第255話 傷心者と小心者09


「別段語るほどでもないんだけど……」


 と注釈。


 一義はパチンと指を鳴らした。


 斥力の発生。


 ステファニーの教科書が宙に跳び上がる。


「こんな感じだね」


「?」


 生徒には分かりづらいだろうが事実でもある。


「パワーイメージの体外投射。これを魔術という」


「体外投射ですか?」


 ステファニーの質問。


「にゃむ……」


 とタバサ。


「…………」


 ザンティピーは何を考えているか分からない。


「何やってるんだろうね僕は」


 ある種のテーゼだろう。


「そも君たちは魔術を覚えたいの?」


 根本的な問い。


 全員が、


「覚えたい」


 と申した。


「じゃマジカルカウンターから説明しよっか」


 マジカルカウンター。


 先日一義が出くわした現象。


 ついでにトラウマ。


 月子を失った要因でもある。


「マジカルカウンター?」


「あう」


「…………」


「何ソレ?」


 各々疑問ではあるらしい。


「トランス状態の暴走」


「並びに暴想」


「自殺魔術!」


「故にマジカルカウンターと呼ばれるんだよ」


 別に魔術を教えるだけなら一人で十分だ。


 問題は、


「マジカルカウンターが発生した場合の対処」


 に尽きる。


「とりあえずトランス状態を恒常化するところからだね」


「出来ますの?」


「別に必要も無いけどね」


 一義は肩をすくめた。


 実際にその通りだ。


 魔術を覚えて、


「だから何?」


 で済んでしまう。


「トランス状態だよ」


「ですわ」


「その程度……!」


 アーシュラ。


 ウェンディ。


 イヴォンヌ。


 それぞれに思うところはあるらしい。


「というわけで」


 とゼルダが主導権を握る。


「薬は調達されていますよね?」


「です」


「……です」


「だよ!」


「あう」


「ですわ」


「…………」


「だな」


 そんなわけでトランス状態への変異性。


 その獲得を授業と為す。


「子どもが薬を使うのは良いの?」


 今更だ。


「一応座学庵では基本方針ですけど」


「でっか」


 嘆息する一義だった。


「そもそもトランス状態を維持だの変換だのと言っている時点でどうかしている」


 との意見。


「獣が走ることを疑問に思わない」


「鳥が飛ぶことを疑問に思わない」


 似たような表現で、


「魔術師はトランス状態への意識切り替えを疑問に思わない」


 と言える。


 一義は、


「ライティングの維持が五秒」


 という劣等生の中の劣等生ではあったが。

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