第129.5話「侵略戦争5」

この話を読むためのおっさん(3歳)設定知識♪

①異世界宗教は勧誘に『世界崩壊』をお題目にい置いており、その際教義に殉じて死んだ祖先は聖人として蘇り子孫を救うと説いている。その為表向き『ネクロマンシー』を忌避してきているが、教団には専門家を育てる機関が存在したりしている。

②おっさん(3歳)の世界では死んだ人間のモンスター化が全世界的に発生した時期があり、世界各地で火葬が一般的である(竜など数が少なく、そもそも知性を失いがちな種族は除く)

③おっさん(3歳)ことマイルズ君(まーちゃん)は数か月前に異世界宗教が作り出したゾンビ(エルフ)少女に遭遇し、救っている

④ゾンビ(エルフ)少女はまーちゃんの悪乗りで変身する魔法少女として活躍中である

⑤ゾンビ(エルフ)少女の名はマリブ。現在魔王の命により特殊任務についている。ちなみに死霊術から解放されたのち魔王軍の蘇生部隊によりリッチ(明確な意思を保った悪霊)として再生(主に肉体と精神)している。


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「報告! 右翼進撃軍、モンスター化した敵兵と交戦中!」

「ご苦労!」

 伝令が去っていく姿を横目にキアナ女公爵は奥歯を噛み締める。

 こんなはずではなかった。

 アルマイル伯爵の魔法部隊とキアナ女公爵率いる魔法騎士団による正面攻撃。これにより敵先方に突出している『偉大なる先達』の方々を抑える。強大な個の力を抑えたうえで両脇に南方軍を突撃させ両脇を打ち崩し、魔導砲撃部隊を前進させ、敵後方の禁薬錬成部隊をたたく。

 うまくいったのは、『偉大なる先達』の方々を抑える、まで出会った。それも相手のおよそ50倍の戦力を使用してようやく押しとどめるに至った。しかし、敵両脇を抉るはずの南方軍が苦戦している。

 相手が既に禁薬を使用していた。さらに突撃と同時に前方全軍をモンスター化させたのだ。

 モンスター化した敵兵は敵味方関係なく悪意をばらまき、襲う。

 もとより数的有利を辞任し、補充可能な民兵を前線に並べていたディールケ共和国(異世界宗教)軍にとってそれは想定内の被害であり、予定通りの戦果となった。


「我らが攻撃したタイミングでモンスター化、異世界宗教もこれまで通りではないということですな」

「ああ、外道はしつこい。敗北を数千年根に持ち未来で勝とうと本気で画策する。奴らにとってこの数百年など単なる準備期間に過ぎなかったということか……」

 キアナ女公爵は戦術上の敗北を悟ったような諦めた表情をするが、すぐに引き締め馬上から剣を振り上げる。


「撤退だ! 殿は我らが引き受ける! 『偉大なる先達』の方々にモンスターを誘導しつつ、砦へ戻るぞ!!」

 この戦闘での勝敗は決した。故に損害は少なく、次につなげなければならない。『戦意を保つのが難し派あるがな……』とキアナ女公爵は自嘲しながら前を向く。


「姫! お引きを! 総大将が殿など聞いたことがありませんぞ!!」

 キアナ女公爵はグルカーセム将軍を声を聴かず、手勢をまとめ『偉大なる先達』の方々との最前線に向かう、前線を下げるため。


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 一方、ディールケ共和国(異世界宗教)軍では。

「死の国の兵は精強と聞いていたが、まさによ!!」

 腰の剣を抜き放ち滾る表情でドゥガが叫ぶ。


「今回あなたの出番はないですよ」

 それを呆れ顔でディニオが抑えている。


「むう」

「『むう』ではありません。今回はこちらの手の内を見せ、軽微な損害で引かせなければなりません。そして引いた先で絶望に心の弱い者たちに【希望】をあたえるのです。内紛。醜くも生きあがく。そんな素晴らしい光景がこの後待っているのです。邪魔はさせませんよ……」

