第27話 いざ王都04
次の日の朝。
一義はいつも通りかしまし娘に起こされて朝食の席に着くと、シャルロットが席の隣にアタッシュケースを置いたまま、
「やあ一義。おはよう。いい朝だね」
爽やかに言ってのけた。
それに追従するように、
「おはようございます一義」
「おはようございますわ一義」
アイリーンとビアンカが朝の挨拶をする。
一義は「くあ」と欠伸をした後、
「はよ……」
とどこまでも眠たげにそうとだけ呟き、ダイニングの席に着く。
そして姫々が全員分の食事を用意して朝食が始まる。
今日の朝食はクラブサンドである。
ちなみに一義とかしまし娘以外にアイリーン……ビアンカ……シャルロット……と人口が増えたためエンゲル係数上昇中だが、そこは貴族であるビアンカの資本によって解決している。
「うん。味噌汁はやはりいいね。趣がある」
シャルロットが満足げにそう言うと、
「まるで前にも飲んだことがあるみたいな言い草ですわね?」
ビアンカがギリギリ挑発ではない問いをかける。
「これでも運び屋として大陸中をまわっているんだ。和の国だって行ったことはあるさ。君も一度行ってみるといいよ。自然と人工の調和による美を見て取れる」
「しかして東夷ばかりなのでしょう?」
「ちゃんと人も住んでるよ。黄色人種だけど」
とこれは一義。
「姫々。今度味噌汁の作り方教えてくれませんか? 私の作った味噌汁を一義に飲ませてあげたいんです」
「構いませんよアイリーン様……」
姫々とアイリーンは和気藹々と料理について語り合う。
「花々! そのクラブサンド音々が取ろうとしてたのに!」
「残念だね音々。これはあたしが頂いたよ」
音々と花々はワーギャーと騒ぎ立てる。
女三人寄れば姦しいという。
今ここにいる女は六人。
二倍姦しいのはしょうがない事ではあった。
「ところでシャルロット……」
「なんだい一義?」
「そのケースは何だい?」
「サンタナ焼きだよ。運び屋なんだから然るべき場所に運んであげないとね」
「とすると貴族街に行くの?」
貴族街とはシダラにある裕福層の住む地域のことだ。
戦争は貴族が仕切って行なうのが当然な世の中であり、故に貴族は領地の主張と兵隊の指揮権を持っている。
ともあれシャルロットは首を横に振る。
「いや……このサンタナ焼きは王立魔法学院に持っていくんだよ」
「学院に白磁器を欲しがる奴がいるってこと?」
「さてね。僕はただ言われた通りにサンタナ焼きを学院長の元へと運ぶだけさ」
「学院長の趣味か……」
味噌汁をズズズとすすりながら一義は呆れたようにそう言った。
*
王立魔法学院への登校。
一義は姫々と音々と花々とアイリーンとビアンカとシャルロットを連れて歩いていた。
当然それは一義がエルフであることも含めて目立つわけで……。
「また増えてる……」
「ビアンカ様まで毒牙に」
「あの深緑の髪の美少女可愛くない?」
「可愛いけど……ドラゴンバスターバスターのハーレムかよ……」
「東夷のくせに調子にのってやがる……!」
「馬鹿! 殺されるぞ!」
そんな羨望と嫉妬と殺意を含んだ衆人環視の声が一義の耳にも届くのだった。
つっこむの馬鹿らしく一義は相手にしない。
「ところで……」
一義がかしまし娘以外のハーレムに問う。
「アレ……何……?」
と一義は指差した先……王立魔法学院の正門に止められている奇妙な車に疑問を発する。
その車はとても奇妙だった。
一般的な馬車と構造は似ている。
動物が手綱に縛られ、その後ろに車がついている。
ただしその動物が奇妙だった。
全身緑色の人一人くらい丸呑みにできそうな大きなトカゲだったのだ。
一義が疑問を覚えるのも頷ける。
アイリーンが答えた。
「あれはランナー車ですよ」
「ランナー車?」
「あのトカゲもどきはロードランナーと云う走ることに特化した化け物トカゲです。数こそ希少ですが馬の二倍から三倍の速度で走れることから王侯貴族に親しまれている高級車ですね」
「馬の二倍から三倍?」
「はい……。例えばここから鉄の国の鉄血砦までなら一日でついてしまう脚力を持っています。速いですよ?」
「ちょっと待って。それって……鉄血砦が本気を出せば一日でシダラに攻め入ることが出来るって代物じゃないの? いいの? そんなものが存在して……」
「大丈夫です。ロードランナーは希少ですしランナーライダーも希少ですから。軍に使われることはありません。あくまで王侯貴族用の乗り物ですよ」
