第211話 三人の姫は16
そんなこんなで一義とクイーンが魔術決闘をすることになった。
それは城の者に驚愕を呼んだ。
鉄の国の皇帝も見物客の一人。
「どちらがよりナタリア殿下の魔術講師に相応しいか?」
そを決めるための決闘だった。
「何でこうなった?」
一義は自問する。
無論クイーンに絡んだからだが、
「何もここまで大事にせねども」
とも思う。
一応勝算はある。
というか負ける気が一向にしない。
単純なペーパーテストでなら勝てる気はしないが、こと戦闘という極限化において一義ほど修羅場を潜ってきている生命もそうはいないだろう。
エルフ。
そして和の国の出身。
カウンターインテリジェンスの使命は未だ胸に。
決闘で勝敗を決めるのならば、
「別段魔術に拘る必要も無い」
のが一義の理論だ。
「魔術の強力さ」
がイコールで、
「自身の強さ」
と勘違いしている手合いは多い。
間違った解釈では無いが何事にも例外というものは存在する。
ことソにおいて一義はその模範的な例外だったろう。
先述したが一義は、
「一向に負ける気がしない」
のだから。
それはかしまし娘とアイリーンとルイズにも共有する観念だ。
一義の強さ。
あるいは不条理さ。
その突き抜けた戦力が闘争という環境においてどれだけの威力を誇るのか?
それを身に染みて知っているのだ。
「キャパが残念無念なあなたが私と魔術決闘が成立するんですか?」
皮肉気なクイーン。
キャパシティだけを見れば事実ではある。
奇襲が通用しない決闘だ。
であれば正面から立ち向かうより他は無い。
その上で自身の数万倍もキャパシティのある魔術師と戦おうというのだ。
「頭か心がどうかしている」
そうとられても決して不自然では無い。
一義が勝てばジャイアントキリングとなる。
「どうやって穏便に済ませるか?」
それが一義の命題だった。
特に相手の戦力は把握しない。
それ以前の問題だ。
あらゆる可能性を想定し、最悪を覆す判断力。
一義の持つ最たる能力だ。
であるから銃力であろうと、
「誰かに負ける」
と言うことをしてこなかったのだから。
そして決闘が始まる。
拡声の魔術で開始の合いの手が響いた。
「消し炭にしてあげます!」
クイーンは獰猛な笑みを浮かべて魔術を行使した。
「灼熱の伯爵ベロンの名を借りて大津波を起こせ。フレイムタイダルウェーブ!」
灼熱の津波。
その魔術名通りに現象が起きた。
炎が奔流となって一義を襲う。
灼熱が酸素を奪い気温を高める。
生きてはいられない状況だ。
一義がそこに居れば……ではあるが。
炎が収まるとそこには一義の痕跡が欠片も無かった。
「骨すら燃え尽きましたか」
クイーンはそう受け取った。
誤解ではあるが。
「どっちを向いている?」
クイーンの背後でそんな声が発生した。
クイーンの知っている声だ。
即ち……一義。
毎度毎度のことだが魔術による視界の狭まりを利用して空中高く跳び上がり相手の背後に回る。
一義の必勝パターンであった。
「灼熱の――」
呪文を唱えようとしたクイーンだったが、その言が完成するより先に一義の魔術が具現する。
一義の魔術……銃力によって加速したクイーンは決闘場の天井まで放られた。
そして天井近くでポンポンとボールのように跳ねては落ち落ちては跳ねを繰り返す。
「な、何ですの!」
ちょうどリフティングの様に高高度の座標で跳ねるクイーンだった。
「あー、そこから落ちたら確実に死ぬね」
一義は特に感慨も無く言ってのける。
その通りではあるのだ。
決闘場の天井は二十メートルを超える。
仮に一義の魔術行使がなければ自然落下でそのまま位置エネルギーが衝撃に換算されて肉体を破壊するだろう。
「参ったって言えば助けてあげるけど?」
「参りました!」
クイーンは即決で言った。
というか他に言い様もないのだが。
そしてクイーンは自然落下する。
「嘘ぉぉぉっ!」
悲鳴を上げながら落ちるクイーンを一義はお姫様抱っこで受け止める。
「っ!」
一義の腕に抱きとめられたクイーンはボッと顔を赤くする。
お姫様抱っこ。
なお一義は絶世の美少年だ。
「そゆところは愛らしいね」
「あい……らしい……?」
「可愛いって事」
クスッと一義は笑った。
その腕に抱かれたクイーンがどういう感情を持つか?
一義のハーレムたちだけはその結果を覚っていた。
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