第136話「地球帰還魔術3」

 まずい状況になりました。


 え?それは何回も聞いた?

 ……。いや、違いますよ。

 偽ドゥガが黒い龍を呼び出してどうかして自称竜神とかになって変態王子とバトル始めたとか、大した問題じゃないんですよ……。

 いえね、封印解除した変態王子が異常な強さだったのは龍の主人だったと知った時点で理解していました。それに万が一変態王子が破れようとも決定的な敗北前に私が介入してしまえば済みます。

 戦闘経験が少ない私ですが、本体と開発したこの『スーパー勝さんボディ』があれば、上位亜神レベルと言われる龍程度、『力技』で何とかなります。


 ですので現在私は『万が一』が起こらないよう戦闘を監視しています。

 偽ドゥガが私たちの知らない術で亜空間へ干渉し『我らの隙をついて地上に戻り中継施設を破壊される』、そんなことが起こらないように監視しています。

 と、いうのがこの戦闘がはじまる前に変態王子と打ち合わせた作戦になります。


 その様な前提に置いて繰り返しますが、現状まずい状況にあります。

 まず変態王子と偽ドゥガの戦いですがバトルに詳しくないのでどちらが優勢か判断がつきません。

 素人目からは変態王子の方が余力がある様なので私が介入する状況でもないようです。

 亜空間への干渉ですが、偽ドゥガの背中から生えている3つの龍首のうち何本かが亜空間を定義している結界術への干渉を始めています。

 こちらも私と本体が新たに生み出した魔法制御用の魔石のうち1つに設定した防衛術式で十分に対処可能な状況です。


 では、何がまずいのか。

 本人は気づいていませんが、……偽ドゥガの存在が崩れ始めているのですよ。


 それの何がまずいのか?と思われるかもしれません。

 あえて言いましょう、非常にまずいのです。


 マイルズの中の人こと、自然神にわずかに触れることで得た情報があります。

 これは最近自覚した情報ですが、我々が魔法の構築や自在に事象のライブラリ化ができていたのは中の人の情報やノウハウが大きく関わっていました。

 変態王子が使った亜空間結界術も、本体と私が術や情報を検証した結果から派生し変態王子の手よって具現化したものです。ですので、この術がどのようなものなのかも理解しています。


 だからこそ私は変態王子と共闘することなく、亜空間結界術の監視をしているのです。

 そう、この亜空間結界術とはリスクが大きいのです。


 皆さん、空間の定義とは何でしょうか?

 そこにある。そのことを定義する法則がある。

 そう『ある、ことを定義する』必要があるのです。これは神または神を生み出した何者かが定義している法則になります。人や地上に存在する生物と呼ばれる我らはその一片を観測し、自分たちなりに理解できるように定義しているにすぎません。

 それ故に、定義されていない亜空。

 亜空間結界術とは神々が施した世界を構築する術を模倣し隔離した世界。

 幾万という神々が創造神の元、総力を挙げて構築した世界と違い不安定化した世界。

 現在変態王子が構築した亜空間は、無意識で、私達が居た世界の法則が模倣されています。故に魔法力もつかえますし、重力も存在します。

 逆に言えば同じ世界で生きてきた経験のある秘術者であれば、結界術への干渉という手掛かりもつかめてしまいます。


 それが最大のリスクです。


 神々が総力を挙げて作り上げた世界と違い亜空間は『存在揺らぎがち』です。

 『存在』という制御の枷が外れると、それまであ空間という世界を構築していたすべてのものが、純粋な『力』に戻ります。つまり亜空間が消滅すると、『消失と破壊』という名の『揺らぎ』が発生する。そして近接する世界には『消失と破壊』の揺らぎが連鎖します。

 亜空間よりも『世界としての情報が確定』していて『自動修復法則』や『神々の直接管理下』にある現実世界であれば、世界の連鎖崩壊にまではならないですが……、影響はうけることでしょう。

 具体的に申し上げますと、少なくともこの亜空間と接続されている遺跡一帯は、確実に完全消滅するでしょう。

 マイルズの中の人の情報では、過去とある世界の崩壊が崩壊を起こされた際、連鎖自体はすぐに止められたが隣接する複数の世界に壊滅的な損害が出たと記録されています。

 ね?

 まずいでしょ。

 え?

 なぜそんな危険な術を使ったって?

