第Xmas章 聖夜のお散歩はリア充なのか

その1「私とお兄さんのクリスマス」

本章は各ヒロインがクリスマスで晴流と二人きりになったらどうするかというエピソードをまとめたものです。

果たして、本編に続く真のヒロインは誰なのか……。


==================



 私、堂庭桜は自分の部屋で毛布にくるまりながらスマホと睨めっこしていた。


 LINEのトーク画面。「私はいつでもOKです」と送ったメッセージ、お兄さんはまだ見てくれてないみたい。でもまだ十秒しか経ってないし私が焦りすぎてるだけだよね。

 だけど中々自分を落ち着けられない。もうベッドの上をごろごろーって転がり回りたいくらいだよ。

 だって今日はお兄さんと二人でお出掛けするんだもん。しかも今日はクリスマス。冷静になんてなれっこないじゃん!


『了解。今から行く』


 あ、返事来た。やったー!

 私はすぐさま毛布を畳んで肩掛けのバッグを手に取る。


 部屋を出る前に鏡の前に立ってみた。

 チェック柄のスカート、丈が少し短い気もするけど今日は攻めていかないと!

 髪もしっかりとアイロン掛けたし大丈夫だよね。

 キャラメル色のダッフルコートを羽織って準備は万端。いざ外へ!


 階段を降りて玄関まで来ると丁度インターホンが鳴った。私は真っ先にドアを開ける。


 ガチャ。


「こんばんは、桜ちゃん」

「はい、こんばんは!」


 相手はもちろんお兄さん。私は笑顔で返事をした。


「買い物に付き合うのは構わないけどさ、本当に今日で良かったのか?」

「もちろんです! クリスマス限定のセールとかで行きたい店は沢山あるんですけど私だけじゃ買える量も少なくなりますし……」

「なるほど、俺はただの荷物係って訳か」

「いえいえ違います! お兄さんは何も持たなくても私は嬉しいですよ。……あ、別に二人きりになりたかったとかそういう意味じゃないですからねっ!」


 なんか私凄い大胆な事言っちゃったかも。恥ずかしいなぁ。お兄さんに変に思われてないといいけど……。


「そ、そっか……。あと話変わるけどさ、場所はどこなの? 俺まだ聞いてないと思うんだけど」

「それは……着いてからのお楽しみです!」


 特に意味は無いけどサプライズということで。それに口に出して言うのは少し恥ずかしいし……。


 というか今日の私、はしゃぎ過ぎちゃってるかなぁ。

 でもクリスマスの夜にお兄さんと二人でいられるなんて初めてだから遠慮して後悔はしたくない。

 幼女アニメのイベントに出掛けたお姉ちゃんの隙を狙ってお兄さんを呼び出したのは罪悪感があるけど私だってしたい事、したいもん。いつまでも待ってるだけじゃ駄目だよね。

 改めて心に誓った私はお兄さんを連れて最寄りの鎌倉駅まで歩いた。



 ◆



 上り列車のプラットホームで横須賀線を見送り、次にやってくる湘南新宿ラインを待つ。

 この時点で目的地は大体分かるかもしれないけど、答えは言わない。

 ホームで待っている間、お兄さんとひたすら雑談をしていた。でも話題はお姉ちゃんの事ばかりだった。

 やっぱり仲良いんだなぁと思った。流石幼馴染み。

 でもそれは私も同じなのだ。一緒にいる年数はお姉ちゃんの方が長いけどね。

 話しながら少し寂しい気分にもなりつつ、ホームに滑り込んできた列車に乗り込む。

 車内は結構混み合っていたけど、お兄さんは私が苦しくならないようにスペースを空けてくれた。些細な心遣いだけど、私は凄く嬉しかった。優しい配慮を平然とやってのけるお兄さんが私は好きなのだ。


