第19話 決闘07

「しかし奇遇だね」


「何がさ?」


「むしろこちらから訪ねようと思っていたところだから」


「へぇ……なんでさ……?」


「ドラゴンバスターと決闘をするつもりらしいね」


 ジンジャーは本質を切り出した。


「あ、もうばれてるの」


「そりゃあのドラゴンバスターと決闘なんてほっといても学院中を駆け回りますよ。決闘の内容だけならシダラ中に喧伝されるでしょうね。こんな美味しいカード……滅多にありませんから。ところで……」


「なに?」


「姫々さんと音々さんと花々さんのかしまし娘はどうしたの? 別行動とは珍しいですね……」


「ああ、一組は今トランスセットの講義だから」


「なるほど。で……? そちらの金色の美少女は?」


「名前はアイリーン。元鉄の国の宮廷魔術師だよ」


 説明する一義に、


「ども。アイリーンです」


 ジンジャーに対して一礼するアイリーン。


「鉄の国……宮廷魔術師……金色の髪……アイリーン……」


 言葉というパズルのピースを集めて、


「あの……もしかして……反魂のアイリーン様……ですか……?」


 目を見開いて驚愕するジンジャーに、


「はい。反魂のアイリーンです」


 アイリーンは肯定する。


「一義が金髪の美少女を新たにハーレムに加えたって噂はありましたけど……」


「あ、もう広まってるんだ」


「それが反魂のアイリーン様!? どういう状況ですか!?」


「どういう状況と言われてもねぇ……。成り行きとしか……」


 いつものようにガシガシと後頭部を掻きながら一義。


「記事にしていいですか!?」


「駄目。アイリーンは鉄の国とファンダメンタリストに狙われてるんだ。記事にでもして状況がもれたら霧の国は鉄の国から圧力がかかるしファンダメンタリストの活動も活発化する」


「鉄の国とファンダメンタリストに狙われてるんですか!?」


「はぁ……まぁ……」


 アイリーンはポヤッとしてそう言った。


「それは記事にできませんね。惜しくて美味しいですけど……アイリーン様のことを考えると……ううむ……」


 よほど記事にしたいだろうことが伝わるジンジャーの苦渋の決断だった。


「それで……話題はこっからなんだけど……」


「なんでしょう?」


「僕とドラゴンバスターが決闘するのはもう周知の事実だけど……」


「そうですね」


「ドラゴンバスター……ビアンカの持っている魔術を教えてほしいんだ。できるだけ正確に。できるだけ克明に」


「ふうむ。そう聞くと一義は真面目にドラゴンバスターに勝つつもりに聞こえますね」


「勝つつもりだよ。そのための情報収集だ。禅の国にこんな言葉がある。敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。それにジンジャーは言ったよね? 『聞きたいことがあれば何でもどうぞ』って」


「つまりドラゴンバスターの能力を知ってから対策をたてようと……」


「そういうことだね」


「いいですよ。教えます」


 そう言ってジンジャーは、新聞部の壁の側面に置かれた本棚から一つの記事を取り出して、それを一義に渡した。


 一義は素直に受け取るとその記事に目を通す。


「シンボリック魔術は……火属性のファイヤーボールと土属性の身体強化……か。それから非シンボリック魔術は《殺竜》の魔術……。ジンジャー……この殺竜って何さ?」


「言葉通り……ドラゴンを殺すための魔術ですよ?」


「もっと具体的に」


「ドラゴンバスターのウィッチステッキはバスターソードです」


「ウィッチステッキ……?」


 クネリと首を傾げる一義にアイリーンが補足する。


「つまり魔女の杖と同義のパワーイメージを補足するアイテムのことですよ。それは杖であったり宝石であったり剣であったりする。それらを媒介に魔術を発動させるなら、そのアイテムをウィッチステッキというのです」


「なるほど」


 納得いったと頷く一義。


「で、ビアンカのウィッチステッキがバスターソードで何だっていうの?」


 そんな一義の問いに、ジンジャーが答える。


「私は直接見たことはないんだけどドラゴンバスターはそのバスターソードを振った領域の延長線上に斬撃を具現化して飛ばすことが出来るようなんだ。それが殺竜の魔術というわけだね」


「斬撃の具現化。バスターソードの剣閃を拡大するってことか」


「そういうことだね」


 頷くジンジャー。


「ありがとジンジャー。参考になったよ」


「あの……ここまで聞いてなおも勝つつもりでいるの?」


「うん。この程度の魔術なら恐れるに足りないね」


「その自信の根拠を教えてもらいたいんだけど」


「相手の手を知ったからってこっちの手は明かす理由はないさ。まぁ何はともあれ死ぬことはないかな。この程度なら勝てるよ」


 あっさりという一義であった。

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