第7話 緊張

 ジョルダンと魔物が対峙たいじしてから数瞬すうしゅんが経過して、先に仕掛けたのは魔物であった。愚鈍ぐどんに見える外見からは想像できない加速度かそくどを持って、地をった。頭角とうかくによる攻撃かと思ったが、彼のやや前方にて前あしを踏ん張り半回転、鋭く身をよじると胸元へ向けて後あしによる一撃を繰り出した。しかしジョルダンはさっと左足を引き右はんに構え直して後方にわずかに飛び跳ねながら下から剣を振るい対応すると、魔物のひずめち合った。見れば蹄に傷はなく、また怯えた様子も無い。ジョルダンは数歩の距離を取り、始め同様に左半身で構えた。またしても仕掛けたのは魔物の方で、先程よりも近く、しかしジョルダンの間合いの僅かに外から半回転、後脚による攻撃を続けたが、彼は慌てた様子無く、先程より大きめに跳躍ちょうやくすると空中で半身を入れ替えつつ、上段に構えてからはらいを打った。二度目の攻防を制したのは、ジョルダンだった。骨に達した様に見えた一撃は、どうやらけんった様で、敵は向かって右の後脚を力なく引きらせていた。それでも後退の意思はない様で、三度みたび目の突進を繰り出した。しかし、やはり先程までの速度は出ない。ここでついにジョルダンが動いた。充分に魔物が近接した時、なめらかな動きで向かって左の側面に移り、直ぐ、体を密着みっちゃくさせる様にして右の頭角を左手で掴み、敵のあご下に構えた短剣を、一気に突き上げた。

 牛型の魔物は膝を曲げて倒れ、数回痙攣けいれんしたきり動かなくなった。森は静けさを取り戻していた。木影から「終わったのか」と声をかけると、「ああ、終わったぞ」と返ってきたので、腰を上げて魔物に近付いて行った。「そでに木くずがたくさん付いているぞ」と指摘されたので慌てて払って何でも無いふうを装い、手の平に当たる風を妙に冷たく感じていたら、ジョルダンはカラカラと笑っていた。その後、静かに手を合わせて魔物をおがんでから、ひたいの角を切り落として回収していたので、そこはやわらかいのかと尋ねると、「死んで魔力が流れなくなったからな」と返ってきた。色々と聞きたい事はあったが、一ず移動する、川へ向かうぞと言うので歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る