This could be my origin

 彼らの自信に、僕はどうやら少し心が傾きかけているようだった。


「ゼ・・・ウス?」

 ゼウスと言えば、ギリシャ神話の主神で、天空神だったハズだ。神の支配者。まさに全知全能の神。だがそれは、今から何千年も昔の神話だ。そんな神を信じ、探せというのだろうか。


「そうだ。ギリシャ神話に出てくる、あのゼウス。だが、本物のゼウスっていうわけじゃない。便宜上、そういう名前が付けられただけだ」

 なるほど、コードネーム・ゼウスというわけか。それならば納得がいく。いや、いかない。そのゼウスとやらを探したところで、本当に僕の記憶が戻るのだろうか。


「で、実際のそのゼウスっていうのは・・・」

 僕がそう聞くのを、彼らは待っていたようだった。


「神よ」


 そう答えたのは、やはりレノ。こんな無意味な答えをするヤツがいるだろうか。

 それとも、コイツは他人の質問に答える気がないのだろうか?振り出しに戻すことが回答だ、という間違った教育を受けてきたんじゃないだろうか。


「俺が説明する。俺たちが神、ゼウスと呼んでいるのは、魔法の始祖に当たる者だ」

「つまり、魔法を使った最初の人物、ってことか?」

「簡単に言えば、そうだ」


 魔法の始祖――今から十数年前に最初に魔法を使った人物。ソイツを探せ、と言いたいのだろうか。


「その人を探して・・・どうすれば?ソイツも、ただの魔法使いなんじゃ?」

「ゼウスの魔法は強力なの。アタシたちの魔法を遥かに超える、特別な魔法を持ってるのよ」

 だからなぜ、それを先に言わないのか。というその言葉をまたも押し殺し、僕は話を続ける。


「つまり・・・その強力な魔法でなら、僕の記憶も元通りに出来るかもしれない、っていうことか?」

「ご名答。その通りだ」

 要は、とにかくそのゼウスとかいう強い魔法使いを見つければいい、というわけだ。だが・・・


「でも、それって『神様』なんだろう?簡単に見つかるのか・・・?」

 仮にも神様なら、それだけ見つけられる可能性が少ない、あるいは全くないことは誰にだって分かる。そんなものが本当に見つかる保証はない。


「あぁ・・・本当にゼウスを見つけられるかは・・・正直、分からない」


 やはり、可能性の低い賭けだったようだ。


「少しだけど、目撃情報はあるわ。どれも信憑性が高いとは言い難いけど・・・」

 神なんてのは、きっとツチノコやUFOと似たようなものなのだろう。信じる者にしか見えないのだ。


「でも、こんなトコで突っ立ってるよりはマシだと思うけど?」


 痛いところを突かれた。僕の持つ零細な手掛かりを頼るか、わずかな、あるいは皆無の可能性を信じて神を探すか。どちらにせよ、大して変わりはないようだった。それなら・・・

「分かった。僕もレノたちと・・・行く」

 僕はついに、そう答えた。これが最善の決断だと信じることにした。


「他人に何かを頼むんなら、そういう言い方があるでしょう?バカバカでもそれくらい分かるわよね」

 レノは、悪魔のような笑みを浮かべながら、僕のほうに視線を投げる。何という奴だ。あれだけ僕を誘っておいて・・・。

 だが、立場上強く言えないのが悔しくてたまらなかった。彼女は拾い主であり、僕の命の恩人なのだ。まったく信じられない話である。


「レノ、あんまりいじめるじゃない」

 助かった。今の彼は、神よりも遥かに神々しいのではないだろうか。が、レノにはそうは見えなかったようだった。


「だめよ、カイ。コイツを甘やかしたら・・・これから旅をするんなら尚更よ」

「何だ、来てほしいんじゃなかったのか?俺とじゃ退屈するんだろう?」

「・・・・・・」

 見事な打ち負かしっぷりだった。



 カイ。彼女はそう言った。それが彼の名なのだろうか。

「カイ・・・?」

「ん、何だ?」

「お前・・・カイ、って名前なのか?」

 そう言うと、彼はハッとした様子だった。すまんすまん、と言い、彼は続ける。


「自己紹介をしてなかったか。俺はカイ。コイツと一緒に旅、というか、それっぽいものをやってる。お前の名前は・・・ソラ、でいいんだよな?」

 僕は頷く。とりあえず今のところは、僕の名前は「ソラ」だ。


「よろしくな、ソラ」

 彼は僕に手を差し出した。


「・・・こちらこそよろしく、カイ」

 僕はその手を握った。


「ちょっと、アタシは?」

 レノは独り仲間外れにされたと思ったのか、じっとこちらを見ている。手を差し出せ、手を差し出せと目が命令している。


「・・・よろしく」

 僕は渋々、手を差し出すことにした。

「それでいいわ」


 僕は彼女と握手を交わした。僕は本当に「よろしくお願いする」だけの側なのだろうか。僕はそうであることを祈った。今の立場から考えても、嫌な予感しかしないのだが。


「じゃ、行くとするか」

 カイの一言で僕とレノは頷き、彼が開いた扉の向こう側へと、へと、足を踏み出した。

 

 僕はソラ。


 僕の人生と言う名の旅は、今、始まったのだろう。

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