵が炎の魔具を用いたその瞬間に、トロアもまた動いていた。

 風の魔剣を瞬時発動した風速で、遠く、凶剣セルフェスクの楔を散弾の如く。

 地走りの光に彼我の目が眩んだその瞬間、その一片が的中していた。


 いつでも……夢の中でも、最強の鳥竜ワイバーンを斬るための策を考え続けていた。超高速で飛翔するその敵を捉えるための策を。

 父ですら勝てなかった者に打ち勝つ手段を、魔剣の声に聞き続けてきた。

 それこそが父を救えなかった自分の最後に為すべき、最大の義務と信じていた。


 故に、当然のように。新たなる魔具に意表を突かれたとしても、体の奥底までを冷やす凍土の中であっても、両脚が万全でなかったとしても、それは呼吸と同じように再現できる絶技だ。


 セルフェスクの磁力で、アルスを至近まで引き寄せる。狙いは、彼自身を背後から迫る炎への盾とすること。だが同時、甲高い悲鳴が岩の合間を劈いた。


 当然の生命反応として怯んだその一瞬に、別の刃が飛来している。

 自ら飛行し、風を切って大音量を発する。

 それは慄き鳥という名の魔剣であったが――


「慄き鳥。ヒレンジンゲンの光の――」

「魔剣使いに」


 バギリ、という音があった。


 引き寄せられる勢いを乗せて抜き放とうとした柄は止まり、最強の魔剣はその刃を覗かせることなく地に落下した。

 抜き打ちの寸前にアルスの手を砕いたものは、たった今己が投擲した慄き鳥の柄である。


 同時、トロアが抜き放った魔剣は、鎌型の刃の斧槍であった。

 インレーテの安息の鎌。刃の先端が飛来する慄き鳥の鍔を絡め取って……柄の分だけ延長した間合いで、光の魔剣を抜く直前に、遠くアルスの手首にまで当てた。

 どれほどの幸運。どれほどの奇跡が瞬時の交錯にそのような結果を残し得るのか。

 絶技。柳の剣のソウジロウにすら、それは意図して可能であったかどうか。


「――魔剣で勝てると思うな」


 おぞましきトロアは、確信を持ってそれを成した。

 魔剣の声を、まるで最初から聞いていたかのように。


 背後から走り抜けた炎を、トロアは転がるように避けた。再び、セルフェスクの磁力にアルスを捉えようと試みる。反応がない。見ると、機械の胴は半分が溶解している。地走りの炎に敢えて当たった。楔をそうして取り除いた。

 ……機械の肉体は、損傷すら意に介することがない。

 

「おれのものだ。おれの……おれの……」

「……」


 思考中枢を除く全ての損傷に対して不滅を保証する、チックロラックの永久機械。

 その希少にして無敵の財宝を抱えていたふすべのヴィケオンは、星馳せアルスとの戦闘の際にすら、何故それを自ら用いなかったのか。


 答えは、おぞましきトロアが見ている通りの有様であった。

 それは肉体の機能を同等の性能の機械へと置き換えるが、そうなってしまったものは決して元と同じ生命ではない。生きてはいても、生きる意味であった意志は急激に霧散していく。そうして、動きも失せたただの鉄塊へと成り果てる。

 それは最強の鳥竜ワイバーンであろうと例外ではない。魔具の力によって第二試合の損傷を完治していながら、アルスはこの恐るべき地の底を動くことをできずにいた。

 宝を取り返すという目的がなければ、何かを思い出すことすらできなかった。


 それは星馳せアルスでありながら、星馳せアルスではない……


「雷轟の魔弾」

「“渡り”!」


 マスケット銃から迸った電光を、空気の渦の爆発がかき消した。

 剣閃に伴う気流と水流の圧力を増幅する、ムスハインの風の魔剣。

 同時、セルフェスクの破片を打ち込む“逆羽”を放っているが、楔の散弾は電光の磁気に逆に乱されて逸れる。


 今度こそ、鳥竜ワイバーンは高速で飛翔する。前方。地面を抉りながら地走りの火が戻ってくる。

 天から降り注ぐ無数の泥の刃を見た。トロアは足元の剣を取った。


「……ッ、“とや”!」


 鋭角を描くような軌道で抜剣することで、光の魔剣の軌跡は上空よりの攻撃を防ぐ盾となる。ヒレンジンゲンの光の魔剣。その一つの奥義。

 奇しくもかつての父のように、腐土太陽の乱射をそうして防いだ。


(まるで軍勢だ。……対応しろ。それが、こいつの戦い方だ)


