第14話 決闘02
「増えてる……」
「増えてるな……」
「増えてるぞ……」
「増えてますわね……」
「増えてるぞコンチクショウ……!」
ざわめく衆人環視にうんざりさせられながら一義は王立魔法学院の内部を練り歩いていた。
「ハーレム……」
「女たらし……」
「きっとあの子たちはエルフに魂を略奪されたのよ……」
「それなら理屈に合う」
あわないよ、とは一義は反論しない。
無駄だと悟っているからだ。
右手は音々と恋人つなぎ。
左腕は花々に抱きつかれている。
そしてそんな一義と音々と花々の三歩後ろを姫々とアイリーンがついてきていた。
銀色の美少女に金色の美少女が三歩後ろをついて歩けば誰だって種や仕掛けを知りたくなるだろうことは当然である。
しかもそれがデミヒューマン……東夷によるものだと知れば通常以上に。
「ま、いいんだけどさ」
剣山に座らされているような心境を客観視し、一義はそう呟いた。
キョトンとして音々が問うてくる。
「何がいいの? お兄ちゃん……」
「ん~? こんなに可愛い女の子を四人も連れて歩けるなんて僕の男冥利に尽きるって思ったんだ」
そこに頷きながら花々。
「うむ。その判断は正しいね。旦那様はあたしと共にいることに幸福を覚えるべきだ」
「うん。できるだけそうする」
そして姫々。
「ご主人様……わたくしが可愛いのだとすれば即ちご主人様のおかげです……」
「まぁ姫々をそうしたのは僕なんだけどさ……」
それから、
「私……可愛いですか?」
とアイリーンがポカンとした。
「うん。可愛いよ。それも抜群に……」
「そ、そうですか……」
顔を赤らめて俯くアイリーンだった。
「ところでアイリーン……」
「何でしょう一義?」
「アイリーンは王立魔法学院に何しに来たの?」
「亡命です」
あっさりとそう言ったアイリーンの言葉に対応できず、
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
一義とかしまし娘は沈黙した。
最初に沈黙から立ち直ったのは一義。
「えーと亡命って……あの亡命……?」
「ほかにどの亡命がありましょうや?」
「なして?」
「窮屈な生活を強いられていたからです」
「窮屈……ね……」
「どこから逃げてきたの?」
「鉄の国です」
「すぐ隣じゃないか……」
「はい。他に手立ても無く……王立の魔法学院ならばと思いこちらまで寄った次第で」
「で、王立魔法学院には来たけどこれからどうするの?」
「できれば学院長に会って話がしたいのですが」
「姫々……学院長室はわかる?」
「はい……」
と姫々は頷き、
「こちらですアイリーン様……」
と先導して歩き出した。
一義たちは学院の中央に向かって歩きだし、それは他の生徒の眼に容易く触れた。
「東夷だ……」
「近づいただけで魂が穢されるらしいぞ……」
「じゃああのハーレムの子たちは既に……?」
「そういうことじゃねえの」
そんな衆人環視のヒソヒソ話を耳にして、「そういうことじゃないから」と心中つっこむ一義であった。
そうこうどよめく衆人環視の目を振りきって……一義たちは王立魔法学院の中心にある真っ白な特別棟に入っていった。
特別棟は壁や天井……床に扉といった内装まで白かった。
「学院長室はここの最上階……五階になります……」
そう言って階段を上っていく姫々。
一義たちも粛々とそれに続く。
五階に着くと、そこには眼鏡をかけた老齢の女性が学院長室の扉の前に置いてある席に座って、こちらを睨みつけてきた。
「なにか学院長に御用かい。お嬢さん方」
不機嫌さを隠しもせずにそう問う老婆に、
「こちらの……」
と姫々がアイリーンを示す。
「こちらのアイリーンが学院長に話があるとのことです」
「どうも……」
遠慮がちに頭を下げるアイリーン。
老婆は訝しがるようにアイリーンを見て、それからその目を驚愕に見開いた。
「金色の髪……! アイリーン……! もしかして《反魂のアイリーン》か……!?」
「はぁ……そのアイリーンです……」
アイリーンはぼんやりと首肯する。
「しばしお待ちを……! 今学院長に執り成してまいりますので……!」
先ほどまでと丸っきり態度の変わった老婆は慌てるように学院長室へと入っていった。
「いきなり秘書さんの態度変わったね。アイリーンってもしかして有名人?」
「まぁ大陸西方では少しだけ名が知られているってだけですよ」
「つい最近まで和の国にいた僕たちが知らなくて当然か……」
後頭部をガシガシと掻きながら一義。
そんなことを言い合っていると、
「どうぞアイリーン様……学院長がお会いになるそうです」
アイリーン様ときたか……と心中苦笑する一義。
「では行きましょう。一義……姫々……音々……花々……」
「え?」
「わたくしたちも……」
「いっしょに……」
「ついていかなければならないのかい?」
と問う一義とかしまし娘に、
「あなた方にも私を取り巻く現状を知っておいてほしいのです。味方は多い方がいい」
「ま、そういうことなら行くけどさ」
ガシガシと頭を掻きながら一義が歩き出す。
「むぅ……」
「むうぅ」
「むううぅ」
とかしまし娘は不満そうだった。
アイリーンという金色の美少女に追従する一義に嫉妬の炎を燃やしているのだった。
「これは……」
「新たなライバルの」
「出現かな?」
そんなかしまし娘の現状評価に、
「馬鹿なこと言ってないでとっとと行くよ」
と一義はアイリーンに続いて学院長室へと呑みこまれていく。
それに続くかしまし娘。
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