第129.3話「侵略戦争」
静寂が支配する廊下をキアナ女公爵はグルカーセム将軍を引き連れ歩く。
ディールケ共和国と接する量の中核都市ルーナの領主邸で彼女たちは足止めされてしていた。
本来であれば先に布陣まで完了しているであろう、南浦方面軍と合流しディールケ共和国革命軍と対峙したかったキアナ女公爵だが、この地方を支配するアラナータ侯爵の願いとあればかなえねばならなかった。最前線の砦にて長期のにらみ合いが予測されるこの戦に置いて、兵站を担うラナータ侯爵との無用な軋轢は最も避けなければならないことだった。だが。
コツコツコツ
キアナ女公爵の足音はイラつきを表すように早く、そして鎧を着こんでいるため重い。
その後ろを歩くグルカーセム将軍は苦笑いをかみつぶしたような表情をしている。
長丁場の戦が予測され、異世界宗教による内部工作も活発に行われるであろうこの戦で元王女、キアナ女公爵が主賓の壮行会は少なくない戦費と被害を負担する辺境貴族、豪族には必要なことと、両名ともに理解はしている。だが、それと感情は違う。キアナ女公爵としては一刻も早く国境線のディールケ共和国革命軍と交戦し、やつらの中枢である専業軍人を達を倒し、敵国領内へ進軍することで防衛線を固めたかったのだ。これはディールケ共和国革命軍の背後にいるであろう異世界宗教が怪しげな術で思考力を奪っている情報からの危機感である。武器もなく能力もないが死兵は厄介であったからだ。
「……キアナ王女殿下。お待ちしておりました」
指定された部屋の前にはラナータ侯爵家の執事が居た。グルカーセム将軍はその執事に違和感を覚える。『鎧を身に纏ったキアナ女公爵』に驚いた様子がないのだ。
「公爵だ。間違えるな」
「……失礼いたしました。キアナ公爵閣下。中で皆様がお待ちです」
キアナ女公爵はラナータ侯爵の長女と親交があったため、この執事は顔馴染みであった。
それ故のやり取りである。
「うむ」
満足げにキアナ女公爵が頷くと他の執事の手によってゆっくりと扉が開かれる。
扉をくぐった先はパーティ会場ではなく、豪華なつくりだが会議場だった。
中にいたのは南方方面軍司令官達をはじめ、ラナータ侯爵領の重要人物たちだった。彼らはキアナ女公爵に気付くと立ち上がり礼を示す。
キアナ女公爵とグルカーセム将軍は上座へと導かれる中で『彼らの表情がどれも陰っている』ことから想定しえた最悪なシナリオから予測しながら席に着く。2人の着席をもって彼らも着席した。
「単刀直入に報告させていただきます。敵先方に現在行方不明となっている『偉大なる先達』の方々がおられます……」
キアナ女公爵とグルカーセム将軍の表情が凍り付き、即座に手元に配られていた書面に目を向ける。
キアナ女公爵は額に手を当てると、思い切り溜息を吐き出すと会議参加者の面々を眺める。
「領都での会議設営。大義」
「「「はっ」」」
配られていた書類には大まかにこのように書かれていた。
・砦から視認できるフーム平原に5万の軍勢が着陣
・武装は『防具はないが、鉄製の槍を全員が装備』
・『偉大なる先達』の方々は先方に立ち24時間砦を監視している
・『偉大なる先達』の方々について騎士団長以外の存在を確認
・フーム平原特産物である『とあるキノコ』を用いた禁薬の調合が開始されている
グルカーセム将軍は重いため息を吐き出すのを堪える。
現実は予想の最悪を超えてくる。頭が痛い事に。
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