第142話「混線2」

 死の国南部防衛軍総大将王妹キアナ・フレク女公爵。彼女は今途惑っていた。


「……敵の戦線が崩壊しつつある……」


 トントントン


 美貌の姫将軍キアナは国境の地図を指でたたきながら険しい表情を崩さない。

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 国境はモンスター住まう広大な大森林。


 ディールケ共和国軍は川沿いの交易路を使い進行してきている。


 そのディールケ共和国軍から逃走兵が発生している。


 姫将軍キアナがディールケ共和国軍を大群が行軍するには狭い交易路で伏兵しなかった理由がある。


 これはディールケ共和国軍が劣勢になっても逃走兵が出なかった理由とも被る。


 それは大森林のモンスターが強力であったこと、あとディールケ共和国軍の教会幹部たちのこの力が強力であった。だからこそ、姫将軍キアナは地形有利のある砦近辺での長期戦を想定していた。


 その想定は正解であった。だが、2つの想定外が戦況を変化させた。


 1つ目の想定外は、偉大なる先達とモンスターの登場、姫将軍キアナ達はディールケ共和国軍のこの力で押し切られそうになった。


 2つ目は想定外は、北部から魔王軍と思われる少数の精鋭による援軍と、東方大河を超えて現れた見覚えのない部隊による攻撃。


 1つ目の想定外で迎撃にでた軍を引かせなければならなくなり、攻城戦用魔法を持つ偉大なる先達を前に窮地に立たされた。


 しかし2つ目の想定外が起き、偉大なる先達が戦線から居なくなった。これは闖入者が偉大なる先達を討伐したのではなく、まるで『混乱に乗じて』居なくなったように見えた。そしてそれに連動するようにディールケ共和国軍の主力、教会幹部たちと強力なモンスターたちが戦場から居なくなった。


 好機である。


 ここで全力で討って出ればこの戦、勝つことができる。




「……しかし、突然消えたものは突然出てくる……」


 姫将軍キアナはしばらく目を閉じ、大きく息を吐いた後、会議に戻り宣言する。




「討って出るぞ!」


 ディニオがいなくなり、偉大なる先達が消えた戦場は一気に終息へ向かっている。




・・・


・・





 その偉大なる先達たちだが、時を同じくして死の国王宮最奥に集結していた。




「人使いが荒い」


 勝さん一号と呼ばれる案山子が愚痴る。




「本体の方が窮地だと思うのだが? どう思う?」


「いや~、あちらには過剰なほどの戦力がいますので龍があと2体出ても大丈夫でしょう」


 魔王候補ヴァンリアンスが勝さん一号の問いに笑顔で答える。




「あと、そちらの方も準備時間が必要だったようですし、ちょうどよかったのでは?」


 ちらりと横にいる変態王子に視線を向けるヴァンリアンス。




「ふむ、完璧。この封印のマスクがあってこそ私」


 先ほどまでマスクの装着に異様なほどのこだわりを見せていた変態王子は満足げに手鏡で自分を確認している。




『マスクがなければ、愛し子が私を私だと認識できまい! 久方ぶりに会うのだ。めかしこみたくもなろう。察せよ』


 などと変態王子はデート前の女の子の様な事を言い。亜空間から脱出した先に待っていた偉大なる先達の一人宰相の願いに対して『丁度良い、待ち時間に一仕事するが良い』と変態王子は勝さん一号の長距離転移術の行使を推奨した。


 宰相が望んだのは『ヴァンリアンスをディールケ王国から連れてくること』『偉大なる先達を死の国王宮、封印の間に連れて行くこと』この2つだった。


 前者は『初めから伝えられていた』ようで、簡単に連れ出すことができた。


 後者も同様であった。


 宰相曰く『勝さん一号の存在』も計画の一部であったようだ。


 そう南部から遺跡を起動して北上してくる『高度な転移魔法使い』存在。その情報。何より『マイルズがこの状況を作り出す』という『魔王からの確固たるエイドでもたらされた情報』。




「すべて計画通りとは恐れ入る……」


「いえ、あなた方が亜空間でドゥガと戦闘することや龍の存在、何よりマイルズ殿が保有する戦力などは全くもって想定外です」


「……婚約者の眼を通して盗撮とは恐れ入る……」


「いえいえ、それほどでも」


 ヴァンリアンスの笑顔は崩れない。




「さて勝さん一号殿も笑顔ですよ」


「言われなくともしている……、流石に数百年ぶりの主従の再会、水を差すほど無粋じゃない」


 目の目で繰り広げられているのは『かつて封印の神により封印された英雄』、死の国がかつて神に愛された国と呼ばれていたころの王、聖王の復活である。




「封印解除条件が『地脈ラインの接続』と『封印術者』とはな……だから穏健派の異世界宗教が協力していたのか」


「はい、お陰で我が国東部に安定がもたらせそうです」


「それにしても神が最後の時に施した呪いにも似た封印を破るほどの封印術者……か」


「同時期に封印術の近くで呪いを受けた方々がいてくれたおかげです。彼らが居なければ解除の糸口は見えませんでしたからね」


「……しかし、何故このタイミングだったんだ? 遺跡の開放ぐらい自分たちでできただろうに……」


「勝さん一号よ、無理を言うな国家の問題、特に南方諸国は各方面に関係を持ち、複数の亜神まで絡み、なおかつ獣神様、神樹様のお近くなのだ。国家を背負っている者であれば迂闊に手などだせまい」


 髪型もセットし終わった変態王子が二人に並ぶ。




「ハッピーエンド直前……か、そんなにうまくいくものかね……」


「勝さん一号よ、それは『フラグ』と言うものではないか?」


「……お前の謎知識はどこから来るんだ?」


「ふふふ、私には秘密が多いのだよ。秘密の多い男は魅力的と言うしな! ……これで愛し子も私に尊敬のまなざしを向けざる得まい! はははははは」


 マイルズたちの危機的状況をよそに、周辺事態は終息に向かっていた。




「……フラグか……」


 戦の終焉。死の国が死の国と呼ばれる原因『封印の神の暗躍』にて封印された聖王を復活させた。


 全てが良い方向に進んでいる。




「……好事魔多し……」


 世の中思いもしない角度から崩れる。


 それはどの計画でも起こりうる。だから……。「保険が必要……か」。


 勝さん一号はつぶやきから思考を加速させる。


 時間は少なく、やれることも少ない。


 だがやらないという選択肢は、勝さん一号にはなかった。


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また来週!


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