第3話 約束

 森の中はさらに薄暗かったが先程発見した獣道けものみち辿たどっていたので、人一人分の広さの道とは言え、歩く事にはそれほどの苦労をしていなかった。時折ときおり甲高い鳴き声や低いうなり声や遠吠えのようなものが聞こえるが、魔物とは出会わず、持参した鉈はもっぱら道々の木々を切り払っていた。後ろからお嬢さんは体力があるなと感心されたが、毎日畑仕事に精を出しているのだから当然である、それにお嬢さんでは無い、リンネという名があるのだと告げた。静かになったのでなんだまた笑ってでもいるのかとちらと後ろを見やれば、何やら真顔だったが直ぐにいつものへらっとした顔に戻り年はいくつだと聞くので、女に年を聞くのはよせと答えれば「なんだ一丁前の口を聞くなあ」とまた笑っていたから、「おっさんは何歳なんだ」と聞くと二十七だと笑ったままで返してきた。

 小川のたもとは少しひらけていた。どうだ、目的の草はあったかと男に問えば、「リンネは何を聞いていたんだ、清流の有る森の中央付近に生えるものだと言ったと思うが」と返された。なんだ普通薬草は川辺かわべに生えるものだろうと述べれば、リンネは物知りだな、誰に習ったんだ、村に来た冒険者からだ、とやり取りを繰り返した。では調薬ちょうやくは知っているかと聞かれたので素直に知らぬと言えば、村に帰れば教えてやろうと約束をした。高揚こうようを悟られるのもしゃくなので「そうか、頼む」と小さく答えたらカラカラと笑っていた。その背負い袋には何が入っているのかと問われたので、漬物と火打ち石と乾飯ほしいいであると答えたらでは飯にするから火をおこそうという事になった。ジョルダンが「まき代わりに木をってくるから鉈を貸してくれ、代わりにこの剣は置いて行く、そのあいだに河原の石でかまどを作っておいてくれ」と言うので素直に従った。

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