第289話 それから三年後13


 次の日。


「今日はお世話になります」


 そんなわけで、城下町に移って、城の中に入っていった。


 武士が、城内見学の案内人とされているが、半分は監視と掣肘のためだろう。


 大名に、もしもの事があれば、城下は混乱に陥る。


 まさか座学庵の生徒が、テロリズムを犯すとも思えないが、警戒するのは至極真っ当でもあった。


「こちらが吉仲様の愛する和刀にございます」


 瑠璃丸。


 そういう銘の刀だ。


「ふむ」


 と、姫々が観察する。


「再現できる?」


「とりあえずは」


「ちょっと出して貰える?」


 有り得ない事を、一義が言った。


「どうぞ」


 ハンマースペースから、瑠璃丸を取り出す。


 握って、チャキッと謳わせる。


「うん。良い刀だ」


「瑠璃丸ですか?」


「拵えは同じだね」


 太刀も同一だ。


 姫々が、維持を取り止めて、スッ、と、消え去る、瑠璃丸のパーフェクトコピー。


 南無。


 城の建築。


 その技術。


 過程。


 歴史。


 それらを語りながら、天守閣を上っていく。


「立派な城ですね」


「恐縮です」


 武士は、苦笑した。


 天守閣の下半分を案内されて、使用人や側室とすれ違いながら、和の国の文化を取り込む。


 修学旅行らしい予定であった。


「では戻りましょうか」


 さすがに、上方にはいけないらしい。


 当たり前だが。


 誰とも知れない輩を、大名と引き合わせる事も無いだろう。


 城下町に戻る。


「案内御苦労様でした」


 慇懃に、ゼルダが一礼する。


「人が集まれば、あんなに大きいお城が建てられるんだねぇ」


 アーシュラが、感慨深げだ。


「わたくしも家を建てるならこれくらいは欲しいですわね」


 ウェンディは、無茶を言う。


「…………」


 タバサの顔は、青みがかっていた。


「大丈夫ですか?」


 ゼルダが、心配する。


 実のところ、大丈夫じゃ無い。


 一番、魔術の不安定なタバサだ。


 今日も早朝から、魔術の訓練をしていた。


 薬の舌下投与。


 現実と幻覚。


 リアリティとトランス。


 その境界が、あやふやになる。


 そこに被害妄想が乗れば、


「――――」


 マジカルカウンターが、発動する。


 なお厄介なのは、タバサが恐れている対象が、銃である事。


 結果、マスケット銃を構えた鬼が、現われる。


 装填はどうしているのか?


 コスモガン並みに、意味不明な乱射だった。


 とはいえ、銃弾は、何処にも撃たれなかったが。


 既に、聡く覚えていた音々の斥力障壁が、鬼を包む。


 封じ込める形で。


 パニックは起きたが、実質的被害は、無いに等しい。


 斥力が内方に向けて展開される以上、鬼の銃弾は、斥力で弾かれ自分の身を削る。


「――――」


 鬼の悲鳴。


 一義は、迷わず結界内に入った。


 斥力が内側に働いている以上、


「中から外への干渉」


 は出来ないが、


「外から中への干渉」


 は出来る。


 袖に隠した暗器。


 毒を塗ったクナイが投擲され、鬼の瞳を潰す。


 更に加速。


 斥力場の展開。


 波動。


 分厚い筋肉と金剛を貫いて、衝撃が伝播する。


「――――」


 ハートブレイク。


 心臓が破壊されて、鬼は死に沈む。


 タバサ当人は、花々が気絶させた。


 結果、大鬼も消える。


 一義レベルになると、眠っていても魔術行使が可能だが、さすがに人間の少女に至れる境地でもない。


 素手で鬼を制する。


 気付けば城下町の人間……その酒を呑む理由になるのだった。

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