第170話 嗚呼、青春の日々11
「うー……あうー……」
ジャスミンは不機嫌だった。
結局一撃も一義に当たらなかったのだから当然だ。
一義も覚ってはいるが口を開いても嫌みにしかならないと知っているためカモ蕎麦をたぐるのみ。
場所は東方料理の食堂。
時間は夕餉。
一義の、
「蕎麦を食べたい」
という提案でその通りになった。
行く道で王女ディアナや雷帝アイオンや蛇炎のジャスミンと云った顔の売れている美少女が一義と仲良しこよしのため、軽蔑を超えて戦慄の視線が突き刺さった。
元より忌避されているのがエルフだ。
それを、
「格好良い」
「可愛い」
と懐く王女たちに懐疑的になるのも自然な流れではあるだろう。
「大丈夫かな……この国……」
一義がそんな心配をするくらいである。
ともあれ東方食堂。
一義は先述したがカモ蕎麦をたぐっている。
隣には姫々とジャスミン。
姫々は湯豆腐を食べており、ジャスミンは一義と同じカモ蕎麦だ。
「どうやったらあんなに強くなれる?」
ジャスミンが問う。
「努力」
ここまで説得力皆無の言葉もないだろう。
一義の胡散臭さは既に超一級である。
「一応訓練は欠かしていないんだがな……」
「身体能力はどうやっても限界があるからね。特に女性は」
「男の方が強い……と?」
「まぁぶっちゃければ」
蕎麦をたぐる。
「花々はどうなんだ?」
「オーガと人間を比べるのが間違ってるよ」
そもそも肉体構造が根本的に違う。
あえて人間としてオーガに勝つならばミュータントにでも生まれなければ嘘だろう。
「というわけ」
蕎麦をたぐる。
「一義はどうなんだ?」
「いやまぁ何でもありなら勝てないことはないけど……状況によるかな? 三七でこっちが不利って所」
「一義にそこまで言わせる程か」
「元々オーガは一鬼で人間の一軍に相当するとされる戦闘民族だから」
「一義もそうじゃないのか?」
「一般兵相手なら確かに戦局は花々と大して変わらないのは事実」
「どうしてそこまで力を蓄える?」
「…………」
「力は持てば持つだけ厄介事を引き寄せるんじゃなかったのか?」
「その通りだよ」
力はしがらみ。
それが一義の持論だ。
「おかげで姫々と音々と花々が居る」
「?」
紺色の瞳には疑惑が映る。
ジャスミンには分からない案件だ。
「僕の場合は既にしがらみに囚われてるから無かったことには出来ないんだよ」
「俺が守ってやろうか?」
「僕より弱いのに?」
「むぐ……」
強い瞳で睨み付けるも一義は飄々と蕎麦をたぐるのみだ。
「お前くらい強くなれば認めてくれるのか?」
「既に十分強いと思うけど……」
皮肉では無い。
真摯な言葉だ。
剣も魔術も一級品。
相手を探すのに苦労する戦力と言える。
「問題は……」
蕎麦をたぐる。
「僕らが異常なだけだよ」
ジャスミンは決して弱くは無い。
むしろ強者側だろう。
ただ一義のハーレムには例外が多すぎると……それだけの事。
何度も言うが一国と喧嘩して滅ぼせる戦力である。
一義側が異常であるため、
「ジャスミンやジンジャーみたいな正常にふれ合うのは心が安まるよ」
だしを飲む。
鴨肉をはむはむ。
「俺がお前の精神安定剤か?」
「まぁそんなとこ」
「抱いても……良いぞ……?」
「気が向いたらね」
そんな一義の隣で姫々が殺気を立ち上らせていた。
「ジャスミン様……?」
「な、なんだ?」
「お戯れは止してください……」
「戯れじゃ無いぞ」
「では――」
「はい姫々」
一義がよしよしと姫々の銀色の髪を撫でる。
「興奮しない」
「申し訳ありません……」
「気持ちは嬉しいけどね」
「何がだ?」
「デッドオアアライブを乗り切ったね」
「俺がか?」
コックリ頷く一義だった。
「姫々も異常だから」
「その言葉は不本意ですけど……」
唇を尖らせる姫々だった。
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