第149話「祖父と初代6」
スマホから今晩は
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マイルズの祖父:前魔導公爵ルカス・デ・アイノルズ視点ーー
解放してやる。と勢いで言ってしまったが……。どうする?
奴が大地から力を受けているのはこの精霊眼の力で判る。しかし、それを切断? どうやって? 力の流れに蓋をするのか?
儂がチラリと初代様にしせんを送ると初代様はイタズラ坊主のような笑顔で新たに作り出された元部下を元の屍に戻す。
その手腕はスムーズ。さすが2度も精霊眼継承術を行使した方。
だが、儂とてその術を一度見ればわかる。
地脈に干渉し、力の流れを強引に切断。それは相手に切断されたと気付かぬほど早く、違和感のない切断。その上で地脈に回復魔法を設置し、残された遺体と死霊術の力の流れを分断、遺体に回復魔法をかける。
こうすることで地脈はタイチと接続されない状態を正として、タイチへの力と情報の供給を止める。
術の方も遺体という媒介をなくせば、存在を止めることもできず時間と共に霧散していく。
言うほど簡単ではない。
相手に切断されたことを、地脈という大きな力の流れに異常を感知させずに切断するなど、まるで『切られたことを相手にさとさせない』ほどの腕前を持つ剣士の様ではないか。
儂にそれができるか?
いや、戸惑って居ても始まらん。
こういう場合はやってみるに限る。
沸るではないか、この歳にしてわしはチャレンジャーになれたのだ。
「……待たせたな」
「もう少しですよ。鬼神相手にした方が簡単ですよ、ルカス少年」
「くっくっく、儂は昔からお主の思惑通りになるのが好かんのだ。いや、これが結果としてお主の思惑通りになろうと。今、ここで、お主の言葉に従うのは好かん。あとお主程度の企などたかが知れておる。どうなろうと、どうとでもできる。儂とリーリアであればな……。そういうことだリーリアの障害となっているお主から消えてもらおう、タイチよ! ぬん!!」
まずは地脈とタイチのつながりを断つ。
正確に、早く、しかして波立たぬように静かに。
……成功。
「次!」
そして次はタイチの構成情報、つまりは魂と媒介になっている遺体の切断。これは『一度タイチの魂を砕いて』いた経験から奴の魂と肉体の繋がりは把握しており簡単にできた。
「さらばだ、タイチ! 今一度、貴様の魂、2度と情報として蓄積できぬレベルで消し去ってくれる!!」
儂は過去神樹様より賜った秘術を拳に宿し、一気にタイチとの距離を縮める。
そして秘術をタイチの腹に叩きつける。
秘術、それは神すら殺し得る魂を分解する神術。
秘術を叩きつけられたタイチの腹は元から穴が空いて居たように大穴が開き、儂の拳は何事もなかったように突き抜ける。
タイチの腹にできた大穴はシュワシュワ音を立てながら徐々に広がっていく。
それはまるで小さな泡のように……。泡は弾けてきえる。
タイチ肉体は徐々に泡となり消えていく。
それに気づくとタイチは満足げに儂をみる。
ああ、それは2度目だ。
前もその様な満足げな表情をしておった。
以前も操られ不服な最後であっただろうに。
お主がしたことは儂ら家族の者は決して許せぬ蛮行。
しかし、それはお主にとっても同じだったのであったな……。
やがてタイチは前回同様、何いうでもなく、只々満足げに消えていった。
「見事」
初代様はわしの横まで歩み寄る。
その表情は笑顔だが、右手はディニオに向いており風魔法による嫌がらせを行なっている。器用なかただ。
「さて、わしはこれにて持ち場に戻るとしよう」
持ち場、異世界航行船のことだろう。けったいな格好をした衛とかいった少女が龍と対峙しているが少々役不足感がある。あと。
「……異世界に向かわれるのですか?」
これほどの方だこちらの世界にいようとも亜神になれば寿命から解放され、次の目標を見つけられるはずだ。
「……約束があるゆえな」
「左様でございますか……」
「あと、兄弟たちを1000年近く待たせておるゆえな、死んだ後の土産話に異世界の話ぐらい持って行かねば想像を絶する説教をもらうからのう」
はっはっは。と朗らかに笑っておられる。
「……あと、わしらの想いは、悲願は、きちんと伝わり、繋がっておる。これからもそれは途切れそうにもない。これほど嬉しいことはない」
「精霊眼継承術は途切れてしまいましたがな」
「かっかっか。その程度どうとでもなる大事なのは……」
「『お腹一杯になると、みんな幸せ』でしたかな?」
わしの言葉に初代様は許をつかれたのか目を丸くし、すぐ笑顔に戻る。
「いやはや、わしが幼子折に放った言葉まで受け継がれいようとは……、それはそろそろ忘れよ」
「もうしわけございません。家訓ゆえ」
「家訓……、なれば仕方なしか……」
無論現代では過去の様に食うに困る時代とは違い、食うに満足できる時代となっている。そんな体制を築いた今だでも、それでも、過去同様に問題は多い。
儂やリーリアが亜神のスカウトを断り続けているのもそのあたりの問題のせいでもある。
「ではな。前魔導公爵殿、お主は何処かわしに似ておった。故に辛いことも多くあったであろう。しかし折れぬ心。それこそ魔導公爵。何があろうと前に進む、それこそ魔導公爵。わしはお主に出会えてよかった」
初代様はそれだけ告げると異世界航行船に向かって進まれる。
「さて、ディニオよ。お前にもこの秘術、贈呈してやろう」
初代様より頂いた色々な想い……。
儂もようやく、お主と向き合える。
……逃がしはせんぞ。
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