第172話 嗚呼、青春の日々13


「あたしにはあるぞ?」


 ムニュッと一義の腕に大きなおっぱいを押し付けてくる花々だった。


「まぁ日常だよね」


「さっくり残酷な言葉を吐くね」


「すっかり女体に慣れちゃって」


「それはそれでどうなんだ?」


「偏に恵まれてますな」


 笑って結論づける一義。


「特にかしまし娘は」


「ならば私たちは構いませんね!」


 ガラッと露天風呂と屋内を繋ぐ扉が勢いよく開け放たれた。


 そこにいたのは、


「またややこしいことを」


「全くだ」


 水着姿のディアナとキザイアだった。


「…………」


 ペコペコと頭を下げるキザイア。


 褐色の瞳が、


「ごめんなさい」


 と語っている。


「お互い因果な主人だね」


 花々も状況は正確に理解したらしい。


「というわけで失礼」


 風呂場に入ってきて身を清めた後、


「一義様?」


 迫るディアナ。


「…………」


 キザイアは真っ赤になって風呂に浸かっている。


「私と良いことしましょ?」


「興味ないかなぁ……」


 これを素で言うのである。


「趣の有る女の子が好みだから」


 そして湯船で立ち上がる一義。


 ザパァと湯面が波立つ。


 そのままザバザバとキザイアに近寄って、


「キザ~イア?」


「…………」


「可愛いなぁ」


 ギュッと抱きしめる。


「旦那様?」


「一義様?」


 ハブられた二人から殺気が立ち上る。


「こんな控えめが君たちにも有ったらね……」


「うあ……」


「あう……」


「…………」


 キザイアは真っ赤になって狼狽えていた。


 が極限まで鍛えられた一義の抱擁を解く術は無い。


「可愛いなぁ可愛いなぁ」


 頬をスリスリ。


「…………」


 なされるがままのキザイアである。


「旦那様……」


「ご冗談はソレまでに……」


「…………」


 キザイアもパタパタと手を振る。


「うーん。民主主義」


 王国だが。


 とりあえず反対三票が入ったため一義はキザイアを解放した。


「…………」


 キザイアの顔は真っ赤になっていた。


 湯あたりではない。


 恋慕のソレだ。


 褐色の瞳には興奮の彩が。


 それほど一義が魅力的な証拠だ。


 一義には恋において打算や下心という物が無い。


 純粋に気に入った人間を歓迎する。


 言われたものだ。


「一義に愛されると云うことがどれほど幸福か」


 なんて。


 そしてその通りにヒロインたちは行動する。


 別段、


「ソレが悪いこと」


 とは一義も云わない。


「趣味が悪い」


 と嘯くものの、


「愛されている」


 事に対しては酷く自覚的だ。


 仮に鈍感なら今頃刺されているだろう。


「刺す人間が居れば」


 という前提条件は付くが。


 今のところ一義のハーレムにヤンデレは居ない。


 ハーレムの女の子たちは、


「一義を自分だけの物に」


 とはあまり考えてはいないのだ。


 全員が全員とは言わないが、通念ではある。


「旦那様?」


「一義様?」


 肉食獣の眼で一義を捉える花々とディアナ。


「勘弁」


 ハンズアップする一義。


 降参の意思表示だ。


 ところで


「僕の部屋の鍵はどうしたの? 施錠していたはずだけど……」


「ホテルマンにマスターキーを戴きました!」


 大凡において最低の返答だった。

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