いけない魔術の使い方 ~カラフルハーレム譚~

揚羽常時

第一話

第1話 王立魔法学院入学式とその後01

「ご主人様……お起きください……」


「お兄ちゃん……起きて!」


「旦那様、起きてよ」


 三人の美少女が一人の少年を覚醒させるために揺さぶっていた。


 ここは大陸最西方にある《霧の国》である。


 その霧の国でも王都に次いで大きなシダラという都市の宿舎の一室。


 そこには四人の人間がいた。


 一人は銀髪銀眼という神秘的な姿をしたメイド服の美少女。


 銀髪メイドは、


「ご主人様……お起きください……」


 と少年を揺り起こそうとする。


 一人は黒髪黒目の無邪気と呼んで差し支えない見るからに幼い美少女。


 本来の年齢は銀髪メイドや少年と同じなのだが《とある理由》により幼い姿を保っている。


 黒髪ロリータは、


「お兄ちゃん……起きて!」


 と少年を揺り起こそうとする。


 一人は赤髪赤眼の快活そうな、熱情を瞳に秘めた美少女。


 ただし人間と言うには違和感が一つ。


 額から二本の鋭い角が生えているのだ。


 大陸東方では《鬼》と、大陸西方では《オーガ》と呼ばれる希少種である。


 主に大陸東方に住む種族で、大陸最西方の霧の国にいるのは珍しいと言えた。


 そんな赤髪鬼っ娘は、


「旦那様、起きてよ」


 と少年を揺り起こそうとする。


 そしてアパートの一室にいる四人の内の最後の一人……少年はもっとも人類からかけ離れていた。


 人ならざる褐色の肌。


 人ならざる白色の髪。


 人ならざる長めの耳。


 全てが大陸西方で《エルフ》……または《東夷》と呼ばれる種族であることを示している。


 赤髪鬼っ娘の美少女と同じく大陸東方にしか存在しない希少種だ。


「ご主人様……お起きください……」


「お兄ちゃん……起きて!」


「旦那様、起きてよ」


 そんなかしまし娘に揺さぶられて、


「ううん……」


 と唸るエルフの少年。


 その声は東方の弦楽器たる琴の響きにも似たボーイソプラノ。


「……まだ寝る……」


 そんな可愛らしい我が儘を言って掛布団の中に潜り込む少年だった。


「ご主人様……お起きください……このままでは遅刻してしまいます」


「お兄ちゃん……起きて! 入学式だよ!」


「旦那様、起きてよ。ハレの舞台だよ?」


「ううん……遅刻……入学式……舞台……?」


 確認するようにそう呟いて、


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 しばしの沈黙。


 そして、


「入学式!?」


 ガバッと腹筋運動の要領で少年は起き上がった。


 見開かれた瞳は髪と同じく白色だった。


 端正に作られた顔立ちは錬金術師でも再現不可能なほどの完成美を持っており、しかして見た目の幼さ故か「かっこいい」と言うより「かわいい」と言った方がいい少年だ。


 少年は問う。


「姫々……今日入学式だっけ?」


「はい……王立魔法学院の入学式でございます」


 銀髪メイド……姫々がそう言う。


 王立魔法学院。


 それこそシダラを霧の国の王都に次ぐ大きな都市足らしめている所以である。


「お兄ちゃん、よだれたれてるよ?」


「ああ、ごめん音々」


 黒髪ロリータ……音々の指摘に少年は口元をパジャマでごしごしと拭った。


「旦那様、朝食出来てるよ?」


「ありがとう花々」


 赤髪鬼っ娘……花々の言葉に感謝の意を示す少年。


「ではご主人様……ダイニングへ……」


 手を振ってダイニングへの道程を示す姫々に、


「お兄ちゃん」


 とニコニコしながら起き上がった少年の腕に抱きつく音々に、


「旦那様のために準備したんだぞ?」


 と誇らしげな花々だった。


 そんなかしまし娘に連れられて眠気眼をこすりながらダイニングへと向かうエルフの少年。


 少年はピコピコと長い耳を跳ねさせながらダイニングへと辿り着く。


 そこには四人分の朝食が準備されていた。


 白米に焼き魚に味噌汁。


 すべてエルフの少年が本来住まう大陸最東方の《和の国》の文化を盛り込んだ朝食であった。


「無理して僕の舌に合わせなくてもいいのに……」


 苦笑しながらそう言う少年に、


「いえ……まぁ……そう毎回出せる料理ではありませんが……それでも入学式の日くらいは豪勢に……と……」


「食材を集めるだけでも大変だったでしょ?」


「それはわたくしの領分ではありません……」


「それでもありがとね、姫々」


 そう言って少年は姫々の頭を撫でた。


「あう……」


 と言葉を失ってカーッと赤くなる姫々だった。


「ずるい! 姫々だけ! 音々だってお兄ちゃんのために食材揃えたよ!」


 音々がそう抗議し、


「旦那様……お味噌汁はあたしの手柄です」


 花々がそう主張した。


「はい。いい子いい子」


 少年は音々と花々の頭も撫でる。


 そこに姫々がムッとする。


「あなた方は食材を用意しただけじゃないですか……調理したのはわたくしです……」


「でも音々がいなきゃ今日の焼き魚は無かったよ!?」


「味噌を市場から見つけたのはあたしだ」


 そしてかしまし娘は、


「ガルル……!」


「フシューッ!」


「シャーッ!」


 と互いを牽制しあう。

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