 地走り。慄き鳥。腐土太陽。

 星馳せアルスの用いる魔具は、自律し、飛来し、多角から攻め立てる類のものだ。

 そうして敵の思考の猶予を削り切った意識の間隙に――魔弾。ヒツェド・イリスの火筒ほづつ。あるいはキヲの手。必殺の一撃で仕留めてくる。

 伝説と戦い続けてきた経験が育てた、無慈悲で、そして付け入る余地のない戦術。


 地走りの炎に照らされるアルスの影は高い。もはや剣の間合いではない。

 一方的に狙撃される。腰に吊るファイマの護槍が動く。トロアも踏み込んでいる。


「“啄み”!」


 神剣ケテルクという。

 ファイマの護槍の軌道をガイドとして先回りした刹那の刺突は、高速で飛来した毒の魔弾すらを、違わず弾き落としている。


 そしてそれは、実体の刃の外側へと不可視の斬撃軌道を延長する、近接戦闘の間合いを乱す魔剣。“啄み”という名の遠隔刺突の奥義を、星馳せアルスも知る。

 しかし、左右を断崖に塞がれた地の底では回避の余地なく……


「……」


 防がれている。体幹を直撃したはずの不可知の刺突は……三本の腕の一本が掴む、小さな首飾り状の装飾が防いだ。


「……死者の巨盾」


 再び炎が来る。ムスハインの風の魔剣。巻き起こした旋風で炎を弾き、アルスの射線を眩ませる盾とする。上空からこちらを狙い続けながら、絶対の防御を誇る死者の巨盾で守りを固め、地走りの炎に対応させ続ける心積もりか。故の自律攻撃。


(……そうではない。一切無敵の魔剣が実在しないように、完全な防御もあり得ない。そうであれば、上空に距離を取るまでもなく最初からそれを発動し続けていたはず。あれは無限に持続できる防御ではない……!)


 敵を読む。無限の可能性があり得るアルスの魔具を、思考の読みで絞り込む。

 無尽無流むじんむりゅうのサイアノプはそれをしていた。

 彼は新たな魔剣を構えた。地上の全剣がある。試合の場では通じ得なかったもの。使用の回数に限りがあるもの。全てを用いる。


天劫糾殺てんごうきゅうさつ


 大地に突き立てた黒色の刀は、その一触れでこの世ならぬ暗黒の亀裂を生んだ。

 亜空は地の底のみならず断崖の壁面にも波及し、その向こうは完全なる闇だ。


 それは落ちたものをこの世界より消し去る、死の裂口である。


「…………」

「子供騙しの魔剣と思うか?」


 引き起こす異常の規模に比して、ひどく効果の小さな魔剣である。

 それは致死の奈落を生み出すが、互いが明らかにそれを知覚できる。達人の域にある強者がそれに落ちることはあり得ない。


 走る炎が襲来した。その向こうに影。泥の波が襲う。腐土太陽による射撃。


(そうして、攻撃を重ねようとしているのは)


 防御に用いるのは、水晶じみて透き通る剣身の魔剣。音鳴絶おんめいぜつ

 振動と衝撃波を伴うこの剣を、最大の出力で用いた時――


「“抱卵”ッ!」


 音鳴絶おんめいぜつの爆砕とともに、炎と泥は衝撃の壁に止まる。

 その時には駆け出している。左手の一本で防ぎきった今、奥義の十分な予備動作を以て右の魔剣を繰り出すことができる。


(俺に対処を迫ろうとしているから。それこそが――)