「ランナーライダーって?」
「ランナー車の手綱を握る職人さんです。ロードランナーの手綱を握り、魔術によって車体を宙に浮かす魔術を持つ人間のことですね。ただでさえ魔法は軍事強化を目指しているため、それ以外の魔術を覚える魔術師は希少なんです」
「なんで車体を宙に浮かせるのさ?」
「それはもちろん乗り心地の確保のためですよ。ロードランナーの速度は馬の二倍から三倍ですよ? 愚直に走らせたら乗り心地は最悪ですから」
「そりゃそうだ」
と一義は納得する。
「ということはやんごとなきお方が王立魔法学院に来ているのかな?」
「あるいは迎えをよこした……という可能性もありますね」
一義の言葉に補足するアイリーン。
「それより一義。早く僕を学院長室まで案内してくれないかな?」
「そりゃそうだ。ロードランナーにかまけている場合じゃなかった」
一義とそのハーレムとシャルロットは一コマ目の講義をサボって学院長室に向かった。
勝手知ったるという様子で老齢の秘書が学院長室へと一義たちを通し、妙齢の女性である学院長が中で迎えた。
一義たちはソファに座り……、一人座らなかったシャルロットが大きなアタッシュケースを学院長に差し出した。
「サンタナ焼きを運んでまいりました。ご確認を」
「…………」
学院長は答えず、しかし応えた。
アタッシュケースの中身を確認して、それから、
「ご苦労様です。では報酬を」
学院長がパチンと指を鳴らすと若い秘書が封筒を渡してくる。
「報酬の七百五十万スチールです。お確かめください」
そんな秘書の言葉に、
「信用していますから大丈夫ですよ」
そう答え、シャルロットは報酬を懐に収めた。
「ではこれにて取引は成立しました。ご退場を」
そんな学院長の言葉に、
「はい。もし何か運んでほしいモノがあれば何なりと。では……」
そう一礼して、それからシャルロットは、
「一義……君の宿舎に戻ってもいいかい? まだ眠たくてね……」
そう一義に許可をとる。
「好きに使って構わないよ」
一義が許可を出すと、
「ではシダラにいる間は好きに使わせてもらおう。一義……君の優しさに感謝を」
答えてシャルロット学院長室から出ていった。
それに続いて学院長室を出ようとする一義とハーレムに、
「アイリーン様。一義さん。姫々さん。音々さん。花々さん。しばしお待ちを」
と学院長が引き留めた。
「なに?」
「なんでしょう……?」
「なぁに?」
「なんだい?」
「なんですか?」
と一義と姫々と音々と花々とアイリーンが首を傾げる。
「あなた方に依頼をお願いしたいのです」
と学院長は言う。
「「「「「お願い?」」」」」
一義たちが再度首を傾げる。
「はい」
と学院長は頷き、
「シャルロット嬢の運んできたこのサンタナ焼きを……」
そう言いつつアタッシュケースを持ち上げてみせて、
「王都ミストまで運んでほしいのです」
そう願った。
さらに補足する学院長。
「今回のサンタナ焼きを依頼したのは霧の国の女王陛下なのです。とはいえシャルロット嬢を王都に向かわせるわけにもいかない。故に一義さんたちに頼みます。ついでにアイリーン様の処遇についても王都で決めてもらいます故……アイリーン様と、その護衛として一義さん、姫々さん、音々さん、花々さんに同行してもらいたいのです」
「あ、もしかして正門前に止めてあったロードランナーって……」
「はい。王都から派遣された……あなた方を運ぶための陛下のお心配りです」
学院長は頷いた。
「あの……わたくしはどうすれば……?」
と問うたのはビアンカだ。
「ビアンカさんには残ってもらいます」
「なんでですの?」
「ドラゴンバスターたるビアンカさんは王立魔法学院の貴重な戦力です。このシダラが鉄の国の鉄血砦に対する牽制の意味を持っているのは重々承知のはずでしょう? ビアンカさんが一義さんのハーレムに入ったことは聞き及んでいます。しかしてあなたはシダラの貴重な武力なのです。故にあなたにはここに残ってもらいます」
「…………」
無言で、しかしビアンカは納得する。
「では一義さん、姫々さん、音々さん、花々さん……アイリーン様とサンタナ焼きをどうかよろしくお願いします」
深々と一礼する学院長。
こうして一義と姫々と音々と花々とアイリーンはランナー車に乗って王都ミストまで赴くことになったのだった。
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