第174話 嗚呼、青春の日々15


「だーかーらー」


「無茶だよぅ」


「おー……やっとるやっとる」


 一義は訓練場の隅で微笑ましい姉妹の姿を見ていた。


「うふぇふぇ……フェイちゃーん……」


「止めてお姉ちゃん」


 アイリーンとフェイの姉妹では無い。


 というかことアイリーンはフェイと一緒に居るとどうしても壊れてしまうらしい。


 一応二人揃って暗殺術を身につけ薬物でブーストさせた戦闘能力の持ち主ではあるのだが。


 今はファンダメンタリストを抜けた。


 というより抹殺対象だろう。


「殺せるものならね?」


 アイリーンはサッパリ言った。


 その通りではあるのだ。


 さて、


「もう一つの姉妹は」


 ジンジャーとアイオンのことである。


 雷帝アイオン。


 その妹のジンジャー。


「つまり雷というのは……」


 とくとくと講釈するアイオン。


「ふむふむ」


 と頷くジンジャー。


 ジンジャーが問題にしているのは一義とは相反するソレ。


 イメージ。


 分かりやすく言うところの想像力。


 魔術を使うに当たってキャパシティが必要なのは既に話した。


 その懐が深いほど強力な魔術が使える。


 一義が三流である証だ。


 初歩の初歩。


 光という原始的現象。


 ライティングの魔術さえ五秒しか保たないという、




 劣等生




 と云う言葉ではとても追いつかない領域にいる。


 一義をそれでもなお優秀にしているのは脳の構造である。


 想像力豊かであるため二次現象の連続負荷で結果を出す。


 先述したがジンジャーは逆だ。


 キャパはあるものの、想像力が無い。


 ファイヤーボールを使えはするが、こと四大属性の魔術はイメージしやすい。


 レッテルとでも言えば良いのか。


 実際の世界は四大属性で説明が付くのなら世話は無いが無論そうではない。


 そして雷帝を姉に持つジンジャーは姉を憧れ、尊び、誉れとする。


「お姉ちゃんのようになりたい」


 それがジンジャーの理想である。


 が、実際の所、上手くいっているとは言い難い。


 科学の無い時代。


 雷は「神鳴り」と呼ばれていた。


 天の咆吼。


 神の憤怒。


 輝き、轟き、大木すらも一発で消し炭と化す。


 当然アイオンがイメージするのもソレだ。


 まずは雷光が輝く。


 次に電流が流れ対象を焼く。


 最後に追いかけるように雷鳴が轟く。


 これらを瞬時に脳にイメージすることが出来るためアイオンは『雷帝』と呼ばれているのだ。


「で」


 とアイオン。


 スッと左手を目標の案山子に向ける。


 次の瞬間、


「――――」


 雷鳴が轟いた。


 爆発音にも似たソレ。


 一義はエルフであるが故に花々と等しく超感覚を持ち合わせている。


 故にアイオンの魔術発動前に耳を指で塞いでいた。


 鼓膜が破れるのはうまくない。


「これを想像すればいいだけ」


 サックリとアイオンは言ってのけるが、


「光って爆音が轟いていつの間にか焼けちゃったじゃどうしろって言うんですか!」


 ジンジャーの憤慨も分からないではない。


 電流は速すぎる。


 なおそこから迸る光は電流よりも速い。


 前二つには劣るものの雷鳴という音も人外に速い。


 それを、


「イメージしろ」


 というのがアイオンの講義である。


「でも一応電気は具現できるでしょ?」


「少しはね」


 ジンジャーは両手を胸の前に掲げると、パチパチと電流花火が打ち鳴らされた。


「どうやら電流そのものは理解しているらしい」


 とは一義の思考。


「後はそれを強力にするだけ」


「むぅ……」


 さもあらん。


 言われて出来るのなら世界中に魔術師は蔓延っている。


 それが出来ないからジンジャーは苦労しているのだ。


「アイオン」


 と一義。


「どったの?」


 アイオンは当然のように一義を抱きしめてよしよしと頭を撫でる。


 ムニュッと頭部におっぱいを押し付けられた形だが一義はとりあえず無視した。

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