 歴戦の猛者であるドゥガだが、ディニオの悪意に押される。


「はぁ、ワクワクするではありませんか。戦って守らんとする【正義】、降って守らんとする【正義】。それが葛藤するのですよ。正に人間そのもの!!!」

 両手を天に掲げ恍惚の表情のディニオ。

 状況がどうなろうと戦端が開けば押し戻す自信があり、そしてその際は間者を潜り込ませる計画だった。


「行きつく先は、死か、死に等しい扱いの奴隷。どちらも変わらんではないか」

「彼らにとっては、『誇りと平和を守る』か、恭順を示し『人命と平和を守る』かの差なのですよ」

「物は言いようだな」

 さしものドゥガもディニオの狂気を目にし、剣を鞘に納め参戦をやめる。


「さぁ、お引きなさい。神の贄に選ばれたかわいい子羊たちよ」

「……」

 この時ドゥガの感がディニオを注視しろと告げていた。


 だが、この後戦局は両陣営が想定しない方に転がる。


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「天が呼ぶ」

 凛とした少女の声が混戦模様を呈していた戦場に響く。

 その声に、人も、死人も、モンスターさえもが発生源である上空を見上げる。


「地が呼ぶ」

 違和感。

 魔法の爆音がとどろく戦場で全員が気づくような大音量ではない。だが、その声も誰もが注目してしまう。

 違和感の招待にいち早く気づいたのはネクロマンサーのディニオだった。

 ディニオは死の国の幹部である死人たちを制御していた魔術が途切れたことに気づく。そして次の瞬間にその原因にも気づいた。


「皆が呼ぶ」

 戦場の上空に現れたのは一人の少女だった。

 太陽が中天に懸かる時刻。見上げた先に移るのは小さな人影。それはゆっくりと降りてくるに伴い姿があらわになる。

 それは戦場にはそぐわなぬ町娘が様な軽装で片手に短い杖を握るエルフの少女。特徴的なのは背負ったランドセルから光の翼が生えている。

 光の翼が揺れるたびに、戦場の魔法力が揺れる。

 ディニオの死の国の幹部たちを制御していた異世界魔術は魔法力を媒介に発動していたので、エルフの少女が光の翼をはためかせる度に、制御が離れてゆく。

 レベルの恩恵を受けている戦士たちはその根幹である魔法力の揺らぎに体が動かない。

 魔法力から生み出されるとされているモンスターたちはその機能を止める。

 両軍指揮官レベルの者たちは驚愕する。エルフの少女が背負う光の翼はこの世界の戦争の形を変えかねない代物である。そんなものを携え天から降りてきたエルフの少女を戦場の誰もが注視し、敵なのか、味方なのか、何が目的なのか……と。


「食材が呼ぶ」

『『『『『何言ってんだこいつ?』』』』』

 全員心の中で突っ込んだ。


「無計画な乱獲を止めろと、私を呼ぶ!!!」

 エルフの少女は短い杖を掲げる。同時に少女は光に包まれ次の瞬間肌の露出がある軽鎧に換装された。あまりの理不尽にキアナ女公爵は馬上から剣を取り落とす。


「魔法リッチ少女、マリブ参上!」

 (´∀`)9 ビシッ!

 かわいらしくポーズを決める魔法リッチ少女マリブ。

 戦場に冷たい風が流れる。


「さぁ! 5万人の密漁業者の皆さん! お縄についてもらうよ!!!」

 魔法リッチ少女マリブの叫びと同時に背負っていた光の翼が、両脇に発射される。魔法少女リッチマリブが降り立った、『偉大なる先達の方々』と死の国の兵たちが呼ぶディールケ共和国革命軍の先方とディールケ共和国革命軍本陣との間、つまり両翼から死の国南方軍を押し返し追撃を加えようとしていた、モンスターたちに発射される。

