第178話 いざ鉄の国01


「ルイズかな?」


「当たりだよ師匠!」


 振り返ると銅色の髪と瞳を持った女の子が居た。


 革の鎧を着込んで、腰に片手剣を差している。


 名はさっき一義が言った。


 ルイズ。


 銅色の美少女の名前である。


 近過去に出会って一義を師事することになった少女だ。


 見た印象は儚げな美少女といった感じ。


 特注の皮鎧と片手剣がかろうじてルイズを、


「傭兵か?」


 と思案させる足る物だ。


 だが実体は違う。


 突然変異。


 そう呼ばれる存在である。


 基本的な身体能力が人間の範疇から限りなく逸脱しており、有り体に言って、


「化け物」


 と揶揄される存在である。


 その力は凄まじく、魔術を戦力の計算に入れないのなら一義と肩を並べる。


 一義は亜人……エルフだ。


 なお、


「死んだのなら星の廻りが悪かっただけのこと」


 というレベルの修行を文字通り喀血しながら習得した兵である。


 その一義と剣術の理もなく騎士の剣で渡り合ったというのだから畏れ入る。


 限りなく人間から乖離した存在で、鉄の国の皇帝直属騎士として普段は防衛に当たっている。


 では何ゆえ敵国の霧の国にいるかというと、


「師匠! 型を見てよ!」


 先述したように一義を師事しているからである。


 一義も特に小難しいことを考えるエルフでも無いためルイズに剣術を教えていた。


 木刀を持たせ、素振りのコツを授け、基本的な剣術の骨子を押しているのが今のところ。


 そんな関係を続ける内に、いつの間にやらハーレムの女の子たちとも打ち解けて一義に対する羨望と嫉妬と軽蔑の視線は一割増しとなった。


「僕のせいじゃないでしょうが……っ」


 と当人は叫びたかったが、生憎と一義に責任が無いとは云えない。


 霧の国の隣で同国といがみ合っている鉄の国のロイヤルナイトでありながら霧の国にちょくちょく来る新しいハーレムの子。


 そんな感じだ。


 で、


「ふっ……ふっ……」


 ルイズは一義の与えた木刀を構えて素振りをした。


 一義を師事し、謙虚に教えを請うて、なお一を聞いて十を知るの要領で剣の術理を修めていく。


 それが一義には心地よい。


「ミュータントが剣術を備えればどうなるか?」


 ある種の究極的な疑問だが目の前に例がある。


 元からして一義に少し劣る程度の体さばきだ。


 筋肉の動かし方。


 剣の握り。


 構え。


 重心の置き方。


 それらを指導する一義。


「ふむ」


 と頷いてルイズは素振りに一義のアドバイスを組み込んでいく。


「ここまで出来の良い弟子もそうそう居ない」


 一義にそこまで云わせる類だ。


「いいのかい?」


 とは花々。


「何が?」


「鉄の国に利することにならないかな?」


「別段お国事情には頓着しないもので」


 一義は肩をすくめた。


 ルイズが強くなればなるだけ鉄の国の軍隊は力を増す。


 一騎当千。


 ルイズにこそ相応しい言葉だ。


 剣術を覚え一騎当千が一騎当万になれば単純計算でルイズという鉄の国の兵力が十倍になることを意味する。


 当然霧の国には脅威だろう。


 別に利敵行為をしているつもりは一義には無い。


 単純に、


「ルイズが何処まで行けるか?」


 を楽しみにしているだけだ。


 人間盆栽とでも云うのか。


「だいたい筋肉と骨の強度はともあれ人体構造そのものは一般人と変わらないよ。花々なら問題ないでしょ?」


「ふぅむ……」


 花々はあごに手を添えて空を見やった。


 オーガ。


 鬼種とも呼ばれる亜人である。


 主に大陸最東方に隠遁する亜人であり、こと一鬼で軍隊を相手できる戦闘民族。


 元々の体の構造が人外であり、なお恒久的魔術恩恵……花々の二つ名でもある『金剛』を持つ。


 その能力はもはや人の及ぶところではない。


「襲われる方が悪い」


 と和の国では云われているほどだ。


 歩く災害。


 それがオーガである。


「とりあえずルイズが縮地を覚えたらコーチを花々に譲るよ」


「本当に入れ込んでいるね」


「美しい物が好きなだけだよ」


 一義は苦笑した。


 何故か技術や道具という物は極めれば極めるほどシンプルかつ機能美を獲得する形になる。


 ルイズという類い希なる才能。


 そが剣の理を身につければ人体がどの様に動くのか?


 師匠として興味深いのが一義の本音である。

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