第171話 嗚呼、青春の日々12


「良い月だねぇ……」


「全くだよ」


 一義は花々と一緒に風呂に入っていた。


 ホテルに戻った後、


「っ!」


「っ!!」


「っ!!!」


 ホテルマンたちはてんやわんやの騒動を起こした。


 さもあらん。


 霧の国のトップの四人が新たに客として宿泊することになったからだ。


 粗相一瞬。


 粛正一生。


 一流ホテルであるためお偉方を迎える準備は何時でも出来ているつもりではあったが、まさか女王ディアナ直々のご来訪とは夢にもだろう。


 一度の粗相さえ許されない。


 徹底的なサービス精神が要求された。


「そこまで固くならんでも」


 と一義などは思うが、


「ホテルの明暗を分けるが如し」


 というのがホテルマンたちの通念らしかった。


 ともあれ風呂である。


 一義と花々は露天風呂に。


 月を見ながら。


「此の世をば、我が世とぞ思ふ、望月の」


「虧けたる事も、無しと思へば」


「嬉しいよ」


「こちらもだよ旦那様」


 二人で苦笑。


 皮肉気な花々との会話は一義にとって心地よい物だ。


 姫々の丁寧さ。


 音々の活発さ。


 かしまし娘はそれぞれキャラ分けをされているが、一番馴染みやすいのが花々の皮肉さであるのは一義の意識の問題だろう。


「旦那様?」


 水着で風呂に入っていながら花々は一義の腕に抱きついてきた。


「何?」


 一義の反応は淡泊だ。


 おっぱいは好きだが、


「それとこれとは関係ない」


 である。


「二人きりだね」


「三日前にもね」


「あたしじゃ不服かい?」


「そこまで云う気は無いけど……」


「勇気が無いと?」


「まさに」


 一義は、


「ふい」


 と吐息をついた。


「旦那様は罪なお人だ」


「知ってるよ」


 今更突きつけるまでも無い案件だ。


「既に月は欠けているよ?」


「……知ってるよ」


 少しだけムッとなる一義。


 花々は苦笑するばかりだ。


「摩耗する月夜は残酷だ」


「でも刻経てばまた満ちる」


「月はね」


「愛もだよ」


「それは呪いだよ」


「オーガが云う?」


「然りではあるけどね」


 花々は痛痒を覚えないらしかった。


 それが花々の美点でもあるのだが。


「ふぅ……」


 嘆息。


「やっぱり花々は辛辣だね」


「他に言ってくれる女性も居ないだろう?」


「そだけど」


「旦那様に気を遣わない人間の一人くらい居ても良いじゃないか」


 というかその様に造られたのだが。


「だ・ん・な・さ・ま?」


「却下」


「何でだ」


「趣味じゃないから」


「ロリコン?」


「音々もハーモニーも抱いてないでしょ」


「ハーモニーは珍しくいたく気に入っているみたいだが?」


「可愛いからね」


「ロリコン」


「小動物を相手にしている気分」


「愛でている……と?」


「犯罪臭が……」


「そうじゃないと思ったかい?」


「僕の肖像って……」


 困惑する一義だった。


 たしかにズケズケ言ってくるのは、


「花々らしい」


 とも云えるのだが。


「仮にハーモニーに迫られたらどうする?」


「……むぅ」


「悩むんかい……」


 ジト目の花々。


「ハーモニー……ねぇ」


「ロリコン」


「もうソレで良い気がしてきた……」


「駄目だ」


「何が」


「幼女には!」


「幼女には?」


「おっぱいが無い!」


「まぁ無いね」


 それが乙なのだが。

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