第50話 カウンター09
手に持ったナイフや剣や斧を持って襲い掛かるチンピラたちに、
「はあ……」
と嘆息すると、
「姫々……」
「何でしょう……。ご主人様……」
「音々……」
「なぁに! お兄ちゃん!」
「花々……」
「なんだい? 旦那様……」
「本気でやっていいから」
「了解しました……。ご主人様……」
「わかったよ、お兄ちゃん」
「理解するよ、旦那様」
そして十五人のチンピラを相手にかしまし娘は暴風の如き暴力を振るったのだった。
姫々はズラリと二十丁以上のマスケット銃を取り出す。
そしてチンピラたち目掛けて発砲する。
「ぐう……!」
「があ……!」
「げう……!」
とチンピラの一部が変形銃弾によって戦闘不能となる。
音々はさらに簡潔だった。
「太陽球!」
と呪文を唱える。
そうしてその呪文の通り、太陽の球のような巨大な熱エネルギーの塊が生み出され、チンピラたち目掛けて発射される。
炸裂。
轟音。
熱波。
強大な爆発が小路の狭い範囲で行われることによってチンピラたちは焼き殺される。
そんな熱波を潜り抜けて花々が生き残りに襲い掛かる。
生き残ったチンピラたちは花々のアイアンクローによって頭部を潰されて死ぬのだった。
それは圧倒的な傷害の象徴だった。
火器を自在に扱う姫々。
魔術を自在に扱う音々。
膂力を自在に扱う花々。
そんなかしまし娘にとってチンピラの集団なぞ十把一絡げにすぎなかった。
故にその後……一義たちはチンピラにからまれることは無かった。
「凶悪な魔術師たちがスラム街に喧嘩を売った!」
後にそんな風聞が流れるに至ったほどである。
それは当然と言えた。
王立魔法学院の制服を着た一義と姫々と音々と花々による大暴れである。
驚愕しない方がどうかしている。
そして一義とかしまし娘はシャルロットが白状した取引先へと辿り着いた。
そこはスラム街にあるクラブの一つだった。
「ここがブルズファミリーの本拠……ね」
外見はスラム街に似つかわしくない高級そうなクラブといった様子だったが、中身はアルコールと煙草と麻薬の匂いが充満する場所だった。
そんなクラブに一義とかしまし娘は踏み込む。
姫々、音々、花々、一義の順である。
クラブの中には十三人のチンピラが屯していた。
ドラッグカクテルを飲みながらチンピラの一人が、
「ああ、なんだお前ら?」
と恫喝するように問うてきた。
「…………」
一義はガシガシと後頭部を掻くと、
「クリスタルを売っていたのは君らかい?」
チンピラたちに聞いた。
「クリスタル……ね。この前手に入れたのがそんな麻薬だったな。末端価格が結構な額あったから儲けさせてもらったな」
チンピラの一人がそう言ってくつくつと笑った。
「そう。それさえわかればそれでいいよ」
一義はそう言うと、
「音々……」
と音々を呼んだ。
「なぁに? お兄ちゃん」
「魔術結界を……ここからチンピラたちが出られないように張って」
「うん。わかった」
と頷くと、
「斥力結界」
と呪文を唱えて結界を張る。
結論として一義とかしまし娘……およびチンピラたちはクラブから出られなくなった。
「魔術師か!」
と驚愕するチンピラの一人。
そうしてどよめくチンピラたちを無視して、
「姫々……」
と一義は姫々を呼ぶ。
「何でしょう……ご主人様……」
「遠慮なくやっちゃって」
「了解しました……」
簡潔に一つ頷くと、
「……っ!」
姫々はハンマースペースから十丁を超えるマスケット銃を取り出すのだった。
「「「「「そんなっ!」」」」」
チンピラたちが悲鳴を上げる。
そんなチンピラたちの心構えなど気にせず、姫々はトリガーを引く。
十三人のチンピラは狼狽えて、そして姫々の的となった。
マスケット銃のダムダム弾はチンピラたちの体を正確に壊していく。
「「「「「ぎゃあああああああああああっ!」」」」」
と撃ち抜かれたチンピラたちが悲鳴を上げた。
弾道破壊学の理に沿った威力の弾丸は確実にチンピラたちの肉体を壊すのだった。
あるチンピラは窓から逃げようとする。
しかして見えない壁に弾かれて、
「なんだこりゃぁ!」
驚き狼狽える。
「結界だよ~」
と呑気に答える音々と、
「それではさようなら……」
と皮肉って銃口を向けて発砲する姫々。
チンピラの頭部に銃弾が突き刺さって生命活動を停止させる。
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