第135話「地球帰還魔術2」

----この話を読む前の前提----

・勝さん一号:2章でマイルズが生み出した巨大魔石に宿った勝さん人格。見た目は15歳の平均的な日本人。灰色の肌で亜人とか人間に差別されがち。社会人勝さん色が強く。商売人。

・変態王子:実はカクノシン・ムサシ・デネルバイルという名前。神王の息子の子孫。色々飽きて性的に罠にあえてはまり、レベル封印された人。龍2匹の主人。世界の最果てへ放逐の刑に処された先でマイルズ(♂幼児)に一目惚れ(王子も♂)。顔の上半分は神王が施した封印の象徴である白い仮面が張り付いている。

・今の2章になる前に書かれていたお話「ドゥガとディニオがグルンドで暗躍していた。宗教関連で結構あっさり見つかってしまったドゥガを変態王子が煽りまくり、巻き込まれ系主人公勝さん一号と一緒に返り討ちにされる。なおドゥガさん、終盤に竜に変身する」

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 初代様が目覚め1週間が経ちました。

 薄暗かった制御室も多くの光に包まれています。

 1つ1つは各地の遺跡稼働状況であったりしますので、アラートが発生してる遺跡には『私が』配置していた皆さんへ学者さんから指示が出てアラート解除に至っています。

 さて、私がここにきていなければどうしたのでしょかね……。


「強行する」

 はい。総責任者のドゥガさんでした……。脳筋め!

 でも、ここ以外の遺跡は地球へ向け、次元の穴をあけるための動力源、としての役割が強いので放置しても成功率が下がるだけでこの遺跡は起動するのでしょう……。ですが、古代文明は十全の状態で『失敗した』と記録されております。やはり私に感謝してほしいのですよ。


 さて、話を変えますと初代様はリハビリも終えて現在学者さんたちに混ざってはしゃいでおります。そもそもから学者気質だったのでしょう。現在主流の魔法学、こちらの『祖』とまで言われるお方です。分野は違えど『良い機会だ』とばかりに目を爛々と輝かせた学者たちが初代様を囲い質問攻めにしておりました。

 それに対して初代様も楽しそうに顎に手を当て、エア髭を撫でながら回答していたりしてます。

 なので、今では皆さんすっかり敬意をこめて『初代様!』と呼んでおります。

 いや、ここでそう呼んで違和感ないのは私とミリ姉……あ、初代様まんざらでもない様子で喜んでますね。うん、そういう人でした。


「明日、起動試験を行います」

 初代様が制御室の真ん中だお酒を並々と継がれた杯を掲げて宣言します。周りには大呂の宴会料理が並べられており、初代様を作業をともにした人々が囲っています。皆さんそれぞれ疲労を抱えているようなのですが、表情はどこか晴れ晴れとしています。

 明日、本番を迎えます。

 明日、このお祭りが終わります。

 明日、この人たちとお別れになります。

 でも、この遺跡。

 何度も言います。『古代文明はこの遺跡を作動させ、失敗として封印している』のですよ。

 彼らが今まで何をしてきたのかは知りません。

 結果を知っていて行動しているのだろうと予測はしています。

 ただ残念ながらここに来るまでの関係のない人たちでは、もうありません。

 彼らは、外で監視している『権威や力に酔った狂信者』と言われる、いわゆる『異世界宗教』の人たちと一線を画していることは理解しています。

 故に、情がわきます。

 しかし覚悟を決めて行動している彼らに、私はかける言葉が見つかりませんでした。

 そして私は翌日を迎えることとなりました。


------古代遺跡群大陸中央中継施設--------

「来ると思っていたよ、下種君」

「……貴様とは因縁浅からぬ中であったな。竜体を壊された恨み……。痛みを味あわされた恨み……。今回はオリジナルを排除できた機会を奪われる。……よいだろう。この『正義』のドゥガ! 本気を持って貴様を主の御許へ送ってやろう!!」

 変態王子はマイルズが獣王都へ留学に行っていた期間に対決したドゥガ……、いや偽ドゥガを見下ろしていた。奇しくもマイルズの故郷グルンドで対決した時と同じく、あの時は下水道から出てきた偽ドゥガを橋の上から、現在は遺跡へと続く洞窟を偽ドゥガが出たところを。


「……なぁ、なんか私もいるのだが……、もしかして忘れられてる?」

「「……」」

 はい、無視。

 皆さんは覚えていますよね?


 ………。

 ……。

 …。


 勝さん一号です。

 獣王都でマイルズが作った巨大魔石に宿った勝さんの精神体の一部ですよ。

 各地で商人まがいのことをやらせていただいておりまして、最近はなぜか運送業までしている勝さん一号です。

 灰色の肌に愛嬌のある日本人顔。15歳程度の容姿をもった勝さん一号です。


 ………。

 ……。

 …。


 はい。はい。お邪魔でしたか。空気読みますよ~。

 ちっ。

 因縁あり。みたいな空気でぴりついていやがりますが、あの時私もいたのですよ。

 え?その話カットされてる?

