第290話 それから三年後14


「気付いてやれなかったのは不覚でしたね」


 酒場での事。


 夜中であり、生徒たちは、大部屋で夢を共有している。


 ここからは大人の時間だ。


 ゼルダは、意気消沈。


 一義も似たような感情は持つ。


 マジカルカウンターは、対岸の火事ではないのだ。


「とりあえず音々はタバサを留意してて」


「あいあいさー!」


 ジュースを飲みながら音々。


「それにしても」


 と酒を呑みながらゼルダ。


「音々先生の魔術は多彩ですね」


「色々とね」


「何処でソレだけの術を?」


「お兄ちゃんおかげ!」


「一義先生の……」


「まぁチョチョイとね」


 苦笑するほかない一義。


 ホットミルクを、ゆったり飲む。


 そこに、


「おい」


 と声をかけられた。


「?」


 一義は意識を探って、真珠の瞳で、声の先を見やる。


 サムライがいた。


 武士。


 剣士。


 和服の腰に、帯剣している。


 和刀だ。


「白い髪と瞳。褐色の肌」


 ジロジロと、一義を見やる武士。


「お前か?」


「何がでしょ?」


「昼間に鬼を退治したエルフってのは」


「ですね」


 謙遜する必要もない些事だ。


 が、武士は嬉しそうだった。


 チョンチョン、と、柄頭を指先で打つ。


「俺とお前。どっちが強いか興味ないか?」


「当方、力は嫌いな物で」


 ミルクを飲む。


「それだけ練られた肉体でか?」


 観察眼はあるらしい。


 外見年齢が少年であるため、見逃されがちだが、一義の肉体は、絶え間ない修練の末に辿り着ける境地だ。


 けれども、その辺の侮りとは、縁が無いらしい。


 見れば体に、一本の芯が通っている。


強者つわものかな?」


「自負はしているな」


 ニヤリと笑う武士。


「表に出ろ」


「せめて飲みの間くらいは待っててよ」


 ミルクを飲みながら、健全な提案。


「ソレも然りだな」


 案外、物わかりも良いらしい。


 ジュースを注文して、


「ここは俺が受け持つ」


 そんな太っ腹なことを言い出す。


「わお」


 と一義。


「姉ちゃんたちは可愛いな」


「まぁ」


「至極」


「当然」


「え? 小生もですか?」


 かしまし娘は、あっさり肯定。


 ゼルダが、一人困惑していた。


「エルフだろ」


 見りゃ分かるでしょうよ。


 とは言わない。


「酒は飲まんのか?」


「ま、一種のポリシーでして」


 特に意味は無い。


「まぁ酔った剣を斬っても無粋か」


「ですね」


 それには、一義も肯定的。


「人斬りですか」


「まぁそうだな」


「賞金首?」


「いんや?」


 聞くに、正々堂々の試合で、切り伏せてきたとの事。


 一義の話題が、城下町を駆け巡ったため、耳に入ったのだろう。

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