 射線上のモンスターが消し飛ばされ、光の翼射出とともに魔法力干渉が解け、とっさに光の翼を防御した防御したモンスターを中心に、次の瞬間大爆発が起こる。


「これが、必殺! 聖人のセイントビームだ!!」

 ドヤ顔である。

 光の翼を再装填し、魔法リッチ少女マリブは先端にハートマーク、その下に白い羽を生やした魔法ステッキ《まーちゃん棒》を振り上げ次の技に移ろうとしている。

 魔法リッチ少女マリブの動きに即座に反応したのは『偉大なる先達の方々』と呼ばれる者たちであった。光の翼による爆発によって二分されたモンスターたちのうち死の国南方軍と接していたモンスターたちの横を突くため動き出した。


「セイント《聖人》だと……」

「ぐははははは、面白い面白いぞ、くそ亜人風情があああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 魔術を破られ血と共に言葉を吐き出すディニオと、悪鬼のような表情で笑い、叫ぶドゥガ。


「次行くよ! 逃げられない光達ホーミングビーム!!」

 戦場に響く陽気な叫び声が響く度にディニオの支配下にあった死兵達の制御が解放されてゆく。


「ドゥガ!」

「おう!」

 ディニオがたまらずドゥガの出陣を許可した。

 だが同時に。


ドォオオオオオオン


 ディニオとドゥガがいる本陣左脇、死の国とディールケ共和国を隔てる険しい山々。

 進軍不可能な山から砲撃・・された。

 爆音とともに山から現れる軽装備の兵士たち。

 魔法の杖を両手に抱え、混乱するディールケ共和国革命軍の側面を襲撃する。


タタタタタタタタタ


 破裂音と共に飛来する魔法。

 詠唱はなく集中もない。

 威力はさほどではないが無限を思わせる連射で薬物で自我を失う前の強化状態のディールケ共和国革命軍兵士を圧倒する。


「……」

 灰色で統一された近代兵器のような武器を携えた部隊に、ドゥガは怒りを忘れ冷静に戻りディニオを見る。その目は撤退を促しているようだった。


「あれは、あなたの時代の武器ですね。敵側に同胞がいるということですか。厄介な……」

「ああ、あれを初見で対応するのは無理だ。切捨て引くべきだ」

 死の国とディールケ共和国革命軍通常兵たちは状況に対応できずにいる。

 進軍させたモンスターたちは死の国の死人たちに処理されている。

 死の国の死人たちを制御していた魔術は常時発動常時制御型であるため、再発動には時間がかかるうえ、あのレベルの達人たちに隙を突かず再度仕掛けることは不可能。

 戦場の中心で『レインボーフラッシュ!』などと陽気に破壊魔法をまき散らしている。時間経過とともにモンスター化一歩手前まで持ち込み完全制御化に置いていた兵たちが消えていく。

 さらにはその後方に待機させていた自我を失う前の強化状態のディールケ共和国革命軍兵士たちも所属不明、効果不明の武器に武装した部隊に襲われている。


「ラフマン侯爵に撤退を提言してきます」

「うむ、灰色どもは俺で抑える。あれの対処は俺にしかできんだろうしな……」

 勝ち戦が一転負け戦となった。

 ディニオとドゥガは怒りの感情を噛み殺しながら撤退を始める。

 彼らは知らない。

 魔法リッチ少女マリブが魔王から依頼され、幼児をかげながらに護衛していた……が、道に迷ってたどりつきノリだけで介入してきたことを。

 形勢を確定させた灰色の部隊はとある幼児が食材収集のためだけに作成したゴーレムであることを、そしてその目的が食材保護であったことを。


 勝敗は決した。

 ディールケ共和国革命軍は多くの兵を失い、同時に恐怖からそれ以上の戦線離脱者をだした。兵数的にはかろうじて死の国南方軍を上回っていたが、異世界宗教が強化に使用していた薬物は重要な材料の生息地を灰色の軍団に占拠され、増産できなくなった。

 一方死の国南方軍も精鋭部隊に少なくない損害を負った。しかし、『偉大なる先達の方々』という強大な見方を取り戻し、そして魔王国から派遣された(ということにした)援軍を得て状況を優勢に展示させた。

 こうして両軍睨み合いとなり、次の手を探り合う。状況は死の国南方軍優勢のまま数日が流れていく。


 そして数日、数週間が経過したディールケ共和国革命軍に……

 ドゥガが帰還することはなかった。


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