 は?勝さん一号ことこの私が瓦礫の下から這い上がって華麗に竜退治をしたお話が没ですと?


 ありえない。


 あの違うそれぞれ『歴史をたどった地球』から転移してきた人間達の邂逅をにおわせたお話が没ですと?

 

 センスを疑いますね。


 まぁ、メタい話はおいておきましょう。


 こちら現場の勝さん一号です。

 只今、着流しに刀を2本差して、どこの町奉行が遊び人に扮して下町情勢を視察しているのかというような風流な感じでいつもの余裕を表情で変態王子が、上半身裸で全身軽い傷を負っている偽ドゥガを見下ろしている。


「さて、ここで相手をしてもよいが、いとし子が進める計画でこの遺跡が重要な役割を担っているのでな……」

 そういうと変態王子は顔上半分を覆っていた仮面をごく自然な流れで外す。同時に世界がゆがむ。結界発動の兆候だが、変態王子が起こした事象はそんなものではなかった。

 世界の外、いわゆる亜空と呼ばれる白い世界に私達が居る区域が変化したのだ。

 これは……、生物だけを転移させたようだな……。

 そもそも結界とは神々がこの魔法という事象を管理するために敷いた座標情報、それに基づいた空間の力場、物理法則に干渉する術である。起動キーと制御装置、それらを動作させる動力源があれば可能な術である。この世界では大抵の大国、とよばれる国々はその術を持って防御を成している。

 そして亜空。これはもう一人の自分と呼ばれる体が存在する世界の狭間。衛君(♀)や獣人族などが精神体は維持したまま体を入れ替えるという術を行使している。変態王子が行ったのはその術と結界術を組み合わせた超高難度の術である。


「……」

 偽ドゥガは自身より大きな大剣を構え、変態王子を睨みつけ、そして油断なく重心をおとす。いったん変態王子と言葉のやり取りはやめたようだ。


「……」

 剛剣の偽ドゥガに対し、変態王子はするりと二刀を抜き放ち自然体でゆっくりと偽ドゥガへと歩を進める。


 ……。イケメンが、くそ。

 知ってるか?

 変態王子、15歳なんだよ。年齢的には下の毛が生えそろったかどうかの少年なんだよ。なのに男の俺ですら色気を感じる男なんだよ。金髪碧眼の完璧王子様なんだよ。変態だけど。

 しかし……変態王子よ。お前、封印されて島流しにあったせいでできることが制限されるっていう設定で本体の近くにいなかったか?

 もしかしてそういう体で隠してやがったのか?

 本体も本体でそれを察して最近無茶ぶりをしてたのか?

 まじか~~。

 笑みを讃えたまま二刀を自然体に構えたままの変態王子は偽ドゥガの間合いを前にして速度を緩める。

 ああ、私がこんなに余裕をもって偽ドゥガと変態王子の対決を静観しているのには訳があります。

 封印を解除した変態王子は……どう見積もっても偽ドゥガでは勝てないと思わせる力を有しているからだ。

 グルンドで見た竜。それ以上の竜に偽ドゥガが変身したところで揺るがないほどの力を変態王子から感じる。

 変態王子はこの亜空を作り出し、維持しているのに、変態王子自身が使える力の底が見えない。

 ん?商人の私がそんなことわかるのかって?

 わかりますとも。何故ならば、権三郎に本体が施した『まーちゃんレベル』なる改造。私にも施していないと思うかい?

 こう見えても本体もそこそこ社会人歴があるのでリスクには敏感です。案山子としての能力において、私は権三郎より上です。しかもまーちゃんの中の人の知識があるため、力の使い方などに、本能的に強くもあります。いわゆる便利な被検体です。

 そんな私から見ても今の変態王子は異常です。


「……」

 変態王子が一歩踏み込むと偽ドゥガはじりじりと後退します。

 やがて円を描くように偽ドゥガが引き始めると驚くことに変態王子が少し焦りの表情を見せる。


「ああ、待たせたな。亜空に俺を連れ込んだのは間違いだった」

 そういうと偽ドゥガは変態王子に向かって獲物である大剣を思い切り投げつけ、距離をとる。


「我々では……世界の狭間へ干渉する技術が拙くてな……」

 意味ありげににやりと笑う偽ドゥガ。偽ドゥガは右手を軽く掲げ『来い』と力強く叫ぶ。


パリン

 ガラスが割れた用の音が響き。偽ドゥガの背後に……黒い龍が現れた。その瞳に依然見た変態王子を主と仰いでいた龍とちがい理性の光が宿っていない。それは……。


「偽ドゥガ、そう呼びたければ呼ぶがいい……、俺は、これから神となる」

 偽ドゥガと黒い龍の輪郭がゆがむ。


「喝采せよ! 龍神ドゥガの誕生である!!」



 ……まずい状況になってしまったのかもしれない。

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