第4話 五芒星の結界

 ジョルダンが戻って来たので、こちらはとりでごとく頑丈なかまどを完成させたが、薪の方はどうかと聞けば、上々じょうじょうであるが一つ問題がある、ふいご代わりに竹筒たけづつを探したが見当たらなかった、火起こしに手間取るからしまったと言うので、安心せよ風の魔法が使えるぞと告白すればまた驚いていた。気分を良くしたので彼の抱えていた薪を奪い取り、薪を組んでやる事にした。首ほどの太さの丸太が本あったので、これは使い物にならんぞと言えば、それはわきに置いておいてくれと言う。なんだと思いながらも石積みのかまどに落ち葉を敷き、小枝を下方に大枝おおえだを上方に組んだ。最近は晴天が続いていたので、地に落ちていた葉や枝は良く乾燥していて直ぐに着火した。風の魔法で送風しつつ「ジョルダンは魔法を使えないのか」と尋ねてみたが、「俺は全然駄目なんだよ」と答えた。魔法を使えない者の方が少数派だと聞いていて、そう言うやつらははずかしにするのをよく目にしたが、ジョルダンはカラカラと笑っているから、やはり変な奴だとなかば感心していた。

 充分に火が起きたところで今日の食料はジョルダンが持つと言うのでほどこしは必要ないぞと告げれば、自分だけ肉を食うのは心苦しいから気にするなと言い、自らの右腰の飯盒はんごうに川の水を入れて手早く米を研ぎ、背中の袋から硬そうな干し肉と小刀を出して肉をこそいで中に入れていった。米なら持参しているのだから自分はこれを食うと伝えたが、非常用に残しておくのだと答えた。非常用には乾飯ほしいいがあるから平気だと言えばそれは更に非常の時に食うんだよと言われた。

 久々に食べた肉は美味うまかった。日が暮れかっていたので、これからどうするのかと問えばここで野営するから結界を張ると言う。魔法を使えないのではなかったのか、流石さすがに結界は張れんぞと述べれば、心配いらん、これがあると言いながら袋から数枚の紙を出して見せた。これはどう使うのかと聞くと、五芒星ごぼうせいくいを打ち貼り付けるのだと言って、先程わきに置いた首程の木々を手に取って削り、杭を作り始めた。紙を見れば何やら方陣ほうじんことかれていた。眉をしかめて解読かいどくを試みるもさっぱりで、「これはジョルダンが描いたのか」と聞けば、いや描いたのも魔力を込めたのも師匠だと答えた。なるほど魔力にはこんな使い道もあるのかと感心していたら、できたぞと声がして、このの周りに杭を打つ、と述べてからやや歩いてはそれらを突き刺し、紙を貼っていった。最後に中央の細い樹に紙を貼って、完成だと言った。突然光に包まれるような事は無く、何も変わらぬ様に思えたのでそう伝えれば、この中に居れば気配が希薄になるし悪意を持つモノは入る事ができぬのだと言った。試しに結界の外へ出てみれば、ジョルダンの存在がまるで道端の石の如く、気に掛からない心持ちになった。なるほどこれならば良く眠れるなと言うと、それでも見張りは必要なので任せておけと告げてそこそこに上等な毛布をほおってきた。素直に従うのはしゃくに触るが、日も暮れてややち、平時いつもなら寝支度を整えている時間であるからまぶたが重たくなってきていたので、早朝になれば勝手に起きるからと伝えて毛布にくるまり横になった。

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