第28話 いざ王都05

 ランナー車に乗って二日目。


 一日目は途中の街で一泊し、引き続きランナー車によって王都まで運ばれる一行はカードゲームに興じていた。


 ちなみにランナーライダーの他に、魔術防御をランナー車にかけている魔術師が一人だけ車内にいる。


「王都まで馬で十日のところがロードランナーなら三日……か。すさまじいね」


 感慨深げに一義は言う。


「それにしても車体を浮かせるってのは誰が考えたんだろうね?」


 車の中から窓を除けば、山道の風景が恐ろしいスピードで流れていく。


 それだけロードランナーの速力が異常だということだ。


「私が知っている限りでは生まれた時からありましたね。乗ったのはそんなに多くないんですけど……」


「それでも乗ったことはあるんだ」


「はい。鉄の国では何度か」


「あ、そっか。宮廷魔術師だったっけ?」


「はい」


 コクリと頷くアイリーン。


「ふうん。でも便利な乗り物もあったものだね。これが普及すれば地図の書き換えが必要になるんじゃない?」


 そう問いつつワイズマンのカードをきる一義。


「それは無理です。前にも言いましたがロードランナーもランナーライダーも希少なんです。全ての人類に普及することはあり得ません」


 答えながらワイズマンのカードをきるアイリーン。


「しかして魔術での再現は可能なのではないでしょうか……?」


 ステップのカードをきりながら姫々。


「音々もそれ思った!」


 音々はステップのカードにより順番を飛ばされる。


「しかして生体を長く維持するのは人間には難しいだろう」


 花々が捨てられたカードを回収しながら言う。


「まあ、人間にはそうでしょうね……」


「うん! 人間にはね!」


「ああ、人間には……だ」


 かしまし娘が納得する。


「まるで人間以外には出来るみたいな言い方ですね」


 カードをきりながらアイリーン。


 それに対してかしまし娘が何か言うより先に、爆発音が炸裂した。


 あまりの爆音にカードゲームもそこそこに異常を感知する一義たち。


「ニトロ地雷ですか!」


 そう考察したのはアイリーンである。


 ニトロと呼ばれる液体は衝撃を受けると爆発する性質を持っている。


 それを地中深くに埋めるのがニトロ地雷である。


 人間の歩行程度には反応しないが、馬やロードランナーの激しい走行の衝撃に反応して爆発するトラップの一種である。


 事実ロードランナーは突然の爆発に驚愕し……暴れ出す。


 そんな冷静さを失ったロードランナーをなんとか御そうとするランナーライダー。


「山賊か……」


「山賊ですね……」


「山賊だね!」


「山賊だ」


「山賊ですね」


 一義とハーレムたちはそう断じた。


 そしてその通りに山賊たちが森の中から現れてランナー車を囲んだ。


 その数は十人を下らないだろう。


 山賊の一人が叫ぶ。


「おう! 逃げ場なんてねえぞ! おとなしく殺されろや!」


 そんな声を聞きながら、ランナー車を魔術にて守っていた付添いの魔術師が言う。


「お客人、できれば冷静に。わたくしが片付けますので」


 そう言って立ち上がろうとする魔術師に、


「その必要はありません」


 と一義が押し留めた。


「姫々……音々……いけるね?」


 一義がそう言うと、


「もちろんです……ご主人様……」


「わかったよお兄ちゃん!」


 躊躇いなく答える姫々と音々だった。


 そして姫々と音々はランナー車から降りると同時に殺気を膨らませた。


「おう。嬢ちゃんたちべっぴんじゃねえか。慰み者としては十分だな」


 山賊の一人がそう言う。


 つられて山賊たちが下卑た笑いを浮かべる。


 対して姫々と音々は即断即決だった。


 姫々は背中に両腕をまわして元の位置に戻すと、どこに隠していたのか二丁のマスケット銃を両手に持っていた。


「銃!?」


 驚いたのはアイリーンと山賊が同時である。


 その驚愕につけこんで姫々は躊躇いなく二丁のマスケット銃からダムダム弾やホローポイント弾と同種の……着弾すると変形するタイプの弾丸を発射させる。


 狙いは正確。


 空気の破裂音の後に二人の山賊が苦悶の表情で悲鳴を上げ倒れた。


「「「「「てめぇ!」」」」」


 山賊たちが憤怒の表情で姫々に襲い掛かる……が、それよりも早く、速く、


「ツララ剣山」


 音々が呪文を唱えた。


 次の瞬間、音々のパワーイメージが世界に投影される。


 そして音々と姫々とランナー車を避けて、ツララの槍が地面から剣山のように生え出た。


 それらの氷はあまりに鋭く、山賊全員を串刺しにする。


「すごい……」


 そう驚愕の声を漏らしたのはアイリーン。


 音々の圧倒的魔術によってモズの速贄と化した山賊たちに姫々が歩み寄り、新しいマスケット銃を背中から取り出して丁寧に殺していく。


 撃ち終えたマスケット銃はその辺に捨てて、どこからともなく十丁以上のマスケット銃を背中から取り出して正確に山賊を撃ち貫いていく。


「あの……一義……」


 とアイリーンが一義に声をかける。


「ん~?」


「姫々はどこにあれほどのマスケット銃を隠し持っていたのですか?」


「ハンマースペースって知ってる?」


「いえ、知りませんが……」


「要するに姫々は武器や兵器の類を無尽蔵にどこからともなく取り出すことが出来るんだ」


「武器を……どこからともなく……」


「そ」


 一義は肯定する。

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