第29話 いざ王都06

「僕が確認しただけでも百トンハンマー……マスケット銃……野砲……ダイナマイト……和刀……クナイ……他にも諸々……」


「魔術ですか?」


「そうだよ~」


 あっさりと頷く一義だった。


「だから持続は永遠じゃない。ほら、姫々が使い捨てた十丁以上のマスケット銃……いつのまにか消えてるでしょ?」


 そんな一義の言葉にアイリーンは外に目をやると、


「……本当です」


 地面に散らばっていたマスケット銃がさっぱりと消えてなくなっているの確認できた。


「音々の魔術も凄まじいですね」


 氷による針のむしろである。


 今は既に術者の維持を終えて虚空に帰っているが。


 結果、十数体の山賊の死体が山道に転がることになった。


「これで全てだね!」


 そう言って気をほぐした音々に、


「まだ!」


 と姫々が声を荒らげ、そして姫々は背中から和刀を取り出した。


 次の瞬間、森にうっそうと茂る樹々の中から黒衣に仮面をつけた金髪金眼の刺客が飛びだしてきた。


「ファンダメンタリスト……!」


 呟いたのは一義。


 一義には不思議であったのだ。


 いくら山賊とはいえ、王侯貴族が乗り、万全の防衛戦力を持つランナー車に喧嘩を売る馬鹿はいない。


 それが喧嘩を売ってきたとなると……後ろで糸を引いている人物がいるのではないか、と……。


 結果としてそれは正しかった。


 アイリーンを助けた際に襲い掛かってきたヤーウェ教原理主義過激派ファンダメンタリストの刺客が再度襲ってきたのである。


 音々は魔術の投影を諦めて、バックステップで黒衣仮面のナイフを避けた。


 そこに、


「シィッ!」


 と和刀を握った姫々が黒衣仮面に襲い掛かる。


 その和刀をナイフで切り払って、一瞬で姫々の懐に飛び込むと、そのみぞおちに肘を撃ちこんだ。


「げあっ!」


 と悲鳴を上げる姫々。


 瞬間、


「ツララ剣山!」


 と音々が魔術を起動させる。


 黒衣仮面の足元から殺気の乗った氷の針が黒衣仮面を串刺しにせんと地中から生え出てきた。


 黒衣仮面はというと氷の剣山を避けるように真上にジャンプし、そして、


「な……っ!」


 音々の驚愕の一瞬前に氷の針の上にてバランスを保って立っていた。


 いったいどれほどのボディコントロールがそれを可能とするのか。


 一義以外の人間は絶句する。


 そしてその驚愕の一瞬をついて黒衣仮面はランナー車に突撃した。


 毒の塗られたナイフ。


 それがアイリーンの首元に刺さろうとした瞬間、


「……っ!」


 クナイを服の裏地から取り出した一義が、そのクナイで黒衣仮面の毒ナイフを弾いた。


 それだけでは終わらなかった。


 黒衣仮面は片手にナイフを持っているだけだが……、一義は両手にクナイを持っているのだ。


 黒衣仮面のナイフを弾いたクナイとは別のクナイで一義は黒衣仮面の首を狙う。


 それは的確に黒衣仮面の喉を貫こうとして、しかして、


「駄目ぇ!」


 とアイリーンがあげた悲鳴とともに、ピタリと止まった。


 その一瞬の隙をついて、ランナー車内から避難する黒衣仮面。


 外に出た黒衣仮面に姫々のマスケット銃と音々の魔術が襲い掛かった。


 炸裂音と爆発音が響いて、黒衣仮面を殺そうと躍起になる姫々と音々。


 しかして黒衣仮面は弾丸を避けるばかりかナイフで弾いてすらみせ、魔術は的確に回避していた。


 アイリーンが衝動に駆られてランナー車から飛び出す。


「フェイちゃん!」


 アイリーンがそう叫ぶと、


「…………」


 黒衣仮面はピタリと動きを止めて、アイリーンを向く。


「異端……アイリーン……」


 と黒衣仮面がアイリーンに答える。


 場は一触即発の雰囲気で沈黙が支配する。


 一義はクナイをいつでも投擲できるように構えている。


 姫々は背中から取り出した二丁のマスケット銃を正確に黒衣仮面に向けて狙いをつけている。


 音々はいつでも魔術を投影できるようにトランス状態を維持している。


 花々はボーっと車内で場の移り変わりを観察していた。


 そしてアイリーンが叫ぶ。


「もう止めましょうよフェイちゃん! 私は……私はフェイちゃんと殺し合いなんてしたくないです!」


「なら今すぐ死ね」


 黒衣仮面は断じる。


「それは嫌です!」


 突っぱねるアイリーン。


「なら……異端たるアイリーンを殺すまで……」


 そう言ってナイフを構える黒衣仮面に、


「僕たちが手を出させると思うかい?」


 と一義が挑発する。


「是」


 と簡潔に頷くと黒衣仮面は山道を挟む森の奥へと消えていった。


「っ!」


 姫々が逃がすまいとマスケット銃を撃つが、弾道を見切られナイフで弾かれる。


 そしてファンダメンタリストの刺客……黒衣仮面は森の奥へと消えていった。


「深追いはしないでね」


「しません……恐ろしいですから……」


 撃ち終えたマスケット銃をその辺に捨てて虚空に帰すと姫々は張っていた気を緩めた。


「あれがファンダメンタリストの刺客ですか……。ご主人様とわたくしと音々でもってすら殺せないとは……」


「すごく強いよね! 音々ビックリしちゃった!」


「体さばきが人外だったね。あたしでも驚いた」


 かしまし娘が黒衣仮面にそんな感想を持つ。


 一義は両手のクナイを袖に隠して、ガシガシと後頭部を掻く。


 ロードランナーは既に落ち着きを取り戻していた。


「アイリーン……」


 と一義がアイリーンに問う。


「どういうことか説明してもらえるよね?」


「…………はい」


 苦虫を噛み潰したような表情で頷くアイリーンだった。

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