第140話「黒幕に近付くと『迂闊』とか言われて消される。ご都合万歳!」


 異世界宗教過激派。彼らの目的は何でしょうか。

 今現在異常な回数の転移を行い続々と戦力増強を行っています。

 これだけの戦力が居るのであれば侵略軍の戦闘に立てれば南方正面は撃破できるはず。たとえ魔法少女化したマリブさんや食材調査軍第20分隊を相手にしようが、あのレベルであれば数で押し切れるはず。

 なぜ、そうしないのか?

 なぜ、勿体ぶって不利になったのか?

 なぜ、宰相をはじめとした『偉大なる先達』の方々を制御下に置いたのに使いつぶすように前線に置いたのか?

 なぜ、彼らは戦線からいなくなったのか?

 ……まさか、この状況を読んでいた?

 ……まさか……。


 南方に戦力を割かれた。

 転移で戦力を移送できる勝さん一号は亜空間に隔離されている。

 宰相も転移術を使えると聞いていますが行方不明です。


 考えに耽る。

 周りは当初の混乱から、制御室への攻撃が少ないことから平静を取り戻し始めている。だが、ザワザワと慌ただしい空気は変わらない。


「ティリスさん」

「なんでしょう」

 陰から現れた魔王候補の美少女吸血鬼、ティリスさんはなぜか私ではなくモニターを眺めながら移籍への攻撃にアワアワと慌てている竜人学者デス・ガルドを睨む。


「そろそろ魔王陛下の企みを教えていただけますでしょうか」

「陛下の目論見は魔王国東部「もう、はぐらかすの結構です」」

「……」

「……」

 ティリスさんは『はぁ』と深く息を吐くと、『頃合いか』と呟く。


「お察しの通り、異世界宗教の宗派対立を使った魔王国東部周辺の再編成です」

 宗派対立ですが……。地球でもあったように宗派対立は悲惨です。

 多神教であれば『それは別の神』と言い、数世紀経てば完全に別物として対立は生じません。ですが、異世界宗教の様に唯一神の場合は悲惨ですお互いに『神を侮辱している』『大事な信仰を汚す悪魔』と罵り合い、凄惨な殺し合いに発展します。それこそどちらかが全滅するまで手を緩めないほどに……。


「これは想定内ですか?」

 無言です。それが答えなのでしょう。

 神が存在この世界で、一神教の考え方など思いもつかなかった。そう言う事です。

 生きるために何かにすがる。それは理解できる。頑張る為のモチベーション、言い訳に使えるからだ。だが、それがただ一つ、何よりも、自分の命よりも大事になる。それが理解できない。

 わからなくもない。だが、この世界の人間は異世界宗教をそろそろ理解すべきだ。


「どの様な着地点を想定されていましたか?」

「……狂人化したディニオ派以外はこちらに合流して異世界航行船で出発。ディールケ王国は問題地域だった東部貴族と魔王候補ヴァンリアンスにより平定。同時に死の国とディニオ派を挟み撃ちにし、ヴァンリアンスの封印術で厄介なディニオを封印。その後に殲滅。戦後、ディールケ王国は教国同様に独立支援を行い、死の国は厄介な潜在リスクを解消できる」

 私は死の国側にディニオ派の視線を向けさせる為の餌。魔王国東部貴族とひと悶着起こさせたのもその一環。


「私はそんなに有名人だったのですね」

「うん。大英雄と賢者の秘蔵子。教国をつぶした3歳児。あなたが生まれてから、見る人が見ればグルンドは異様」

 ……割とオープンなお家なのですがね……。料理屋さんやってますし、意外と不特定多数が近寄ってきてますよ?


「さらに獣王族との婚姻。それで教国レベルの奴らは手が出せなくなったけど。ディニオ達は違う」

「幼児の体目当ての方とはお近づきになりたくありませんね」

 私は嘆息をつき権三郎が用意した新たな椅子に座る。


「平和に暮らしたければ、引きこもっているべき。……その椅子かわいい」

「私を呼び出したのは魔王陛下ですよ? む、パンダがホールドする椅子ですね」

 そうなのです。魔王様の要請を聞いたのは祖父と祖母、許可を出したのは父と母。ポチとの婚姻するまでに追い込まれていたのに何故でしょう。


「……陛下も要請を受けていたのよ……。親パンダに抱っこされる感じの椅子……ふふふ」

 後半は何やら妄想の世界に旅立ってしまいました。ヴァンリアンスさん、頑張ってください。婚約者さんが何やら不振ですよ。


「魔王陛下に断れない要請をできる人……」

 そんなのはお一人しかいません。

 大陸中央部に鎮座する大樹。そこから大陸を見守る世界の王。


「大魔王陛下……」

「……」

 む、はずれ? そんな馬鹿な?


「世界は広い。いずれ学べばいい。……その前に。……お前は何ものだ? 竜人学者デス・ガルド」

 それは同意です。古代魔法道具オタク一本押し。不自然ではないでしょうか?


「ん? 吾輩か? その筋では有名な古代魔法道具学の学者で、この遺跡を稼働すると聞いて向かっていただけなのだがな……」

「そう。貴方の事は知っている。そういう奴らが集まっていることも。でも、逆に問題がなさすぎる。そういう奴らは欲望に忠実。何かしら問題を起こす。だが貴方は優等生過ぎる。何者?」

 沈黙。権三郎も初めから警戒していましたし、何者なのでしょう。


「……ふむ、何者と言われると『世界中の遺跡と子供たちの守護者』としか言えぬな。考えてもみよ。前の遺跡ではかなり長い時間マイルズと一緒におったのだぞ?」

 言われてみればそうですが。


「そう。でも忘れないでね。私は何処からでもマイルズを守っている。魔王国を守る為にもマイルズを守っている。隙やチャンスなどないものと思え……」

 それだけ言うとティリスさんは霧化しどこかへ消えた。

 微妙な空気だけ残して……。

 結局ディニオの狙いがわかりませんね。

 本当に異宗派への憎しみだけなのでしょうか。勝さん一号を通して一度だけ見たディニオはそんな奴ではなかった。


 あれは……、神など信じていない奴の眼だった。


『がぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 パン田三太郎が異世界航行船格納庫に現れた白竜を切り伏せ吠えております。しかし、致命傷ではなく白竜は立ち上がりパン田三太郎と切り合っている。

 異世界航行船に絡みつこうとしていた偽ドゥガは試作一号機に邪魔され異世界航行船から距離を取られ始めている。

 異世界航行船格納庫の戦闘はどちらも決定打の無い膠着状態に陥っております。

 

「あとは勝さん一号、貴方待ちですよ……」

 本当にそれでこの戦闘は収まるのだろうか。

 一抹の不安を感じながらも、私は戦況を見守る他することはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る