第20話 決闘08

「では……ご主人様は本当に戦われると……」


 銀色の美少女……姫々がザッハトルテをフォークで崩しながら言う。


「お兄ちゃん……危ないことはしてほしくないな!」


 黒色の美少女……音々がショートケーキをフォークで崩しながら言う。


「負けるとは思わないけど旦那様が傷つくのをあたしは見ていられないよ」


 赤色の美少女……花々がモンブランをフォークで崩しながら言う。


「一義……本当に大丈夫なの?」


 金色の美少女……アイリーンがホットケーキをナイフで切り分けながら言う。


「大丈夫だよ。勝算がないわけじゃないから」


 紅茶を飲みながら一義が言う。


 ここは王立魔法学院の近くの甘味処。


 時間は放課後。


 一義とハーレムはテラス席で甘味と紅茶に舌鼓をうっていた。


「でもご主人様が負けてくれたらライバルが減っていいかも!」


 と音々。


「ああ、それはそうだね。姫々があのドラゴンバスターに仕えるというのならライバルが一人減るね」


 と、これは花々。


「ご主人様……」


 不安そうに一義を見る姫々に、


「大丈夫だよ。たとえ僕が負けても姫々をビアンカに渡したりしないから」


 一義はそう述べ立ててウィンクした。


「え……? お兄ちゃん約束を守る気ないの?」


「最初から反故する気でいたってのかい……旦那様?」


「うん。まぁ」


 淡泊に一義。


「ご主人様……光栄です……! ご主人様はわたくしを見捨てるつもりがありませんのですね……!」


「うん。まぁ」


 ガシガシと後頭部を掻く一義だった。


「それで……勝算はどのくらいなのお兄ちゃん?」


「うーん。九割九分九厘ってところかな?」


「ほう。負けるつもりはない……と旦那様は言うんだね?」


「ま、冷静に彼我を考察すると……だけど……」


「しかしてご主人様……ドラゴンバスターは身体強化を使えるのでしょう……? 魔術をろくに使えないご主人様は体術において上回るしかないと思うのですけど……その那辺は如何に……?」


「まぁ身体強化の度合いにもよるけど競り負けるとは思わないね」


「大した自信ですね」


 ホットケーキを食べながらアイリーン。


「まぁ色々ありまして。かしまし娘ならわかるよね?」


「それは……」


「まぁ……」


「そうだけどね……」


 首肯するかしまし娘だった。


「そんなに一義は白兵戦に強いの?」


 首を傾げるアイリーンに、


「和の国では……」


「お兄ちゃんに敵う奴なんて」


「いなかったね」


 と、かしまし娘。


「ふーん。すごいんだね一義」


「そんな大したものじゃないよ。要するに人を殺す術に長けているってだけだから。嫌悪こそすれ感心されるものじゃない」


 紅茶を飲みながら一義は言う。


「まぁ死んでも私が生き返らせてあげるからその辺の心配はしてないけどさ」


「僕の体がぶった切られても蘇生できるの?」


「うん。そこに死体があるのなら」


「反魂の魔術……か。便利だね……。そんな非シンボリック魔術を……オリジナルマジックを使えるなんて……」


 そう褒めそやす一義に、


「……うーん……」


 とアイリーンは呻いて、そして声のトーンを低くして言った。


「……これは……ここだけの話にしておいてほしいんですけど……」


 そう言ってチョイチョイと指で顔を突き詰めるようにサインを送るアイリーンに、一義とかしまし娘は身を乗り出す。


 その状況でアイリーンはボソッと、


「……反魂の魔術は実は非シンボリック魔術ではないんです……」


 そう言った。


「……え……?」


「……はい……?」


「……ほお……」


「……へえ……」


 驚く一義とかしまし娘。


「……じゃあ……何だって言うのさ……?」


 ボソボソと周りには聞こえないように尋ねる一義に、


「……反魂の魔術はシンボリック魔術……火、水、風、土の中の……土属性の魔術なんです……」


 アイリーンはそう答えた。


「……どういうことでしょう……?」


「……どういうことなの……?」


「……どういうことなんだい……?」


 疑問を持つかしまし娘に、


「……人間の持つエーテル体が火の属性であることは知っていますか……?」


 アイリーンがそう問う。


「……そういえば……そう習いましたね……」


「……うん。講義で習った……」


「……それがどうしたんだい……?」


 そんなかしまし娘の疑問に、


「……肉体が土の属性ということも知っていますか……?」


 アイリーンはさらに問いを重ねる。


「……それは……」


「……当然……」


「……知っているけども……」


 そんなかしまし娘の言葉を要約して、


「……で、それが何……?」


 一義が本質を聞くのだった。


「……私の魔術である反魂は土の属性である肉体を修復するだけの能力です……」


 そんなアイリーンの言葉に、


「「「「っ!」」」」


 一義たちは絶句する。

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