第3話

 おはよう、という口パクと手を振り新しい本を読んでいる彼女に挨拶をする。あちらも同じように手を振り返す。今日もいつも通り。しかし彼女の容姿、というより髪型が変わっていた。いつもは髪を縛り、うなじと耳を出すような型だったが今日は隠すような型になっている。


 「髪型変えたんだ」


 「うん。なんとなくね。こっちもいいかなって」


とてもいい。僕は心の中でグッドポーズをした。


 「変じゃ・・・・・・ない?」


そう書いてあるノートに顔を隠しながら聞いてくる。駄目だ。可愛すぎる。


 「全然、変じゃないよ!むしろ可愛い」


思わず大きい声を出してしまい、偶然後ろにいた司書さんに咳払いで注意された。そんな僕を見て、彼女はおかしそうに笑う。楽しそうな姿を見てこちらも笑みをこぼす。そのまま二人で声を出さずに、静かに幸せな時間を過ごした。

 

 唐突に思い出す。


 「そういえば、この間病院で君を見かけたんだけど、もう大丈夫なの?」


 「ただの風邪だよ」


そっけなく、ただそれだけ書いてある。悟られないように、わざとそうしているかのように感じる。てっきり、どこで見かけたの?や、いつのこと?と聞くのだとばかり思っていた。隠しているものをわざわざ覗く必要はない。僕は彼女に踏み込めるような関係ではないのだ。

 

 それでこの話は終わった。後は話もせず、黙々とお互いのするべきことをした。いつものように別れ、帰り道に思い出す。


 「あ、名前を聞き忘れた」


まあ、いい。次に聞けばいいだろう。いつだって彼女は図書館のあの場所にいるのだから。夏なだけあって、陽はまだ長いはずなのに、なぜか日陰の多い道を僕は歩いた。


そして、それから彼女は図書館に来ることはなかった。

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