第123話 剣劇武闘会09

「とうとう明日ですね!」


 何がかと言えば剣劇武闘会の予定である。


 言ったのはディアナ。


 その紫色の瞳は王族としての高貴さではなく少女としての爛漫さを映していた。


 日が沈み辺りが暗闇に包まれると、一義とハーレムとエレナは夕餉をとるために学食に出向いた。


 というのもハーレムのインフレーションが冗談で済まなくなったからだ。


 銀色の姫々、黒色の音々、赤色の花々、金色のアイリーン、青色のビアンカ、紫色のディアナ、燈色のジンジャー、桃色のハーモニー、紺色のジャスミン。


 色とりどりの美少女たちである。


 加えて桜色のエレナがハーレムではないにしても同席している。


 一義の宿舎にも特別棟の王族専用の部屋にもこれだけの人間が同時に食事を出来るスペースは無い。


 広く席のある学食にて夕餉になったのは必然と言える。


 状況に流されているだけとも言えるが。


「ご主人様が剣劇武闘会にお出になるのはもはやどうしようもありません。ですが差し出口で申し訳ありませんけれどご自愛ください」


「ん~。まぁ怪我したくはないしね」


「お兄ちゃんなら優勝間違いなし!」


「あんがと」


「あたしも出るべきだったかなぁ。旦那様と戦えるいい口実ではあったが」


「さすがに魔術も無しにオーガの相手はしたくないなぁ……」


「一義、怪我だけはしないでくださいね?」


「無傷で優勝しろっていう強迫かなソレ……」


「わたくしに決闘で勝った一義ですもの。一義が負ければわたくしの名にも傷がつきますわ。その辺を重々理解しておいてくださいな?」


「努力はするけどね」


「一義様なら楽勝です」


「さあて……何事もそう簡単じゃないからね」


「一義、優勝したら私に独占取材させて」


「ジンジャーも熱心だね」


「…………! …………!」


「うんうん。僕もハーモニーのことが好きだよ?」


「一義は俺に勝った男だ。ならば十把一絡げに負ける道理はないぞ」


「一つの信頼だね」


 言って一義はサラダをクシャリ。


 ちなみに一義を含む十一人は学食の端っこでやんややんやと言葉を交わしていた。


 一義以外は女性なので姦しくなるのは当然。


 一番注目を集めているのはディアナである。


 まず生徒は学食に入る前に驚愕する。


 蛇炎の魔術師にして王属騎士……ジャスミン率いる蛇炎騎士団が学食を取り囲むように警備しているからだ。


 それから中に入ると当国の王ディアナが学食の席に気後れなく座って、穢れの象徴である東夷またはエルフと呼ばれる一義と夕餉を伴にしている。


 驚くなという方が無茶だろう。


「まさか女王陛下まで東夷のハーレムに?」


「それこそまさかだろ」


「でも反魂や炎剣やドラゴンバスターがいるんだぜ?」


「ある意味国際問題じゃね?」


「この国大丈夫か?」


 そんなヒソヒソ話が一義の耳にも入ってくる。


 おそらく聞こえているのは超感覚を持つ一義と花々のみだろう。


 ディアナに聞かれでもしたら極刑モノである。


 一義にしてみれば苦笑するより他にない。


「何ですの? その苦笑いは?」


 目ざとく認識して首を傾げたのはディアナ。


「いやね……」


 一義は言う。


「入学当初僕のハーレムは姫々と音々と花々だけだった。重火と絶防と金剛だけだった。それだけでも戦術レベルの戦力だと思っていたし今も事実そう思ってる」


「…………」


 コクコクと頷くかしまし娘。


「でもアイリーンやビアンカやハーモニーが加わってもはや戦略レベル……一個の軍隊レベルになったと認識せざるを得ない」


「…………」


 コクコクと頷くアイリーンとビアンカとハーモニー。


「けどここにきて女王ディアナに蛇炎騎士団長ジャスミンに雷帝アイオンといった勢力まで抱きこんでいる。もはや僕のハーレムは戦術でも戦略でもなく政略レベルの影響力を持つんじゃないかってね」


「…………」


 ハーレムは沈黙した。


「で、そんなことを思えば苦笑するより他は無いなって思うんだ」


 肩をすくめる一義だった。


「もしかして私たちは一義の重荷ですか?」


 これはアイリーン。


「いや、好意はありがたいさ。それについて責めているわけじゃないし罪悪感を持つ必要もない。ただなんとなく驚異的というか何というか……」


「一義様」


 これはディアナ。


「私と結婚すれば一義様は霧の国を好きに出来ますよ?」


「冗談でもそんなこと言わないの」


 一義はたしなめる。


 そして言葉を付け加える。


「ああ、そうだ。今日はディアナの部屋に泊まっていい?」


「いいですよ勿論。ああ、ついに私は大人の階段を上るんですね……」


「別に雰囲気出さなくていいから。ただ剣劇武闘会に会わせて寝坊も出来ないから起きられる状況をつくっておきたいだけだよ」


「むぅ」


 不満そうなディアナだった。


「あのぅ……私たちは?」


 これはジンジャー。


「素直に宿舎に帰って」


 ビアンカとジンジャーとハーモニーにはそう伝える。


「わたくしはご主人様の御傍にいてもいいですよね?」


「まぁ姫々はね」


「むぅ」


 これは姫々以外のハーレムの総意である。


「それにしても剣劇武闘会ね。茶番だなぁ……」


 明日に憂いをもって茶を啜る一義だった。

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