 上半身のバネを用いるその技は、僅かに半歩の踏み込みで終わる。

 不可視の延長斬撃を一点に絞ることで超遠隔を穿つ、その技の名を。


「“啄み”!」


 重ねられた攻撃に対しての、交差の刺突だった。頭部を狙ったそれは、僅かに機械の脇腹を掠って終わる。致命点を捉えられねば、“啄み”は攻撃の意味を持たぬ。

 超高速。目に捕らえられぬ飛翔能力。機械の肉体は損傷すら意に介することはない。三度見た攻撃を、星馳せアルスが見切れぬはずはなく……


「甘い」

「……甘い!」


 ザギリ、という軋り音が鳴った。

 横合いからの刃が鳥竜ワイバーンの体幹を串刺しに貫いて飛び、その体を墜とした。

 高速、無音で飛来したその刃の名は。


「慄き鳥。――“宙飛”」


 トロアは理解している。魔剣の声を聞いている。それが今に初めて名前を知って、手に取った魔剣であっても、例外はない。

 自ら飛行し、風を切って鳴く魔剣に真髄があるのだとすれば、それは特性を熟知する者の前でにある。

 無音のままに飛翔させる軌道。その剣の奥義は、先入観の意識外からの、暗殺。


 全速力で駆け出している。炎はまだトロアに追いつけない。

 鳥竜ワイバーンの墜落と同時に、必殺の射程に捉えることができる。

 そして聞いた。


「【――意志なき鏡 k e m k o w u k a s y 止まれ k e s t e a k 】」

詞術しじゅつ


 全てに適正を持つ、究極の冒険者。彼は詞術しじゅつの詠唱すらも早い。

 だが、焦点は何だ。何を仕掛けようとしている。

 限界までに圧縮した時間の内に、それを判断せねばならない。


 例えば、それは。


(先程にばらまいた、泥の波)


 銃ではなく、腐土太陽の泥を用いて攻撃を重ねていた。

 後方に置き去りにした膨大量の波の内に、泥の刃を。あるいは魔弾を潜ませていたのなら。突進する背後からそれを引き戻して当てることが、敵の狙いであるなら。


(そして)


 そして前方にはアルスがいる。背後を処すれば、必殺の銃撃がトロアを貫く。

 追い詰めたように見えて、今のこの位置が死地の盤面。

 故に魔剣を選ぶ。後ろ手の左にはファイマの護槍。

 右には、何よりも必殺で、遠くに届き、そして――全ての因縁の、始まりの魔剣。


 ヒレンジンゲンの光の魔剣。


(――父さん)


 距離が縮まる。天劫糾殺てんごうきゅうさつの暗黒の奈落を越えて、地獄の底を駆ける。

 あの時、父が死ぬその時に届かなかった手が、今ならば届く。

 鳥竜ワイバーンが墜ちていく。それは彼の後悔を取り戻すための、最後の。


(悔しかったよな、父さん。父さんが、小人レプラコーンじゃなかったなら。あと少しでも長い腕で、先に光の魔剣を取ることができたなら。沢山の魔剣を背負えるだけの力が、父さんにあったなら)


 後方よりの力術りきじゅつの射撃を、ファイマの護槍の自動迎撃で防ぐ。

 前方よりの銃弾には、光の魔剣の“とや”で合わせる。そしてアルスを切断する。

 最強の魔剣士には。おぞましきトロアには、それができる。


 後ろ手の護槍が動いた。飛来する武器が。


(俺にはあるんだ。父さん――)


 護槍の鎖を伝わる力の流れで気付く。飛来物の来る方向は後方ではなかった。

 自動迎撃は間に合わない。攻撃の方向は前方のアルスですらなく。


(横)


 体を捻ったその時には、遅すぎた。横合いからの銃撃がトロアを貫いて、一瞬で体内に根を張った。

 拷樹の種。それは死を齎す樹の魔弾であった。


「う……あ」


 壮絶な激痛に、限界まで酷使した膝は折れた。

 突進の勢いのままに、トロアは無様に地に叩きつけられ、倒れた。


 そして見た。

 トロアの右方に落ちるマスケット銃と……引き金にかかる、触手めいた細い鞭を。

 キヲの手。ルクノカに引き千切られた魔具の一つの話を、確かに聞いていたはずだった。その全長の半分は失われていなかったというのに。


(……力術りきじゅつは……何かを飛ばすためじゃ……ない……。最初から、銃を落としていた……俺の突進軌道に、正確……に……照準を、合わせるためだったのか……)


 強い。


 チックロラックの永久機械によって、あらゆるものが脱落してしまった今ですら、アルスは何も衰えてはいなかった。判断も思考も、長き戦いにおける対策と成長の繰り返しで積み重ねられた戦闘能力は、何一つ。

