第12話 王立魔法学院入学式とその後12

「アイリーンです」


「ん?」


「私の名前はアイリーンと言います。さきほどは助けていただいて感謝します東夷……じゃない……エルフの人」


「僕は一義って言うよ。敬称はいらないから一義って呼んで」


「いちぎ……ですか……不思議な名前ですね」


「まぁ大陸最東方の出だからね」


 一義は苦笑する。


「一義、今夜の恩を私は忘れません。しかして私が返せる恩というのは私が一義から遠ざかるというだけのことです。面倒事に巻き込んでしまって申し訳ありません」


「袖振り合うも多生の縁……って言ったでしょ? 別にアイリーンが気にする必要はないよ? それに一人でいると危ないじゃないか。僕たちと一緒にいた方が安全だよ?」


「私はファンダメンタリストに狙われる身です。ですから誰かを巻き込むわけにはいかないんです……」


「じゃあこの後どうするんだい?」


「どう……と言われましても……」


 狼狽えるアイリーンに、


「僕の宿舎……部屋が一個余ってるからアイリーンを匿えるよ?」


 一義が提案する。


「そこまで迷惑をかけるわけには……それにこれから王立魔法学院に助けを求めようと思っていますし……」


「ああ、それなら大丈夫。僕は王立魔法学院の生徒だから。今日は僕のところに泊まって、明日太陽が昇ってから王立魔法学院にいけばいいんじゃない? ほら……僕がいればさっきの暗殺者に対する牽制にもなるしさ」


「はあ……」


 ポカンとして頷くアイリーンだった。


「じゃあ決まり。一晩だけだけど僕の宿舎に泊まりなよ。大丈夫。宿舎には他に三人の女の子が住んでるから。狼にはならないよ?」


「では……お願いできますか?」


「それはもちろん」


 一義はニッコリと笑うのだった。




    *




「というわけで連れてきちゃいました」


 朗々と説明した後、そう結論付ける一義に、


「…………」


「…………」


「…………」


 姫々……音々……花々のかしまし娘は沈黙した。


 時間は日にちの変わるそれ。


 場所は一義とかしまし娘の住んでいる宿舎……の玄関。


「どしたの? 黙っちゃって?」


 首を傾げる一義に、


「またですか……」


 と姫々が嘆息し、


「お兄ちゃん……まぁた浮気……?」


 と音々が訝しげに言って、


「旦那様……フラグを立てるのにもほどほどに。これではあたしたちが何のためにいるのかもわからないじゃないか……」


 花々が苦言を呈す。


 そんなかしまし娘に対して、


「なんのためって……かしまし娘に対する要求なんて二つしかないでしょ?」


 あっさりと一義。


「まぁ……」


「それは……」


「そうだがね……」


 かしまし娘は不満そうである。


 無論それは愛しの主人たる一義が新たな女の子にコナをかけていることに対する不満ではあるのだが。


「もし暗殺者が今夜にでも再襲撃をしたらどうなると思いますか……」


 姫々がそう提案すると、


「それは大丈夫。暗殺者の拠り所は毒だからね。僕に毒が効かないことくらいかしまし娘は知ってるでしょ?」


 あっさりと一義。


 次は音々である。


「でもお兄ちゃんに対する危険が増すという意味では音々も素直には頷けないよ」


「そんなの和の国にいたって同じじゃないか」


 やはりあっさりと一義。


 今度は花々だ。


「それにもまして旦那様の美少女に対する運命には嫉妬せざるを得ないね」


「それはかしまし娘には関係ないことでしょ?」


 どこまでもあっさりと一義。


「まぁ……」


「それは……」


「そうだがね……」


 かしまし娘はそれ以上何も言えなかった。


「私は邪魔みたいだから退散するね……」


 そう言うアイリーンの首根っこを引っ掴んで、


「これから何処に行こうというんだい?」


 現実を見せる一義だった。


「まぁ野宿には慣れてるし……地面でも寝れないことはないから……」


「だめだよそれじゃ。ほら、金髪もくすんでる。姫々……アイリーンをお風呂に入れてあげて……」


「承知しました……ご主人様……」


 一礼すると姫々はアイリーンの首根っこを引っ掴んで、


「あーうー」


 と強制的に連行されている犯罪者の声を出すアイリーンを風呂場へズルズルと引っ張っていくのだった。


「じゃあ音々と花々は余ってる私室の一室を片付けといて。これ、命令だから……」


「了解……お兄ちゃん……」


「理解するよ旦那様」


 そう言って5LDKの余っている一室へと向かう音々と花々。


「くあ……」


 と一義は欠伸をして、


「あとはかしまし娘に任せるか……」


 そう他力本願気味に呟いて、自身の私室へと向かい、そして寝間着に着替えるとベッドに飛び込んだ。


 そこで一義は意識を失うのだった。

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