第2話 待ち伏せ

 帰宅して直ぐに準備を開始した。雑穀ざっこくいてあったのでぬか漬けとともにかき込み腹ごしらえをして残りを乾燥させておいた。飯盒はんごうに貴重な白米を入れ、しっかりと閉じて右腰にげ、神棚かみだなに納めておいた小刀こがたな腰裏こしうらに、畑仕事に使うなたを左腰に装備した。糠床ぬかどこから適当な野菜を見つくろい切って箱に詰め、火打ち石と共に背負い袋に入れた。雑穀はいま湿気しけていたのだが幸いにも風の魔法を使えるので送風し乾燥させて箱に入れ、背負い袋に詰めて準備を完了した。くだんの森は自宅からやや行った丘から展望できるのでそこにじん取る事と決めて、簡単な書き置きを残して家を出た。

 丘に到着してから彼の出発時刻を知らぬ事を思い出したが、日暮ひぐれまで待機しても来ぬなら一時帰宅すれば良かろうと思い、ただぼんやり過ごしていれば、それほど時間を置かずに村の方から足音が聞こえた。「おっさん、あの森へ行くんだろ、私も連れて行きな」と声を掛ければ「あの森は魔物が出るんだろう、帰りな」と言う。ずいぶんと口調が変わったものだと思い指摘してきしてみればあれは余所行きの話し方だと答えてまたカラカラと笑った。装備は整えて来たぞと胸を張ればそれを扱える腕があるのかと呆れ顔で言うから踏み込んで敵の腹に手刀を入れた。相手はよろいこそ着ていないが外見には肉付きが良いので大事だいじにはいたらぬだろうと思い大変に全力で打った。鈍い音が響きどうだ中々なかなかのものだろうとしたり顔で言うてやろうと期待していたが、実際には、手首をつかまれ乾いた音がしたきりで、「ほう、すじが良いな」としたり顔になったのはあちらであった。手を離してまたカラカラと笑う男を見れば半身はんみにしていた姿勢をゆっくり正対せいたいに戻すところであった。踏み込みを見て間髪かんぱつ置かずに半身に受けた事からただの木偶でくぼうでは無いと気付いた。雲行きが怪しくなったと消沈していると「家族が心配するだろう、帰りな」というので、「家族はおらん」と短く答えると、そうか、と言った後、「それだけ打てれば良いだろう、付いて来な」と言って歩き始めた。

 道すがら、誰に教わったのかと尋ねられたので以前に村へ来た冒険者からだと言うとどのくらいの期間かと聞くので三日だけだと素直に答えた。男は歩みを止めて振り返り、大変に驚いた様子であったが、「そうか、やはり筋が良い」とつぶやいてカラカラと笑うとまた歩き出した。

 森の入り口は薄暗く何かしらの鳴き声が木々のさざめきと共に聞こえていた。これほど近寄ったのが初めてであったので萎縮いしゅくしつつ観察していれば「おや、ビビったのか」と声がしたので「ビビっとらんわ」と言ってにらみつけてやった。

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