第5話 朝

 が覚めると日はまだのぼっていなかった。ふと見れば樹に寄りかかる様にしてこっくりと舟をぐジョルダンが見えた。任せておけとは良く言ったと思いながら体を起こすと「おう、起きたのか」とのたまった。あんたこそ今起きたのだろうと言えば馬鹿を言うなずっと起きていたぞと述べて欠伸あくびを出した。日が昇るまでまだ時間があるからねむれば良いと提案すると、では日が昇ったら起こしてくれと横になった。やれやれと思い毛布を投げ渡すと肩に掛けて寝息ねいきを立て始めた。川の水で顔を洗い、さてどうして暇を潰してやろうかと思考するも直ぐに朝食を作る事と決めた。幸いにして火種は消さぬ様に管理してくれていた様であり、薪も充分にった。自分の飯盒はんごうに水を入れて米を研いで薪をべる。火力を調節しながら送風していると白米の炊ける良い香りがただよった。

 そろそろ炊き上がろうかという時、東の空を見上げればここが森の中であると思い出した。日が昇るまで眠ると言うのは森に日の差す南中なんちゅう頃まで眠ると言う事かと思索しさくするも、流石に言葉のあやであって日の出の頃に起こせば良かろうと思い至り、彼を起こす事にした。軽く肩をすってやれば、ん、すまんな、とうめき、鈍々のろのろと起き上がってひたいに手をやりかぶりを振った。米が炊けているから食えと言えば、お前の米かと聞くので「そうだ」と答えたら「そうか」と言った。昨日きのうと同様に飯盒のふたを皿代わりとして、分配ぶんぱいした米飯べいはんと持参したぬか漬けを適量よそったら良い漬かり具合だと言って食っていた。

 朝食が済んだので、では出発かと尋ねれば待てと言い、結界の紙をがし始めた。えらく綺麗きれいがれるものだなと言えば、そういう風にできているのだと返ってきた。

 唐突とうとつにジョルダンが、「魔物だ」と言った。昨日よりもやや大きい獣道を、ジョルダンを先頭にして歩いていた時の事だった。ジョルダンがなたを持ち、彼の短剣は代わりに預かっていた。「思った通りこの獣道は魔物の通路だったか」とのつぶやきを耳にして、今日はがんとして先頭を譲らなかった事に合点がてんがいった。「こちらが風下かざしもだ、このままやり過ごす」と言うので「わかった」とつとめて低い声で返答し、彼の脇から前方をのぞき見た。牛型の魔物である。頭部には控えめながらつのを有し、脂艶あぶらつやのある黒色こくしょくの短い体毛で全身をおおい、しかし首の周囲には白色はくしょくの体毛を豊かにたくわえていた。以前に村の近くまで迷い出てきた一頭をなべかま武装ぶそうした村の男衆おとこしゅう総出そうでで追い返したのを確認した事があった。当時は怪我けが人も出たさわぎとなったのを記憶している。気が付かれればあわや戦闘かときもを冷やしたが奥へ去って行くのを認めて吐息といきれた。怖かったかと意地の悪い質問が飛んで来たので「あの程度、一ひねりだ」と強がりを述べた。

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