第164話 嗚呼、青春の日々05


 ソースで炒めた牛肉がパスタに乗せられて出される。


 宿舎改造中につきホテルに泊まっている一義たちではあるが、基本的に食事は姫々とアイリーンが担当している。


 姫々が東方食。


 アイリーンが西方食。


 それぞれ高いレベルで構築するのだ。


 ホテルの専属シェフも驚愕する手際である。


 一度ならず弟子入りを志願されたこともあるが、


「プロに教えるほどの腕ではない」


 と二人揃って謙遜するのだった。


 もっともその本質は、


「弟子を取って指導するくらいなら一義ともっとイチャイチャしていたい」


 を根っこに持つのだが。


 閑話休題。


「いただきます」


 一義たちは食事の時間となった。


 ホテルの食堂で一義と多数の女の子たちによる会食。


 ホテルマンには慣れる物では無いらしい。


 ニコニコ営業スマイルではあるが額の汗が、


「ああ、ツッコみたいのを我慢してるんだな」


 と一義に覚らせる。


 とはいえ今回のケースは霧の国の女王ディアナ勅令の客であるため、不備を一切見せられない。


 場合によってはギロチン刑もあり得る。


 誰より厄介な客ではあるのだった。


 聡い一義の方もそれを覚っているため、


「ホテルマンに駄目出しは禁止」


 と女の子たちに法度を敷いてはいる。


「…………! …………!」


 ハーモニーは一心不乱にパスタを食べてお代わりをせがむ。


 シェフが既に湯がいていたパスタにアイリーンの作ったビーフストロガノフを乗せて差し出す。


「…………!」


 無言で、


「ありがとう」


 の意を示してまた食事に没頭。


 このちっこい食欲魔神は一義のお気に入りだ。


 ハーレムにしては珍しく、ガツガツしていない。


 一義にスキンシップを求めるのはそうなのだが、基本的に慕情が打算による裏打ちを受けていないのだ。


 一義のことが好きだから好き。


 そんな感情は一義には尊い物に映る。


 何とはなれば成長した姿が楽しみということもある。


 音々には希望がないため(と云うかそういう風にしたのが一義なのだが)ハーモニーは未完の大器だろう。


 戦力としても申し分ない。


 桃色の髪と瞳を持つ美幼女ではある。


 が、その戦力から隣国……鳥の国の炎剣騎士団の団長を務めていたくらいだ。


 事情が事情により霧の国に亡命してきたが、それはつまり一義にとっては、


「ハーレムが増えた」


 と云うことであり、霧の国には、


「頼もしい戦力の配属」


 と云うことでもある。


 あまり気にしても仕方が無いので一義はハーモニーを可愛がるくらいしか出来ないが。


「…………」


 ハーモニーは一心不乱にビーフストロガノフを征服してはお代わりをせがんだ。


 シェフたちは大わらわ。


 次から次にパスタを湯がいた。


 それから花々のハーモニーリンガルによって白米の準備にも追われた。


 緩急を付けた味の違いはハーモニーにとっても有益だろう。


「いっぱい食べて大きくなってね」


 隣に座っているハーモニーの桃色の髪を撫でる一義。


「…………」


 ポーッと茹だるハーモニーだった。


 当然面白くないのはハーレムの女子だ。


「おっぱいならわたくしのがありましてよ!?」


 これはビアンカ。


「フェイちゃんにもあるよ!」


 これはアイリーン。


「旦那様。未来を思わずともおっぱいは目の前にあるんだ」


 花々も妖艶な視線で一義を釘刺す。


「頑張れ」


 特に意を込めない一義の言葉だった。


 元より、


「女の子は貞操が大事」


 が一義の第一義だ。


 そしてそれ以上に心的外傷が感情の奔流という出血をする。


 一義にとっての致命傷。


 こと女子の扱いに関して一義は慎重にならざるを得ない。


 そうすることが一義なりの筋の通し方なのだ。


 ハーレムの女子たちに対する……ではない。


 月子に対する……である。


 結局のところ《矛盾》が有る限り一義は月子を忘れることが出来ない。


 呪いだ。


 当人にとっては絆だが。


 好きで……。


 好きで…………。


 好きすぎて…………。


「だからきっと……」


 それ以上は言葉に出来なかった。


 ならなかった、ではなく、出来なかった。


 苦笑する。


「……?」


 ハーモニーが敏感に一義の不穏を察する。


 一義はハーモニーの頭を撫でた。


「何でも無いよ」


 そんなはずは無いがハーモニーも土足で踏み込む度量は持っていない。


 それが一義には嬉しかった。

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