第3話 王立魔法学院入学式とその後03

 ちなみに一義と姫々……音々に花々が住んでいる宿舎は5LDKと広い構造を持つ。


 賃貸ではなく分譲である。


 そんな5LDKの一室である一義のベッドルームからダイニングへと顔を出すと、ちょうど姫々が食器の片づけを終えたところだった。


 姫々もまた一義に気付き、それから、


「ご主人様……ご準備出来もうされましたか……」


 そんなことを言った。


「うん。まぁ……音々と花々のおかげでね」


「食事がわたくし……身なりは音々……服装は花々……と決めております故……」


「姫々も早く制服に着替えちゃいなよ。見たいな。姫々の制服姿」


 一義がそんなことを言うと、


「ご主人様……」


 感動したのだろう姫々が頬を赤らめた。


 と、そこに、


「お兄ちゃーん!」


 と音々が一義目掛けて突撃してきた。


「げふぁ……!」


 と一義と音々はもつれにもつれて倒れこむ。


 音々はといえば一義に抱きついて一義の胸に頬をこすらせながら、


「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん! 音々も制服着たよ! どう!?」


 と問うてくる。


「とりあえず離れないと音々の制服姿も見れないよ……」


 そう言って抱きついている音々を引きはがし一義は立ち上がる。


「えへへぇ……どう?」


 紺色のブレザーに灰色のスカート……そして赤色のネクタイ。


 つまり王立魔法学院の一過生の制服だった。


 制服のスカートの裾をつまんで挑発するように言ってみせる音々に、


「似合ってるよ音々……」


 そう褒めてあげる一義。


 そんな一義と音々を見やって、


「む……」


 と嫉妬からふくれっ面になる姫々だった。


 そして姫々は、


「ご主人様、緑茶を用意しました。飲みながらわたくしの準備をお待ちください」


 そんなことを言って緑茶を一義の分だけ用意して、自身の私室へと消えていく。


「姫々、音々もお茶飲みたい」


「自分で準備なさい」


「うーあー……姫々が意地悪するよぅ」


 わざとらしく悲哀を気取り一義に抱きつく音々だった。


「なら僕が淹れてあげるよ。音々……何が飲みたい?」


「緑茶!」


「はいはい」


 そんなやり取りの後、一義と音々は互いに緑茶を飲みながら姫々と花々を待った。


「甘露甘露」


「うまうま」


 ほけっとしながら一義と音々が茶を楽しんでいると、


「お待たせしましたご主人様」


「おまた旦那様」


 姫々と花々が制服姿であらわれた。


 二人とも一過生の赤いネクタイである。


「あの……どうでしょう? ご主人様?」


「うん。姫々も花々も良く似合ってるよ」


「可愛いかい?」


「この上なく、ね」


「「えへへぇ」」


 としきりに恥じらう姫々と花々だった。


「じゃあ登校しよっか。王立魔法学院に……」


 一義は湯呑みをコトンとテーブルにおいて立ち上がると学生鞄を手に取った。


 そこに、


「ご主人様。荷物をお持ちします」


 姫々がそう提案してきた。


「姫々はマメだなぁ。なら……うん……お願いね」


 一義は姫々に鞄を預ける。


「承りました」


 と鞄を預かって一礼する姫々。


 次に音々が言った。


「お兄ちゃん! 手を繋いで歩こ!」


 そして一義の許可も取らずに一義の右手を握ってしまう。


 さらに花々が言った。


「旦那様。腕を組んでもいいかい?」


 そして一義の許可も取らずに一義の左腕に抱きついてしまう。


 右に黒髪ロリータを、左に赤髪鬼っ娘をはべらせて、三歩後ろに銀髪メイドを連れて、登校する一義だった。


    *


 王立魔法学院を擁するシダラを擁する霧の国は大陸の最西方にある国で、その国境は鉄の国および鳥の国と接している。


 鳥の国との国境にはシクラ山脈がそびえており、この山脈が実質の国境となっている。


 場所によっては四千メートルを超えるシクラ山脈を越えるのは容易ではなく、軍隊を動かそうにも動かせず、霧の国と鳥の国は暗黙的に戦争行為を行なわず平和裏に政および輸出入を行なっている。


 そして問題は鉄の国である。


 霧の国と鉄の国の国境には森しか存在せず、国境紛争が絶えない。


 そして鉄の国は国境に巨大にして強大な砦を建設しており、宮廷魔術師クラスの魔術師が三名、そして五千人以上の兵士を擁している。


 この砦が霧の国の軍隊によって破られたことは一度もない。


 《鉄血砦》と呼ばれる所以である。


 王立魔法学院を擁するシダラはそんな鉄血砦から馬で三日の場所にある。


 故に王立魔法学院は戦闘および殺戮に特化した魔術師の育成に熱心で、王立魔法学院に入学するということは軍属になることと同義なのである。

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