第175話 嗚呼、青春の日々16
「音と光無しで電流だけ抽出するわけにはいかないの?」
「うーん。自然現象としての雷がわたくしのイメージだからね」
有り得る話ではある。
そもそも四大属性……、
「火」
「水」
「風」
「土」
これらも自然現象であるが故に、
「イメージしやすい」
のである。
普遍的な存在。
平均的な現象。
火は燃える。
水は流れる。
風は吹ぶく。
土は構える。
この世界にニコラ・テスラはいないため電流はまだ科学的に検証できていない段階の現象なのである。
必然電気と言えば雷が大本とはなる。
「おーい。アイリーン」
一義はアイリーンを呼んだ。
というか一義のハーレムは訓練場の隅っこに集まってはいるのだが。
「フェイちゃんのおっぱい」
「止めてくださいお姉ちゃん……っ」
そして一義の言葉はアイリーンに届いていなかった。
とかくアイリーンはフェイを甘やかす。
というかアイリーンの方がフェイに甘えている……が正しいだろうか。
さきからズドンだのゴロゴロだの雷鳴が鳴っていたにもかかわらずアイリーンの耳には届いてはいないようだった。
元々家事好きで姫々と等しく温和な淑女のような出会い頭のイメージが脆く崩れ去っていく……。
今更だが。
嘆息。
一義はアイリーンとのコミュニケーションを諦めた。
「フェイ」
と妹の方を呼ぶ。
「何でしょう? あん……っ」
「君もよく我慢できるね」
姉からのセクハラについてだ。
「いえ、まぁ、お姉ちゃんの気持ちも分かります故」
「とりあえず話を聞いてくれ」
「いいですけど……その前にお姉ちゃんをどうにかしてください……」
「…………」
一義は屈伸運動をして体を解すと、
「せい」
と軽やかにドロップキック。
「ふげぁっ!」
アイリーンは、
「何するんですか!」
平常モードに戻った。
「いや、邪魔だったんで」
「邪魔って何ですか?」
これを本気で言うのである。
当然無視。
「フェイは雷光と雷鳴を排除して雷撃てる?」
「まぁそれくらいなら……」
「お願い」
「いいですけどね」
頷いて左手を案山子に向けると、
「ライトニング」
と呪文を唱えて電流のみを顕現させる。
発生は一瞬。
収束も一瞬。
「とまぁ」
一義はジンジャーへと振り返る。
ちなみにドロップキックの経緯があるため既にアイオンの腕からは解放されている。
「これが雷の本質だ」
「むぅ」
とジンジャー。
「フェイさんはどうして雷を扱えるのでしょう?」
「え? だって簡単でしょう」
先に言っておけば……簡単ではない。
雷に対する恐怖は人間の根元に根ざす現象だ。
それを我が物とするために雷帝とて四苦八苦したはずである。
なのにフェイはあっさり顕現して見せた。
「アイリーン」
と一義がアイリーンを呼ぶ。
「何ですか?」
「ライトニングを使ってみせて」
一義がそう言うとアイリーンもあっさり顕現して見せた。
「だから何でそう容易く……」
半眼になるジンジャー。
自身の出来ないことを、
「さも当然」
と使われたら機嫌とて悪くもなろうというもの。
ちなみに一義にも同じ事は出来るがキャパシティが絶望的であるため再現のしようがないことをここに明記する。
アイリーンにしろフェイにしろ普段の人格こそまともに見えているが、実際の脳の構造は無茶苦茶だ。
洗脳。
催眠。
薬物投与。
脳内麻薬の誘発。
ありとあらゆる手段で脳を壊した逸れ者である。
ファンダメンタリストとはそれほどまでに業が深いのだ。
故に魔術に必要なイメージも容易く量産できる。
結果がコレというわけだ。
「じゃ、とりあえずアイリーンとフェイに電撃の何たるかを講義して貰おうか」
一義はそう言った。
「ふむ」
とジンジャー。
「はあ」
とアイオン。
「場合によってはアイオンにとっても有意義な講義になるかもね」
そんなことを思って一義は苦笑した。
ほころぶ顔はハーレムの女の子たちをときめかせるに十分だった。
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