第11話 王立魔法学院入学式とその後11
そして、
「アイリーン……死ね……!」
そう言って黒衣仮面は短刀をアイリーンに投げつけた。
「ひっ……!」
と恐れて危機にも対応せずに目をつぶるアイリーン。
そして暗殺者たる黒衣仮面の投げた短刀は、一義が懐に隠し持っていた槍の穂先だけを取り出したような短刀……クナイによって弾かれた。
それに対して、
「……っ!」
アイリーンと、
「……っ!」
黒衣仮面が同時に驚愕した。
「邪魔立てするか……東夷……!」
「うん。まぁ」
「なにゆえだ……!」
「困ってる人を放っておけないから……かな?」
「偽善だ」
「まぁそうだね。でもこんな可愛い子を見捨てるなんて僕には出来ない」
「か……可愛い……!」
アイリーンがボッと頬を赤くして狼狽えたが、気を張っている一義と黒衣仮面は気付かなかった。
「和の国には袖振り合うも多生の縁という言葉があってね……」
「?」
意味がわからず首を傾げる黒衣仮面に、
「知らない人とたまたま道で袖が触れ合うようなちょっとしたことも前世からの深い因縁である……ってことさ」
「是。あなたが死ぬ理由としてはそれで十分ですか?」
「僕がこの子を助ける理由としてはこれで十分だよ?」
「是」
簡潔にそう言って、黒衣仮面は新たな短刀を取り出して一義に襲い掛かった。
一義は「和刀が無いのはうかつだったなぁ」などと自虐しながらクナイを構えて黒衣仮面に真っ向から挑みかかった。
一義のクナイが刺突という形をとって黒衣仮面の首筋に襲い掛かる。
それを短刀で弾く黒衣仮面。
次の瞬間、黒衣仮面は深く姿勢を落として、一義に足払いをかける。
一義はそれを跳んで避ける。
空中に身を置いた一義目掛けて短刀を振るう黒衣仮面。
空中では避ける術もない……と思った黒衣仮面の思案を裏切り、一義は小路の狭さ故に壁を蹴って短刀を避けた……どころか……、
「シィッ!」
凶暴に息を吐くと、恐るべき脚力によって上下左右前後の全方位を……壁を蹴って制圧し……多面的に黒衣仮面へと襲いかかった。
「くっ!」
周囲の壁を蹴って空間的に襲い掛かる一義に対して黒衣仮面は劣勢を強いられた。
一方的に攻撃を振るう一義が……黒衣仮面の首筋にクナイを吸い込ませようとした瞬間……、
「っ!」
黒衣仮面は姿勢を低くした。
仮面でクナイを受け止める黒衣仮面。
「っ!?」
その仮面の硬さ故にクナイが通らないことを悟り、焦った一義めがけて、
「しっ!」
黒衣仮面は短刀を振るう。
それはわずかではあったが一義の首筋を軽く切り裂いた。
「あ……ああ……!」
金色の美少女ことアイリーンが絶望を吐露する。
「駄目だ……! やっぱり駄目なんだ……!」
そんなアイリーンの絶望の吐露に、
「何をしてるんです? 僕が時間を稼ぎますからあなたは早く逃げてください」
一義はそう声をかける。
「駄目だよう……! もうあなたは助からない……! ファンダメンタリストのナイフを受けたら誰であろうと助からない……!」
「毒……でしょう?」
一義が真実を照らすと、
「なん……で……?」
アイリーンは驚いたように一義を見た。
「体内に入った毒物について僕は分析および排除ができるんですよ。まぁ忍としての最低限の能力ですけどね」
「しの……び……?」
「はい」
頷く一義。
「不可思議。なにゆえ我の毒ナイフを受けてまだ動ける……?」
黒衣仮面もまた疑問を持ったらしい。
「僕に毒は効きませんよ。僕を殺したいなら直接首を切り落とすことですね」
「是」
簡潔にそう言って黒衣仮面が襲い掛かろうとしたところに、
「そこの可愛いお嬢さん」
「可愛い……じゃなくて……なんでしょう……?」
「耳を塞いでもらえる? 今から大きな音がするから」
「火薬でも使うの? まぁわかりましたけど……」
そう答えて耳を塞ぐアイリーンを見やり、それから襲い掛かる黒衣仮面を見やって、一義は、
「あっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と大声を出した。
それは肺活量の限界を超えた発声だった。
周囲が音波によってビリビリと震える。
そしてそれは……その大声は……黒衣仮面の耳に直撃して感覚を狂わせた。
あまりの音の破裂に黒衣仮面の三半規管が狂ったのだ。
目に見えて動きが遅くなる黒衣仮面に、
「しっ!」
と呼吸して、クナイを振るう一義。
黒衣仮面は何とか体勢を整えて、バックステップすることで一義のクナイを避けた。
一義はクルクルとクナイを手元でまわして黒衣仮面に問う。
「……どうする? さっきの大声でここには人が集まるよ? それでもまだ暗殺に身を費やすつもりかい?」
「否……」
そう呟いてバックステップに次ぐバックステップを行ない、黒衣仮面は夜の闇へと消えた。
「ふぅ……やれやれ……」
とわざとらしく安堵の声を出し、クナイをジャケットにしまうと、
「大丈夫ですか? お嬢さん……」
とアイリーンに向かって手を差し伸べる一義だった。
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