第124話 剣劇武闘会10
剣劇武闘会当日。
その朝。
一義はまどろみの中にいた。
スースーと健康な寝息が小さく響く。
そんな一義を、
「おい、起きろ一義」
とジャスミンが揺り起こす。
「ん……むに……」
夢見が悪いのか起こされようとしたことへの抵抗の意志なのか不快気に眉を寄せながらそれでも起きない一義。
「ん……にゃむ……」
どこまでもまどろむ。
ジャスミンは執拗に揺り起こそうとし、それが駄目と悟るや一義の耳元に大音声を叫んで聞かせた。
「起きろ一義! 俺に世話を焼かせるな!」
そこまでしてようやく、
「ん~?」
うっすらと目を開けてうっすらと意識を覚醒させる一義だった。
視界に捉えるは紺色の美少女騎士。
既に剣と鎧を装備している辺り準備万端といったところだろう。
「ジャスミン……?」
一義がボーっとした頭で問うと、
「ジャスミンだ」
ジャスミンは肯定する。
一義はというと、
「まだ寝る……」
そう言って瞳を閉じてしまう。
「この馬鹿! 今日は剣劇武闘会だろうが!」
「けん……げき……?」
何だそれはと一義は思い、
「剣劇武闘会?」
うっすらと機能している脳の中から今日の予定を掘り起こすのだった。
「そうだ! 剣劇武闘会だ! その前に朝飯だ! とっとと起きろ!」
「あー……」
ボケーッとしたまま一義は納得し、腹筋運動の要領で上体を持ち上げる。
それからガシガシと後頭部を掻いて、
「くあ……」
と欠伸を一つ。
「おはようジャスミン」
「まったく手間をかけさせてからに!」
鼻息も荒くジャスミンは言う。
一義はチョイチョイと人差し指を曲げては伸ばし伸ばしては曲げてを繰り返した。
つまり、
「もうちょっと近寄って」
という意思表示だ。
「何だ?」
疑問を覚えつつも一義の顔に自身の顔を寄せるジャスミン。
そのジャスミンのおとがいを持って、
「おはようのチュー……」
キスをする一義であった。
マウストゥーマウス。
「……っ!」
絶句するジャスミン。
そしてキスが終わる。
「うん……元気出た……」
そう言ってニッコリ笑う一義に、
「な……ななな……ななななな……っ!」
狼狽することしきりなジャスミン。
ともあれ一義は覚醒するのだった。
中略。
「ところでさ」
一義はジャスミンにキスをしたことなど知らないと言った様子で朝食の黒パンをコーンスープに浸して食べながらジャスミンに話しかけた。
「剣劇武闘会って王侯貴族の騎士になりたい人間が集まるんだよね?」
「……だな」
ジャスミンの言葉には覇気がない。
目覚めのキスがよほど利いているらしかった。
「ということは殺し合い?」
「違いますわ一義様」
否定したのはディアナ。
学食のざっくばらんな朝食もディアナにしてみれば気にすることでもないらしい。
「剣劇武闘会で使用される武器は木剣、木刀、木槍などの殺傷能力の低いモノです。骨折くらいはあり得るかもしれませんが少なくとも大事には至りませんわ」
「ふ~ん……」
クシャリとサラダを食べる一義。
「鎧も許可されていますから怪我人はほとんど出ませんよ」
「鎧……ねぇ……」
クシャリとサラダを食べる一義。
「勝つと何か得するの?」
「王侯貴族に実力を認められればお抱えの騎士になれますわ」
「……ですか」
興味無いとばかりに一義は朝食をかきこむ。
「もっとも……」
ディアナが言う。
「王属騎士を蹴った一義様にしてみればどうでもいい話でしょうけど」
「わかってて僕を登録したの?」
「一義様の実力を天下に知らしめる好機です」
「そもそも軍事的に強いということが自慢のタネになるとは思えないんだけど……」
力の存在を否定する一義らしい言葉だった。
「ですが……」
「わかってる。別にいまさら反故にするつもりはないよ」
一義は黒パンを食べる。
「ま、応援してて。ね? ジャスミン?」
一義が意地悪くジャスミンに言葉をかけると、
「あ……うむ……俺は……」
遠慮がちな言葉が返ってきた。
「悪いことをしたかな?」
目覚めのキスのことである。
それで反省するような精神構造を一義は持ち合わせてなどいないのだが。
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