第177話 嗚呼、青春の日々18
そして次の日。
その朝。
「では私たちはコレで……」
ディアナがそう言った。
「…………」
キザイアはペコリと一礼。
「またね」
アイオンは爽やかに。
「むぅ……ロイヤルナイト……」
ジャスミンは惜しげに。
「何で私まで」
ジンジャーはアイオンに拉致られていた。
まだこの場にいるため正確ではないがランナー車が発進すれば拉致に相当するだろう。
ちなみにこの提案は一義のものだ。
雷帝アイオン。
その居る場は基本的に王都である。
王都ミスト。
ディアナの城のある土地。
であれば優秀な講師であるアイオンに一日中指導して貰えるようにするにはジンジャーをランナー車に乗せるのは無意義では無い。
実際にジンジャーは静電気程度の電流は扱える。
アイオンについて回れば勘所も掴めるだろうという一義の判断である。
「さよーならー」
ヒラヒラとハンカチを振る一義。
「私はぁー!」
そんな悲鳴を引きずるようにランナー車は発進した。
ジンジャーの声がドップラー効果で消えていく。
「私はぁ」
「私はぁ……」
「私はぁ…………」
「うむ。良し」
力強く頷く一義に、
「何が?」
残ったハーレムの女の子たちが無言で心中ツッコんだ。
別段一義に悪気は無い。
故にややこしい。
とりあえずハーレムの慕情を覚らないほど鈍感でも無いが、
「一義だからなぁ」
というのが大方の諦観である。
無念。
南無八幡大菩薩。
「帰ってきたら戦術級の戦力になってたりして」
からかう様に一義が言うと、
「むぅ……」
「にゃに!」
「ほう」
「ですか」
「ですわね」
「あはは」
「…………」
ハーレムの女の子たちは危機感を覚えた。
フェイが少しだけ例外と言ったところだろう。
さて、
「どうする?」
一義が問うと、
「わたくしの魔術の研鑽を」
「それはシャルロットに言ってよ」
サックリ受け流す一義。
ビアンカは肩を落とす。
ビアンカの魔術は殺竜。
別名ドラゴンバスター。
剣を振り抜き、その剣閃の延長線上に巨大な斬撃を生み出す魔術だ。
が、それはつまりウィッチステッキ……つまり剣を持っていなければ魔術を発動できないという欠点にも直結する。
そしてシャルロットの魔術はそれを凌駕する。
腕を振る。
あるいは動作無し。
そを以て斬撃を具現する魔術師だ。
一義も一度殺されている。
油断と手加減の結果だが、
「負けたのは事実」
と捉える一義。
アイリーンに生き返らせて貰ったのは結果論だ。
そうでなければ今頃墓が四人分たてられているはずである。
一義とかしまし娘。
片手の指で数えられる普遍的な命の定義。
知らない人間にとっては欠伸の種にしか成らない情報。
瓦版を通じて涙を流す人間が居ないことと同義である。
閑話休題。
「とりあえず剣を捨て去ることだね」
他に言い様も無い。
一義はパワーレールガンという切り札を持っているが、あくまでそれは再現性の無い魔術である。
魔術の再現という立場に乗っ取ればまさしく駄目講師にしか成らない。
ビアンカにコツを教えようにも斬撃の魔術を具現したところで一秒と保たないだろう。
それほど一義のキャパシティは絶望的なのだ。
であればシャルロットに倣うのが手っ取り早いのだが、生憎と腰を落ち着けると云うことをシャルロットは知らない。
運び屋という職業故に大陸を歩き回ってる。
ビアンカの上位互換の魔術を持っているため美少女でありながら危機には対処できるが、場合によっては牙を剥く。
基本的にスポンサーの意を汲んで動くため、たまに敵対したりもする。
一義もシャルロットもサバサバした性格なので気にしてはいないが。
なおビブリオマニアでシェイクランスが好きという共通点も持つ。
花々と並んで最も気安く接しうる女の子と言えるだろう。
「で、今日はどうするか」
そう悩む一義に、
「だーれだ……っ」
背後から目隠しが襲う。
簡素な悪戯だが声には聞き覚えがあった。
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