第291話 それから三年後15


「修学旅行のはずだったんだけど」


 とは、今更な一義。


 戻りようが無いため、どうにもならないが。


 武士は、城下町で名のある御手らしく、大名が興味を持って主催。


 結果、賭け試合となった。


 一義は、順当な和刀。


 武士の方は、野太刀だ。


 和刀より少し刀身が長い。


 先制を取れる強みがあるが、その長さと重さを操るには、一般の刀より技術が要る。


 無論、未熟である…………などと楽観論は持ち合わせていない一義ではあっても。


 観客は大勢。


 倍率は、武士の方が優勢。


 とは云っても、一義も鬼を単独で倒した、立志伝の持ち主だ。


 然程の差は、出なかったが。


 大名や将、他の武士たちも興味を持って、観戦していた。


「誰か代わってくれないかな?」


 心底そう思う。


 とはいえ、時間は前にしか進まない。


 魔術なら、また別だろう。


「とのことで」


 試合開始のお膳立て。


「両者宜しいか?」


「六根清浄」


「構わんぞ」


 刀を構える。


「では」


 とそこで一息吸って、


「始め!」


 と開始の合図。


 銅鑼が鳴った。


 先手は武士。


 薙ぎ。


 十字に受け止める。


 一義の足払い。


 同じ足で、止められる。


 ギチギチ、と、刀が、鍔迫り合う。


 それも一時的。


 一義は脱力した。


 剣が弾かれる。


 そこから、軌道が変わる。


 飛燕の剣。


 適確かつ最適。


 なお変幻自在。


 先の鍔迫り合いで、巻き技が通じない事は、身に染みていた。


 一閃。


 二閃。


 三閃。


 器用かつ最速で、振るわれる剣。


「くっ」


 こうなると、振り回しで、野太刀が不利だが、武士は、キチンと一義に付いてきていた。


「やりますねぇ」


「そっちこそな」


 皮肉の応酬。


 丁々発止。


「じゃ、そろそろ一段上げますよ?」


「っ?」


 超高速で、刀を振るう。


「くっ!」


 歯ぎしりする武士。


「ほう」


 と観客も評価していた。


 一般人は、ヤジやら応援やらで、騒いでいたが。


 キキン、と、音が鳴る。


 和刀と野太刀のデュオだ。


「さて」


 トントン、と、刀の背で、肩を叩く一義。


 間合いは、広がっていた。


 そうでも無ければ、挑発は出来ないだろう。


「あと一合ってところかな?」


「何?」


「ま、種も仕掛けもある魔法だよ」


「魔術か!」


「立派な剣術です」


 そこは譲れなかった。


「参る」


 武士が距離を詰めた。


 次の瞬間、


「――――」


 一義の姿が………………かき消えた。


 気付けば、交差している、一義と武士。


 後者の野太刀が、半ばで折れていた。


「破剣」


 ポツリと呟く。


 剣に負荷をかけて、砕く剣術。


 何も、


「人身を切るだけが剣術ではない」


 と云う事だ。


「これもまた勉強って事で」


 一義は、謳うように皮肉った。


 決着だ。

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