第3章 ロリっ娘の方向感覚は正常なのか
3-1「桜お姉ちゃん!」
修善寺さんと人生初のデートを果たした日からしばらく経った週末。
俺は自室で妹、舞奈海の説得に追われていた。
「瑛美りんの妹が家に来るとか本当に無理なんだけど!」
「だから桜ちゃんは堂庭と違ってまともな子なんだよ!」
先程から問題ないと言って聞かせているのだが、どうにも納得してくれない。
そういえばこんなやり取りは以前にもしていたよな。あの時は堂庭だったから厄介だったけど、今回は単純に事実を教えてあげれば良い話だ。
「桜さんだってどうせロリコンなんでしょ? 姉妹なんだから」
「あのな……。いくら姉妹でも似ても似つかない所だってあるんだよ」
見た目、性格、所作……。似ているどころか正反対だしな、あの二人は。
「うーん……。確かにそうかもしれないね。私はお兄ちゃんみたいに間抜けじゃないし」
「だろだろー? っておい!」
分かりやすい例が俺達にありましたか。
でもそんな風に納得されるとお兄ちゃんへこんじゃうぞ……。
「とにかく、桜ちゃんは舞奈海に手を出すような子じゃないから安心してくれって!」
「ふん、どうだか。実際会ったら暴走するかもしれないじゃん」
「だから堂庭と一緒にするなよ!」
中々ガードが硬いな……。堂庭との絡みが相当トラウマになっているのは間違いないようだ。
「例え桜さんが良い人だとしても、家には絶対入れないで! 怖いから!」
「大丈夫だって。もし何かあったら俺が阻止するからさ」
「むぅ……。でも駄目! 私は会わない!」
「じゃあもう外へ遊びに行ったら? そうすれば会わなくて済むだろ?」
「それもやだ! 私が外に出たら負けだと思うもん」
「お前は引き篭もりかよ!」
相変わらず我が儘な妹である。俺はそんな舞奈海に呆れた視線を投げる。
「なら好きにしてくれ。俺の言葉を信じるかどうかは舞奈海に任せるから」
「ふんだっ! 今日はもう私の部屋から出ないんだから!」
高らかと引き篭もり宣言をした舞奈海は足を大きく踏み鳴らしながら俺の部屋を出ていった。
舞奈海には是非とも桜ちゃんと会ってもらいたかったのだが今回は難しそうだな。誤解はまたの機会に解くとしよう。
ピンポーン。
昼食のカップ麺を食べて少し落ち着いた頃。
チャイムの音と同時に俺は玄関へ向かう。
「ごめんなさい。少し遅れてしまいました」
扉を開けた先に眉を八の字にして上目遣いでこちらを見てくる桜ちゃんがいた。
俺は「大丈夫だから」と手を横に振ると彼女は安心したようにはにかんだ。
いつも思うのだが、桜ちゃんは本当に堂庭の妹なのか疑ってしまう。
まずは見た目である。
身長は妹である桜ちゃんの方が遙かに高いし、ファッションセンスも二人は対を成している。
今日の桜ちゃんの服装はライトブルーのシャツに薄手のカーディガンを重ねており、白いミニスカートを履いていた。
初夏らしく清潔感もある桜ちゃんらしい格好だが、堂庭だったらきっと季節感なんか考えず小学生が好きそうなキャラクターがプリントされたシャツやモノトーン柄のスカートでも履いてくるだろう。
口調についても桜ちゃんの方が丁寧だし、大人びた対応ができる。
――もう桜ちゃんが姉でいいんじゃないの?
「……お兄さん、どうしました?」
「あ、いや何でもない」
つい考え込んでしまったな。
俺は慌てて手を振り、桜ちゃんを家の中に入るよう誘導する。
「今日は話があるって言ってたよね」
「はい、そうです。あとは……お兄さんの家の偵察ですね」
「て、偵察!?」
「あ、冗談ですよ冗談。久々の訪問なので色々見て回ろうと思いまして」
「そっか……」
桜ちゃんも冗談を言ったりするんだな。それにいつもより上機嫌な気がする。
「じゃあ俺の部屋はこっちだから……ってどうしたの?」
桜ちゃんはその場に立ち尽くしたまま、廊下の奥の方を物珍しそうな目で見ていた。
「あの子はもしかして……」
「え……?」
同じ方角に視線を変えると、柱を盾にしてこちらを覗く舞奈海の姿があった。……あいつ、何してるんだよ。部屋に引き篭もるんじゃなかったのか?
「おい舞奈海。そこにいるなら出てこい」
「……ばれたか」
悔しそうに呟いた舞奈海は柱から手を離し、のこのこと歩いてくる。
「あなたが舞奈海ちゃんね! 赤ちゃんだった頃に見たけど随分変わったのね!」
「……当たり前でしょう。もう私小三ですし」
うわ舞奈海の奴感じ悪!
怒鳴りつけて注意してやろうと思ったが、今は桜ちゃんがいるためあまり暴力的な手は使えない。
ここは平和的な解決をするとしよう。
「ごめんね桜ちゃん。舞奈海は初対面の相手だと緊張しちゃうんだよ」
まあ本当は警戒しているだけなんだけど。
桜ちゃんは俺の言葉を聞くと「そっか」と頷いて、手に提げていた鞄から小さな紙袋を取り出した。手土産だろうか。幼馴染みなんだしそんな余所余所しい礼儀はいらないのに。
「舞奈海ちゃん。良かったらこれ食べて。お口に合うか分からないけれど」
「……ありがとうございます」
仏頂面をしながらも紙袋を受け取る舞奈海。
「……あれ、もしかしてこれって」
袋にプリントされたロゴに見入る舞奈海。
そして唸り声と共に今までの顔が嘘のように柔らかな表情を浮かべた。
「これっていつも行列ができてる駅前の美味しいマカロンじゃないですか!」
「そうそう。喜んでもらえると思って買ってみたんだけど、どうかな?」
「嬉しいです! 私ここのマカロン大好きでよくお兄ちゃんに買ってきてもらっているんです!」
まさか舞奈海の好物を持ってくるとは……。桜ちゃん、ナイスだぜ!
「ふふ、なら良かったな」
しかし最初の警戒心マックスファイヤー状態はどこへ行ったんだ、我が妹よ。
結果的に桜ちゃんの良心が伝わったようで良かったが、相変わらず食べ物に弱い奴だよな。
「さっきは失礼な態度をとってごめんなさい。これからよろしくです、桜お姉ちゃん!」
「そんな! 気にしなくていいんだよ。初めては緊張しちゃうもんね」
桜ちゃんは小さい子の扱い方に慣れているんだな。どこかで鍛えられているかのようだ。……きっと
というか舞奈海は桜ちゃんと打ち解け過ぎだろ。なんだよこいつ、物あげれば何でも良いのかよ。
「あと、良かったら私と遊びませんか? 面白いゲームがあるんです!」
「おお、いいね! でも先にお兄さんとお話しなくちゃいけないから、その後一緒に遊ぼっか!」
「はい! じゃあ私は部屋で待ってますから!」
二人ともとても嬉しそうだ。もう心配はご無用といったところだな。
「じゃあ桜ちゃん。まず本題とやらを済ませておこうか」
「はい、そうしましょう!」
ご機嫌な舞奈海をその場へ残し、俺は階段に向かって足を踏み出した。
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