第51話 カウンター10

 そうこうして一階にいる十三人のチンピラを姫々が残らず殺し尽くた後、


「何の騒ぎじゃい!」


 と上の階から新たなチンピラたちが現れて、


「「「「「……っ!」」」」」


 絶句する。


 それはそうだろう。


 死屍累々といった有様だ。


 これで驚くなという方が無理難題である。


 一義と音々と花々は飄々と突っ立っており、姫々は新たなマスケット銃を二丁だけ何処からともなく取り出して、その銃で肩を叩いていた。


 そんな一義たちを見据えて、


「なんじゃあてめえら!」


 と誰何するチンピラ。


「カチコミだよ」


「カチコミだぁ!? 俺らが誰か知って言ってるんだろうな!」


「ブルズファミリーでしょ? シダラのスラム街……その三分の一を占めるまぁそこそこのマフィアだ」


「ガキがぁ! そこまでわかって喧嘩売っとんのかい!」


「まぁカチコミだからね」


 何を今更と一義。


「じゃあ死ねやぁ!」


 そう激昂してチンピラの一人がナイフを取り出すと残るチンピラたちも一斉にナイフを取り出した。


 しかして反応は姫々の方が速い。


 姫々はハイスピードスイッチによって銃を撃つ端から次から次へと新たな銃を取り出してチンピラたちをひれ伏させた。


「「「「「――――っ!」」」」」


 チンピラたちは変形弾丸によって致命的な傷を負って床をのたうちまわる。


 死にきれないチンピラたちにも新たな銃で正確にとどめを刺す姫々。


 そうして動くものが無くなると、


「じゃ、二階にいこっか」


 血臭のする血みどろの一階で、しかして何事も無かったかのように一義はそう言った。


「ではあたしが先行するよ」


 そう言って花々が二階への階段を上る。


 続いて上っていく一義たち。


 花々が二階の部屋に上がった瞬間、


「撃て」


 そんな声が聞こえたかと思うと、炸裂音が多段に響いた。


 二階で待ちかまえていたチンピラたちが花々に向かって銃を撃ったのだ。


 しかして、


「…………」


 花々に痛痒を覚えさせることはできなかった。


 鬼……あるいはオーガは金剛の魔術によって強靭な肉体を持つ。


 銃程度ではまず怪我すら与えられないのだ。


「それは宣戦布告と受け取っていいのかな?」


 そう言ってニヤリと笑うと花々は暴風と化した。


 圧倒的膂力と金剛による強靭性をもって、まるで紙でも千切るようにチンピラたちの肉体を千切っていく。


 血だまりとなった部屋に残ったのは六人。


 一義、姫々、音々、花々、それから部屋の中央にある席に座っている高級スーツを身に纏った髭をたくわえた男……おそらくブルズファミリーのグランドファザーに、同じく部屋の中央にある席に座っているきらびやかな貴族服を着た頭の禿げあがった男……おそらく貴族であった。


「なんのつもりだ……!」


 スーツの男が一義たちの目的を聞く。


「まぁなんていうか……カチコミ……かな?」


 と一義が首を傾げながら答える。


「俺達がお前らに何をした!」


「麻薬をばらまいたでしょ? クリスタル……」


「んなもん商売じゃ! それに警察にも色つけて払っとる! お前らに何を言われる筋合いもねえぞ!」


「まぁ……そりゃそうなんだけどさ。それを言うなら僕らが君たちに何をしようと勝手でしょ?」


「そんな理由でマフィアの本殿にカチコミかけたんかい!」


「まぁ勝てる勝負だってわかってたからね」


「俺たちも殺すんかい……!」


 あえてマフィアのボスは「たち」を強調して言った。


「そちらは?」


 貴族を指して問う一義に、


「デミトリス卿であらせられる。シダラの根付く貴族の家系だぞ」


 脅すようにマフィアのボス。


「なるほどね」


 一義はガシガシと後頭部を掻いた。


「マフィアと警察が直接コネクションを作るのはうまくない上に、貴族を放置して勝手に利益をむさぼることはできない……と。だから貴族に色つけて払って、ついでにお貴族様の権力をもって警察を押さえる……。そんなところかな?」


 一義がそう結論付けると、


「そんなところですね……」


「そんなところ!」


「そんなところだね」


 かしまし娘は頷いた。


「なんのことやらわからんな」


 マフィアのボスはとぼけてみせた。


「ああ、ああ、いいって別に誤魔化さなくても。どうせやることは変わらないんだし。というわけで姫々?」


「なんでしょう……?」


「二人とも殺して。できるだけ苦しむように」


「了解しましたご主人様……」


 そう言ってマスケット銃を取り出すと、姫々はマフィアのボスの両肩と両脚の付け根に銃弾を撃ち込んだ。


「ぎああああああああああああああああっ!」


 変形弾丸の威力は凄まじいものがある。


 マフィアのボスが悲鳴を上げるのも致し方なしと云ったところだろう。


 そして姫々は銃口をデミトリス卿に向ける。


「ひぃいいいいいいいいいいいっ!」


 デミトリス卿は椅子から転げ落ちて無様に這いつくばり、


「なんだ! 何が欲しい!? 余なら何でも用意できるぞ! 金でも土地でも権力でも思いのままじゃ!」


「そんなものが欲しくてカチコミをかけたわけじゃないよ」


 ガシガシと後頭部を掻く一義。


「デミトリス卿……あなたがクリスタルの流行を止めてくれていればジンジャーはクリスタルに犯されずに済んだ。しかしてあなたはマフィアから金を受け取り真逆のことを行なった。そういう意味ではあなたも加害者だ」


「わかった! わかった! 警察に言い渡してクリスタルの駆逐を徹底させる! それで許してくれ! 余を……余を殺さないでくれ!」


「無理」


 ニッコリ笑ってそう言うと、一義はヒラヒラと手を振った。


「…………」


 同時に姫々が銃を撃った。


 マフィアのボスと同じく、両肩と両脚の付け根に弾丸を食い込ませる。


「ぐぅあああああああああああああっ!」


 痛みに悲鳴を上げるデミトリス卿。


 二人とも出血性のショック死は免れないだろう。


「それでも一応念のため……」


 と一義は呟くと、姫々から和刀を受け取り鞘を抜き、マフィアのボスとデミトリス卿の喉に刃を突き刺した。


 二人がピクピクと頭部を潰されたゴキブリのような反応をするのを確認して、


「後は警察がどうにかしてくれるよね。じゃあ帰ろっか……姫々、音々、花々」


 あっさりと一義はそう言った。


「ここは血臭が酷いですしね……」


 パタパタと手を団扇代わりに振る姫々。


「姫々がそれを言う!?」


 つっこむ音々。


「まったくだ」


 カラカラと笑う花々。


 そうして一時間も経たずにマフィア……ブルズファミリーは壊滅した。

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