第2話 王立魔法学院入学式とその後02

「ところでやっぱりなんだけど……誰も僕のことを一義って呼んでくれないんだね」


 エルフの少年……一義はそう言った。


「ご主人様はわたくしのご主人様です故……」


「お兄ちゃんは音々のお兄ちゃんだからね!」


「旦那様はあたしの旦那様だから」


 きっぱりと言い切るかしまし娘に、


「まぁそう定義づけたのは僕だけどさ……」


 嘆息しながら呟き、そして、


「いただきます」


 と一義は一拍した。


 それに続いて、


「いただきます」


「いただきます」


「いただきます」


 とかしまし娘もダイニングテーブルの席について食事を始める。


 和の国では「侍女たるわたくしがご主人様と食事を共にするなどあってはならないことです」と遠慮していた姫々も、今では一義の命令によって一義と音々と花々とともに食事をするようになったのだった。


 焼き魚を解体して身を口に運び、一緒に白米を口に運び、咀嚼、嚥下する一義。


 そんな一義をおずおずと見やって、


「どうでしょう……ご主人様……? 朝食の味は……」


 姫々はそんなことを聞く。


 一義はズズズと味噌汁をすすって、


「美味しいよ、姫々」


 ニコリと笑う。


「あは……光栄です……ご主人様……」


 姫々はそう言って表情をほころばせた。


「むう……」


「むうぅ……」


 などと、どこか不満げな音々と花々にも一義は意識をやって、


「魚を仕入れてきたのは音々で……味噌を仕入れてきたのは花々だったね……。霧の国の市場で探すには難しかっただろうに……よく頑張ったね。ありがとう」


 感謝する。


「いやぁ……お兄ちゃんのためを思えば……」


「まったくまったく。旦那様のためならえんやこらだよ」


 照れる音々と花々に、


「それでもありがとう」


 と述べて一義は朝食に戻る。


 それから今日の王立魔法学院の入学式について色々と語りながら一義とかしまし娘は朝食を終えた。


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


 そう言って皆で一拍。


 そして朝食を終えると、


「お兄ちゃんお兄ちゃん! 音々が髪を梳いてあげる」


「ありがとう音々。音々は優しいね」


 本心からそう言って音々の頭を撫でる一義に、


「えへへぇ……」


 と最上の喜びの表情をして顔を赤らめる音々。


「ではわたくしは食器を洗いますので後のことは頼みましたよ……音々……花々……」


 そんな銀髪メイド……姫々の言葉に、


「はーい」


 と楽観的に音々が頷き、


「了解」


 と花々が首肯する。


 そうして音々は一義の腕に抱きついて引っ張り、洗面所へと赴く。


 姫々はエプロンを身に着けて食器の片付けに時間を費やした。


 花々は一義の部屋へと入り、王立魔法学院の制服を取り出す。


 一義は黒髪ロリータこと音々に引っ張られるままに洗面所へと。


 そして鏡を前にして、


「…………」


 沈黙する。


 鏡に映っているのは白い髪に白い眼……そして長い耳に褐色の肌を持つエルフの外見だ。


 霧の国に来てからすっかりコンプレックスになった自分自身の造形にがっかりする一義だった。


 そんな一義の内心を知りえない音々は、


「お兄ちゃんは可愛くて格好いいからね! ちゃんと身なりを整えないと!」


 そんなことを口にし、丁寧に一義の髪を梳いていく。


 寝起きの一義のボサボサだった髪は落ち着いて「振れば珠散る」とでも表現してもいい綺麗な白髪へと相成った。


「…………」


 一義は無言で首を振る。


 白髪が揺れて光に輝く。


「うん……いい感じ。ありがとう音々……」


 一義がそう感謝すると、


「お兄ちゃんのためだもの」


 音々は当たり前だと言う。


 そして一義は、鏡を前に自身の髪型と格闘し始めた音々と別れ、自身の部屋へと赴く。


 そこには、


「あ、音々に髪を梳いてもらったみたいだね。旦那様の制服は用意できてるよ」


 赤髪で額に角を持った鬼っ娘……花々がいた。


「ありがとう花々。僕は君たちに依存しすぎているね……」


 そう自分自身を皮肉る一義に、


「何を言う。あたしたち……あたしも……姫々も……音々も……全ては旦那様のためにいるんだから。もっと活用してもらわなければ……」


「うん。まぁ……そうなんだけどね……」


 ポリポリと人差し指で頬を掻く一義。


「でもね……」


 と一義は言う。


「でもね……それでも花々や姫々や音々に救われたことは数多いんだ。それは忘れないでほしい」


「忘れるなと旦那様が言うのなら忘れたりはしない。それは絶対だよ」


 まぁ何はともあれ……と花々は言う。


「旦那様……服を脱いで……」


「はいはい」


 と従順に一義はパジャマを脱ぐ。


 そして、


「こちらがおろしたての制服だよ。旦那様……お召し替えに……」


「うん。ありがと……」


 そう頷いて一義は用意された王立魔法学院の制服を着る。


 制服は紺色のブレザーに灰色のパンツだった。


 しめるネクタイは赤色。


 それは……ネクタイの赤は一過生を示す色だ。


 そうして王立魔法学院の制服を纏って姿見にて一回転して自身の姿をかえりみる一義。


「うん。いいね。ありがとう花々……」


「光栄だよ旦那様」


 そう言ってニッコリと笑う花々だった。


「では花々も制服に着替えるから」


 そう言って花々はパタパタと自身の部屋へと戻っていった。

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