第18話 決闘06
決闘は三日後に決まった。
決闘を行なうにも色々と準備があるらしい。
「ようするに客を呼んで興行の準備をするための時間だろうね」
と一義は言った。
この四過生と一過生九組の決闘の噂は、枯草畑に火をつけたように燃え広がった。
「ハーレム東夷がドラゴンバスターに喧嘩を打ったらしいぞ」
「ハーレム東夷がドラゴンバスターをハーレムに加えるつもりらしいぞ」
「ハーレム東夷が……!」
「ハーレム東夷が……」
ちなみにハーレム東夷とは一義の通称だ。
本人にとっては不本意を通り過ぎて侮辱にすら思える結果だったが、
「自業自得といえばその通りだね」
一義はそう諦めた。
そもそも姫々と音々と花々という美少女三人を連れているだけでも自業自得なのに、入学式の次の日にさらにアイリーンをもハーレムに加えたのだ。
よくない噂が流布されるのはしょうがないとも云えた。
そしてハーレム東夷の毒牙が次に定めた狙い……いわゆるところの被害者がドラゴンバスター……つまりビアンカだという流言飛語である。
全ての噂を要約し纏めるならば、それはこんな言葉に置き換えられる。
「「「「「東夷のくせに生意気な」」」」」
「ま、いいんだけど……さ」
一義はそんな悪意にもどこ吹く風だ。
「よくありませんよ。ドラゴンバスターの戦闘力はドラゴンをも凌駕するんですよ? 劣等性の一義が勝てるとはどうしても思えないのですけど……」
アイリーンがそう忠告してくる。
「ドラゴンってそんなに強いの?」
「はい。体はドラゴンスケイルと呼ばれる鉄壁の鱗に守られ、その牙や爪はドラゴンエッジと呼ばれてどんな硬いものをも切り裂き、口から吐くブレスは全てを消し去る。それがドラゴンという生き物です」
「壮大だね」
「そんなドラゴンを倒してのけるドラゴンバスター……ビアンカの強さがわかるというものでしょう?」
「まぁ負けたら負けたでいいじゃん」
「それは姫々を売っても構わないということですか?」
「いいや。そんな口約束を守る必要がないってことだよ」
「もしかして……負けても姫々を渡さないつもりですか?」
「うん」
あっさりと頷く一義だった。
「……人畜無害そうな顔してやることはえげつないですね……一義は」
「いやぁ……」
「褒めてません」
「知ってる」
「でも決闘で一義が殺されたならまったく意味がないと思うのですけど……」
「ま、なるようになるよ」
一義はどこまでもケロッとしている。
「その楽観視はどこから来るのでしょう?」
こめかみを押さえてうんうんと唸るアイリーンだった。
「それよりアイリーン……部室棟に行こう。部室棟……」
「なんのためにですか?」
「ジンジャーが新聞部に所属しているから会いに行こうと思うんだ。まぁついてきたくないっていうなら別に自由行動でもいいけどね」
「ついていきますよ。その代り一つ言葉が欲しいです」
「何さ?」
「あなたの口から言ってほしい『アイリーンは僕のハーレムだ』と」
「ああ、そんなこと。たしかに君がハーレムに入るって勝手に言っただけで僕は曖昧な言葉しか返してなかったね。いいよ」
一義は一息分吸って、
「アイリーンは僕のハーレムだ」
そう言った。
「嘘ではありませんよね?」
「それを僕に問うのかい?」
「……そうでした。いいですよ。それで納得してあげます。では部室棟とやらに行きましょうか」
「だね」
そう頷き合って一義とアイリーンは部活棟へと足を運んだ。
主にアイリーンが主導で。
というのも一義はエルフ……東夷であるから部活棟の場所を聞こうにも避けられてしまうだけだったからだ。
そうこうして部活棟を見つけ、しらみつぶしに扉を確認して、新聞部の扉をノックする一義だった。
「はーい」
と少女の声が聞こえてガチャリと扉が開かれる。
扉を開けて応対したのは、
「はや……一義……」
燈色の髪に燈色の瞳を持った美少女……ジンジャーだった。
一義は視線だけをジンジャーを通り越して室内へと向ける。
そこには誰もいなかった。
「ジンジャー以外はいないの?」
「ええ。今新聞部の部室にいる部員は私だけだから」
「そりゃちょうどいいや。中に入れてもらっていい?」
「どうぞどうぞ。ああ、椅子に座っていいよ。今は私以外誰もいないから」
「そりゃどうも」
「ありがとうございます」
そう感謝の意を表して一義とアイリーンは新聞部室内の簡素なパイプ椅子に座る。
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