 いや、あのままであれば確実に戦闘の余波だけでも、せっかく再稼働させた遺跡が破壊されていたことでしょう。それにさすがの私と変態王子でも守りながらの戦いは不利すぎます。更に言うと偽ドゥガのような人たちは『自爆』とか洒落にならない最終手段を持っているはずなのですよ。なのでリスク覚悟で隔離して管理した方がよいのです。


ということで変態王子と偽ドゥガのバトルを横目に、偽ドゥガの背中から生えている竜の首と私は、結界として機能している亜空間の主導権争いをしています。

 今のところ両二の腕部に組み込んでいる巨大魔石のうち左の魔石だけで対応しています。ちなみに右の魔石は変態王子の結界術の補強プログラムを実行しています。

 ああ、この2つの魔石ですが本体とともに私の庵跡を生み出した時と同じ手法で作り出した魔石ですが、私のように意識は宿っていません。案山子作成魔法に組み込まれていた人格AI術式をベースの術式を基礎術式として、人格が発現できるよう術式に仕込をしてみたのですが、今のところ発現する様子はありません。発現してくれれば非常に助かるのになぁ、と本体と二人で魔王城の客室でがっかりしたのを覚えています。え?魔王様に怒られなかったかって?権力者は真っ先に巻き込み済みです。魔王妃様、先日はお世話になりました……。


 さて、では皆様お待たせしました。

 変態王子vs偽ドゥガの戦いについて状況をお伝えします。

 変態王子ですが、いつも通り余裕の表情で戦いを進めています。

 余力を持って万が一に対応するのは非常に良いことですが、この変態がやると似合いすぎてむかつきます。以前であれば顔の上半分を隠していた仮面のおかげで『ピエロ』風お笑い枠だったのですが、現在は完全無欠の美少年、そして王者の風格を漂わす王子様。……がんばれ偽ドゥガ……。

 一方、偽ドゥガの方は筋骨隆々のよくあるアメリカンヒーロー(中年)を地で行くからだが龍との融合で全身に黒い鱗が覆っている、これは見ようによってはパワードスーツを身にまとっているようにも見えます。特徴的なのは背中から生えている3本の龍首になります。右は先ほどから火炎弾を連射して変態王子をけん制しています、左は地球式魔術で常に変態王子の意識外をねらって攻勢にかかり、中央は変態王子から常に見えないように位置取りをしながら結界術に干渉しています。概ねすべてうまくいっていませんがね。

 戦闘は常に偽ドゥガが先手を取り、変態王子が余裕で受け切っている。

 変態王子の周囲には無数の光輝く剣と盾が浮遊しており偽ドゥガの行動すべてを受け切っています。

 ファンネル?

 変態王子が本体に強化を願い出たのは天界視察任務の時だったと記憶しています。

 情報の引き出しが少なかったころですので、天界を警戒して少々やりすぎてしまったかもしれません。

『おお、これであれば親父殿と殴り合うことができる!』

 強化手術後、珍しく年相応にはしゃいで見せた変態王子の言葉です。神王って本当に人間なんでしょうかね……。大魔王も同レベルとか言いますが……。気にしないでおきましょう。先のことです。


「はぁはぁはぁ」

 疲れたのでしょう偽ドゥガはフェイスシールドの様になっていた口元の走行を解除し、激しく呼吸を繰り返している。もはや人間とは体の構造が違うので、わざとらしく呼吸を荒くする、必要性はないのですがね……。

 私と変態王子が偽ドゥガを警戒し、注視する。私は結界術への干渉を止めていた3本目の首から意識を偽ドゥガへ、そして変態王子は足を止め浮遊する剣を増やし偽ドゥガを取り囲む。

 視覚の端で私と情報戦をしていた龍の首がにやりと笑いました。

 次の瞬間、完全に私の制御化にあった亜空間結界術が『外部』から攻撃を受けて揺らぎます。私に動揺が生まれ龍の首に隙を与えてしまった。

 戸惑いから防御に避けるリソースが減ったタイミングを待っていたかのように亜空間結界術の一部に向けて龍の首は集中攻撃を行い、結界術の一部を制圧されます。ほぼ一瞬の出来事、ほぼ一種運の制御奪取でした。ですが、偽ドゥガ『達』にとってそれで十分だったようです。

 亜空間結界術の一部、変態王子の足元、を解除して亜空間結界術に侵入してきたのは……先ほど偽ドゥガが呼び出した龍よりも巨大な龍でした。


「ありがとう、ようやく本体を呼び出せたよ」

 息を切らせる演技をやめた偽ドゥガがさらに続けます。


「感謝するぞ! これで、すべてを終わらせることができる!!!」

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