番外編「その後のファミレス」

前話、6-17の続きのお話です。ロリ成分の補給と和やかなシーンを入れたかっただけなので番外編としています。

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「やさしーおねぇちゃんはなんさいなのー?」


 話の折り合いがつき、俺達を包む空気も暖かくなった気がした。

 そして今は堂庭の膝上に座る結愛ちゃんの独擅場と化している。


「あたしはあなたのお姉ちゃんと同じ十七歳よ……って前に言わなかったっけ?」

「待って。私まだ誕生日来てないから十六なんだけど」


 テーブルを両手で叩いて反論する愛川さん。

 そこに食いつくのか……。でも女子は異様に年齢を気にするし当然の反応なのかもな。


「じゅうなななのー!? すごーい! 小学生くらいだとおもってた!」

「えへへ、どういたしまして」


 普通なら子供っぽく見えた事に不快感を示すのだろうが堂庭は満更でもなさそうな表情を浮かべている。この変態ロリっ娘め。


「それにしても結愛ちゃんは良い子でしゅね~。ご褒美にぎゅーってしてあげる!」

「わーい、やったー!」


 おいおい合法的に幼女を抱き締めようとするな。口元が緩みまくってるし欲望が顔に出ているぞ。


「ぐへへ、じゃあ遠慮なく……むっほぉぉ! たまらん、たまらんぞぉぉぉ!」


 結愛ちゃんに抱き着いた途端、堂庭は声にならない声を上げる。取り敢えずうるさい。気持ち悪い。

 だが声を除けば絵面としては悪くないと思う。小学生の女の子が幼い妹とじゃれ合っているように見えるし。傍から見たら微笑ましい光景なのかもしれないな。


「おねーちゃんのからだあったかいね!」

「むふふ、結愛ちゃんも暖かいよぉ!」


 やはり声を聞くと気持ち悪くなるが二人の仲睦まじい様子に俺の頬はすっかり緩んでいた。そんな中……


「おやぁ宮ヶ谷君? もしかして堂庭さんに見惚れてるぅ?」

「な、なぁ!? 何でそうなるんだよ!」


 テーブル挟んだ先で愛川さんがニンマリと笑っていた。くっ、別に俺は堂庭をそんな目で見ていない……はず!


「なら結愛を見てたの? ……うわぁ宮ヶ谷君までロリコンだったなんて……」

「んな訳ねぇだろ!」

「じゃあやっぱり堂庭さんじゃん。顔も真っ赤だし。……ふふ、男子は単純で面白いねぇ」

「わ、悪いかよ……」

「いや、別に良いんじゃない? 堂庭さんは可愛いし仕方ないよ。まあ私には劣るけど」


 すっかり調子を取り戻した愛川さんは小悪魔のような笑顔をしている。やはりこれが彼女の真の姿なのだろうか。


「俺だってよく分からねぇよ。男が単純って言うなら、どんな女子を見ても顔は勝手に赤くなるんじゃないの?」

「それを私に言われても困るなぁ。でも宮ヶ谷君は少し違うみたいだよ? だって私を見ても宮ヶ谷君の顔はちっとも赤くならないもん」


 堂庭より私の方が可愛いから赤面しないのはおかしいじゃん? とでも言いたげな顔だ。腹立たしいがルックスはお世辞抜きに綺麗なので文句は言えまい。


「まぁだからといって俺が堂庭に気があると決まった訳じゃないだろ。体の発作的な何かかもしれん」

「ふぅーん。…………本人は自覚なしか」

「え、今なんて」


 小声だったため上手く聞き取れなかった。


「何でもないよ。それにしても……」


 さらりと話題を変えようとする愛川さん。先程の呟きが気になるが大して重要な話ではないのだろう。


「堂庭さんって本当にロリコンなんだね。しかも結構ガチなやつじゃない……」

「これでも十分抑えている方だけどな。普段なら我を忘れて幼女に飛びかかってるぞ」


 堂庭の暴走を止めるのは男の俺でさえも困難を極める。彼女の手を引いても謎の馬鹿力で跳ね返されてしまうし言葉で説得してもまるで言うことを聞かない。モンスターかよ。


「なんて恐ろしい……。宮ヶ谷君も苦労しているんだね。知らなかったよ」

「まぁな。でもこいつには普段世話になってるし、その辺は大目に見てやっても良いのかなって最近思っててさ」


 恩返し、という言葉が最善だろうか。日頃の借りを返すため俺は堂庭を尊重する。この関係は恐らくこれからも続いていくのだろう。


「なるほどねぇ。じゃあもし堂庭さんが宮ヶ谷君に何もしてくれなくなったらどうするの?」

「えっと、それは……」


 以前も誰かに似たようなことを聞かれた気がする。

 もし堂庭が俺と距離を置いたら……。


「ただの友達になるのかな? いや、でも今も友達だぞ。うーん、よく分からん……」

「ふふ、なにそれ。じゃあ宮ヶ谷君は堂庭さんの事どう思ってるの?」




 ガシャンッ!


 愛川さんが質問した直後、堂庭が手にしていたと思われるグラスが倒れて中身がこぼれてしまった。


「あはは、ごめん手が滑っちゃった。早く拭かないと……」


 堂庭の声は震えていた。こぼれた量はわずかだったので被害は少なかったが様子がおかしい。どこか不安そうに見える。


「堂庭さん……もしかして今の話聞いてた?」

「え、何が? あたしは全然聞いてないよ?」


 目を丸くして答える堂庭だが、これは嘘をついている時の反応だ。長年そばに居た経験からすると間違いない。でも何故嘘をついたのだろうか。別に堂庭が聞いても問題無い内容だと思うのだが……。


「そっか、ならいいんだけど……。宮ヶ谷君、さっきの質問は水に流してくれて大丈夫だからね」

「あ、うん……」


 俺が堂庭をどう思っているか?

 答えるとするならば家族のような友達であり幼馴染みでもある、だろうか。

 幼稚園児からの付き合いで堂庭の行動パターンや性格は知り尽くしたと自負していたが、まだまだ未知は存在するのかもしれない。



 ――だって今日の堂庭の言動はまったく読めなかったのだから。

 あいつが異様に恥ずかしがったのも突然動揺し始めたのも俺にはさっぱり分からなかったから。

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