 あらゆる機能を保ったままに、不死身と化す魔具。

 彼はまさしく最強のままだ。残ったそれだけが、今の星馳せアルスを定義する唯一のものだった。


 人のままであったトロアには、及ばなかった。

 未来のことを考えていた。この先にある、自分の人生のことを。

 おぞましきトロアが積み上げた、血塗られた宿業を終わらせた後の何かを。

 ……トロアは弱々しく笑った。


「おれの……宝だ。おぞましき、トロア……」

「……違うさ。星馳せアルス」


 終わりを告げる死の激痛が、魔剣士を苛んでいる。

 全てが終わったら、ワイテの山で静かに暮らそう。誰も傷つけず、父の願った通りに生きていこう。

 おぞましきトロアとしての彼が終わった、その時には。


「魔剣は……お前のものじゃない……」


 誰からも奪わせず、誰からも奪わない。

 彼はその螺旋を断ち切る手段を知っている。

 きっと、父も最初から知っていたはずのことだった。


「俺のものでもない」


 最後の力で差し伸べた手に、まるで意志持つように慄き鳥が飛来して戻った。

 ……その若者は、魔剣の声を聞く才能があった。

 鳥。父の愛した剣技の名前。


 ――ああ。一緒に来てくれるのか。


「……俺の勝ちだ」


 そして名も無き山人ドワーフの巨体は、よろめいて落ちた。

 奈落の内へ――取り返した光の魔剣と、彼の集めた全ての魔剣とともに。

 天劫糾殺てんごうきゅうさつ。それは最初から、自決のための魔剣であった。


(……父さん。俺も……父さんのところに……)


 凍てついた地の奥底よりもなお深く暗い、地獄へ。

 そこにはきっと、おぞましき怪談の存在がいるに違いないから。


――――――――――――――――――――――――――――――


「緊急通信か」

「はい、ヒドウ様。マリ荒野の第五……」

「第五連絡塔だな。まずイスヤとミリーに兵を集めさせろ。竜族りゅうぞく警戒だ。即時の出撃があり得るが、俺の指示があるまで独断で動かさせるな。二十九官の連絡優先順は、ハーディ、ジェルキ、ロスクレイ、フリンスダ、ユカ、ダント。残りは問い合わせがあった順だ。人を集めて、手分けさせろ」

「しかし、何が起こったのかもまだ分かっていませんが……!?」

「分かるんだよ。最悪の事態だけはな」


 中枢議事堂の回廊を歩きながら、第二十卿、かすがいのヒドウは苦々しく思う。

 備えていた事態だ。だが、もはや


(……どっちが来た)


 通信室へと入るや否や、塔の人員に呼びかける。


「第二十卿ヒドウだ。状況を聞く」

〈すみ……すみません、晶波のユハフェムです。連絡手が死亡し、もう……私、私しかおりません! 観測手が星馳せアルスの飛来を確認して……はっ、ははは……この僅かな間でッ、み、皆……塔に乗り込まれて、あいつは――〉

「よくやったユハフェム。この通信を繋いだだけで二級戦功ものだ。危険があるならすぐに逃げろ。乗り込める大きさなら星馳せアルスで間違いないな」

〈う、うう……うあああッ!?〉

「おい。ユハフェム。おい」

〈…………〉


 長距離通信ラヂオの向こうからは、沈黙だけが返る。

 だが、違う。それは死の沈黙ではない。この向こう側に、沈黙する何者かがいる。


「……アルスか? かすがいのヒドウだ。お前の要求を聞く」

〈……………おれの〉


 その異質な声色に、体温がぞっと冷える様を感じた。

 ヒドウの知る星馳せアルスと、果たして同一であっただろうか。


〈おれの宝は、どこだ〉


 ――国。


 ヒドウは受話器を潰さんばかりに握った。

 もはやそうする他にない。あの最強の鳥竜ワイバーンと、戦う他にない。


「お前をぶっ殺す」


 それだけを告げて通話を切断する。

 鉱石を切り替え、同じ受話器で交換室に向かって叫ぶ。


「第二十卿ヒドウだ! すぐに議事堂全室に通話を繋げ! 緊急事態だ!」


 備えていた事態だ。

 この六合上覧りくごうじょうらんの規則をヒドウが誘導し、定めたその時から、彼は備えていた。


 絶対なるロスクレイが、最強の竜族りゅうぞくと当たる以前にそれを排除する“例の流れ”。

 そのブレス黄都こうとの全域を滅殺し得る冬のルクノカを相手には使えず、とうに敗退した星馳せアルスに対しては、もはや用いる意味すら残っていない一手。

 ……だが。一度そのように仕立てることができたのならば、合法的に。規則の通りに候補者の一名を抹殺することができる切札であった。


 試合に関係なく破壊行為を行う者。黄都こうとに敵対する者を、魔王自称者と看做す。

 勇者候補者の全員を以て、それを撃破すると定める。


「マリ荒野より星馳せアルスが接近! 勇者候補者に警報を発令! 繰り返すぞ!」


 星馳せアルス、対、黄都こうと


「勇者候補者を全員集めろ! ――敵は一羽! アルス!」

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