『まもなく渋谷です。お出口は右側です……』


 約一時間電車に揺られ、ようやく目的地に到着。

 私は「降りますよー」と言ってお兄さんの背中をポンと叩いた。

 渋谷でお兄さんとクリスマスデー……じゃなくて買い物。やっぱり恥ずかしくて堂々と口に出せないな。



 ◆



 改札を抜けてハチ公口に出ると、の有名なスクランブル交差点が見えた。

 その手前、駅前広場には沢山の人が行き交っていたが特に男女で手を繋いでいるカップルが多く目に入る。今日はクリスマスだから……そりゃそうだよね。


「こっちも冷えるなぁ。桜ちゃんは大丈夫? 寒くない?」

「はい、私は大丈夫です!」


 と言ってみたものの、実は少し我慢している。

 上はマフラーも着てるし暖かいんだけど、下は生足だから冷たい空気がすぅーっと入ってくるのだ。

 タイツ履けばよかったかなぁと思うけどお洒落の為なら仕方ない。今日は後悔したくないから。


「お兄さん、お金には余裕ありますか?」

「え、あ、まぁ一応あるけど」

「なら良かったです。せっかくお兄さんも来たので私だけ楽しんでたら勿体無いなぁと思いまして」

「ん……ということは俺も?」

「はい! 一緒に買い物しましょう! 服とかなら私が選んであげます!」


 まさかお兄さんと二人きりでクリスマスを過ごせるとは思わなかったなぁ。今この瞬間も夢じゃないかと思う位、普段では有り得ない事だし。


「せっかく、だもんな。よし、今日は久々に奮発するか!」

「ふふ、その意気です! じゃあまずは西武に行って、ロフトにハンズ……それからマルキューに行きましょう!」

「お、おぅ。というか桜ちゃん渋谷詳しいの? 全然そういう風には見えなかったけど……」

「お兄さん、それはちょっと失礼ですよ。私だって女の子ですからその位知ってて当然です」


 でもお兄さんは私の事、真面目そうって思ってたのかな? なら悪い気はしないね。


「それより早く行きましょう! 時間は待ってくれないですからね!」


 お兄さんより一歩前に立ち、前へ歩き出す。冷たい風が突き抜ける中、私達は夜のスクランブル交差点へ飛び込んだ。



 ◆



「いやぁ結構買っちまったなぁ」

  「ふふ、お兄さん意外とノリノリでしたもんね」


 気付けばお互いの両手が紙袋で埋まっていた。あともう一店舗行きたかったけどこれ以上荷物を持てそうにないからやめておこう。


 それにしても沢山買っちゃったな。

 試しに着ただけの洋服もお兄さんに褒められると嬉しくなって「買わなきゃ!」って思っちゃうし、それに合わせたコーディネートも揃えたくなるから買いたい物がどんどん増えてしまう。

 お財布の中身がちょっとピンチだけどお兄さんに喜んでもらえたなら私は幸せだ。彼の笑顔が私を元気にするのだ。……って思うとちょっぴり恥ずかしいな。


「でも勢いで買うんじゃなかったな。おかげで今月は生活できそうにないぜ……」

「お困りでしたら助けますよ? 経済的な援助ならお任せ下さい!」

「はは、大丈夫だよ。女の子に助けてもらうなんて情けないしな。それに、もうすぐお年玉も貰えるし何とかなるよ」

「そうですか。でも困った時はいつでも言ってくださいね?」


 予想通りの返事が返ってきて一安心。でも少しだけ寂しい気分にもなった。

 やっぱりお兄さんは私を頼らない。きっと男のプライドという奴なのだろう。だけど……たまには私を頼ってくれてもいいんだよって思ってしまう。


「ありがとう、俺なんかに気を遣ってくれて。……あと、話は変わるんだけどさ、これからはどうする? ご飯でも食べる?」

「お兄さん、よくぞ聞いてくれました! これを見てください……」


 なんとか片手を空けてバッグから二枚のチケットを取り出す。

 買い物も楽しかったけど、こっちの方がもっと楽しみ……!


「じゃん! 化粧坂36のライブチケットです!」

「あ、これ前に言ってた……」

「そうです! 七夕の時は行けなくて残念でしたけど、今日は代々木の競技場で開かれるので一緒に観に行きましょう!」


 お姉ちゃんの事もあるし、お兄さんにはあまり言ってなかったけど、私は化粧坂36という女性アイドルグループが大好きなのだ。舞台の上で輝いている女の子を見ると私も頑張らなきゃって思うし、何しろメンバーの子達が可愛い!

 ライブももちろん興味はあるんだけど実は一度も行ったことがない。理由は簡単。客層は男の人ばかりだからね……。


「なら荷物をどうにかしないとな。コインロッカーとかに預けておくか」

「そうですね。……あとライブ中のボディーガード、よろしくお願いしますね!」

「ボディーガード……?」

「もう、私が男の人を苦手な事忘れちゃったんですか? 側に居てくれるだけでいいのでお願いしますよ?」


 高校生になってからは男性の方と近づく機会が増えて、結構慣れてきたけど、それでも人混みに飲まれてしまうと不安になってしまう。


「ごめんごめん、普段大丈夫そうだし、すっかり忘れてたよ」


 照れ笑いするお兄さん。嘘はつかないで正直に答えてくれるし、そういう所はやっぱり格好いいと思う。今日のライブは安心しながら最高に楽しめそうだ。


 お兄さんと笑いながら夜の街を歩く。

 今日は今までにないくらい楽しい一日だけど、こんな日はもう二度と来ないんじゃないかって思ったりもした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る