第292話 それから三年後16


 試合後の事。


「格好良かったです!」


 ステファニーが言った。


「すごい……です……」


 タバサが言った。


「凄かったよ先生!」


 アーシュラが言った。


「あう。凄い」


 ヴァレンタインが言った。


「素晴らしい御業ですわ」


 ウェンディが言った。


「…………」


 ザンティピーは変わらず寡黙だが双眸には憧憬が。


「かっこよかったぜ! 俺惚れちまった!」


 イヴォンヌが言った。


「ま、こうなりますよね」


 と、姫々が、締めた。


 元々の好男子性に、武力が乗れば、まぁ乙女の心には刺さる物だ。


「先生」


「先生」


「先生」


 紅潮して、一義に群がる生徒たち。


 サラリ、と、恋の波にさらわれた、二枚貝の吐く夢。


「先生大好き」


 は、一種のプロパガンダになる。


「さて」


 どうしたものか、という話だ。


 修学旅行の予定は、消化した。


 他にも巡るはずだったが、一義の試合が、思いのほか脚を引っ張ったため、完全な消化とはいかなかったが、日程を考えれば、帰らざるを得ないところ。


 そんなわけで、馬車に乗って帰宅。


「なあなあ!」


 とイヴォンヌ。


「花々先生と一義先生は、どっちが強いんだ?」


 花々に憧れているイヴォンヌなら、そう聞くだろう。


「花々」


 と一義が即答し、


「旦那様」


 と花々が即答する。


 一般的に言えば、ケースバイケースだが。


「最強夫婦っすね!」


 イヴォンヌは、眼をキラキラさせる。


「夫婦か。いい単語だね」


 花々が、はにかんだ。


「夢に浸るのは自由だけどさ」


 一義としては、皮肉気に沈鬱さを軽んじる……そんな性格を好んで、花々を維持している。


 そのため口の滑らかさは、堪忍を超える事がない。


「先生。私とお付き合いしてください」


「嫌」


「…………」


「駄目」


「えと……側室……?」


「却下」


「華なら蕾!」


「だからどうした」


「あう。妾で」


「もっと自分を大事にして」


「わたくしの故郷に連れて行っても良いのですわよ?」


「まぁ機会があればね」


「俺が一義先生と結婚したら花々先生と一緒にいられるな!」


「花々と結婚して良いよ」


「それもどうかなぁ」


 最後のものは、花々の談。


「ハーレムだね」


 音々が、本質を突いた。


「まぁご主人様は格好良いので」


 四年の時間は、異性への憧れが、一義に集中する事になる。


 男一人で、しかも美男子と来る。


 惚れない乙女も、居はしないだろう。


「むぅ」


 半眼で、ゼルダが睨んでいた。


 教師としての立場か。


 あるいは、個人的な怨恨か。


「あまり意義ある考察でもないね」


 とのことで、乙女一同を軽くあしらう一義であった。


 エルフ特有の長寿。


 外見年齢は、生徒たちより少し年上程度だが、精神年齢の方は以下略。


 摩耗しているにしては、時折無邪気に振る舞うが、


「そこもご主人様の愛おしいところ」


 とは姫々の談。


「ライバルが一気に増えたね!」


 音々が、グッとサムズアップ。


「これからまた試練が起きそうだ」


 花々もまた、サムズアップで応えた。

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