第210話 三人の姫は15


「とりあえず」


 と一義は言う。


「そげな非効率的なことをせんでも」


「ナタリア殿下のキャパでならコレが限界です!」


「それは否定しない」


「だいたいあなたは何ですか!」


「特に何者でも無いよ。単なる食客」


 そうには違いない。


「一応ナタリアへの魔術指導を命じられている身分ではあるけどね」


「私の仕事です!」


「それも知ってる」


 特に激昂もしない。


 一義にしてみれば、


「今更確認することでもないだろう」


 が本音だ。


「くあ」


 と欠伸。


「私の講師としての能力があなたより劣ると?」


「そこまでは言わないけどね」


「少なくともその側面が有ることを認める発言ですね」


「まぁね」


 厚顔故の返事ではあった。


「ではあなたはもっと効率の良い魔術の使い方をナタリアに教えられると?」


「ナタリアに才能があればの話だけどねん」


 クルクルと立てた指で円をなぞる。


「そもそもあなたは何者です」


「どこにでもいる東夷だよ」


「東夷なのは知っています」


 今更だ。


「私の講義を否定すると言うことは相応の魔術師なのでしょうね?」


「うんにゃ?」


 否定。


 というか肯定が出来ない。


「才能の無さで言えばナタリアを超える劣等生だよ?」


 事実の一側面ではある。


「たとえばクイーンはライティングをどれだけ維持できる?」


「五日です」


「ふむ」


 優秀な魔術師の証だ。


「ナタリア殿下の維持時間は知ってる?」


「六時間でしょう」


「然りだね」


「それで私を否定するあなたは?」


「五秒」


「五秒!?」


 さすがに目を剥くクイーンだった。


 茶色の瞳は、


「何だコイツは!」


 と明確に語っている。


 当然だ。


 謀っているのか疑問に思う程度に規格外なのだから。


「冗談では無く?」


「別に冗談でも良いけど事実なんだよねぇ~」


 ケラケラと一義は笑った。


「それにしてもライティングの維持時間が五秒って……」


 信じられないのも無理はない。


 当人は特に気にしていないが。


「仮にそれが事実として……」


 クイーンは咳払いをする。


「その才能の無いあなたが何ゆえ私の講義にケチを付けますか」


 その通りである。


 普通なら黙っている場面である。


 というか本当なら黙ったままでいるはずだったのだ。


 少し話題に乗ってしまったのが運の尽きと言ったところだろう。


 気にする一義でもないが。


「劣等生の気持ちは劣等生にしか分からないから……じゃ駄目?」


「ライティングの維持時間が五秒のあなたに他者を教える資格はないでしょう?」


「それを言われると辛いんだけどね」


「なら黙ってなさい」


 切り捨てるクイーンに、


「待った」


 と拾ったのはナタリア。


「殿下?」


 クイーンが首を傾げる。


「一応一義の言葉も聞きたいかな」


 そんなことを言ってのける。


「殿下!」


 クイーンが激昂した。


「こんな無能に習わずとも私が魔術を教えて差し上げます!」


「うん」


 それは否定しない。


 が、ナタリアは言う。


「でも銃力にも多分一理はあるかも」


「過大評価だねぇ」


 一義は紅茶を飲んで苦笑い。


「じゅうりょく?」


 どうやらクイーンは知らないらしい。


 もっとも誇ることでもないが。


「ナタリア殿下は私よりこちらの東夷をとるのですか?」


「そこまでは言わないけど」


 チラリとナタリアは一義を見やる。


 その光景がクイーンには面白くない。


「では東夷」


「一義って名前なんだけど」


「一義」


「何でがしょ?」


「決闘なさい」


 面倒事だった。

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