第128.1話「はげ親父ピンチ! 依頼主が音信不通。これじゃただの裏切り者」(前編)

 やあ、こんにちは。

 異世界に飛ばされ、なぜか宗教組織に拉致され、能力低いとか侮辱された男、ムライと申します。


 え?おっさん幼児?誰ですか?おっさんで幼児なのですか?

 ……赤ちゃんプレイ?

 ……いいのです。

 わかっています。

 それであなたが明日も元気に生きていけるのであれば、それは良いことだと思いますよ。(ニコッ)


 私は現状からお話ししましょう。

 何故か?

 暇なのです。そして、この状況からの解決策が見えません。なんてこった。HAHAHAHAHAHA。

 ……いけません。いけません。昔の友人のような笑い方になってしまいました。現実逃避はいけませんね。


 ああ、私の話でしたね。

 私、ムライこと村井浩二と申します。

 戦争で青春時代が真っ暗闇と思ったら、戦後も友人のお願いでその筋のお仕事をしておりました。

 その筋のお仕事をやっておりますと、ほら、呪い事とかに首を突っ込むのですよ。

 時代は戦後復興に向けて皆一丸となって努力しているのに私は置いて行かれたような気分でした。

 そんな折、友人の組織内にスパイがいるということで、何故だか私が極東支部長なぞやらされたのでした。

 相手は呪い事を駆使し、時に目標に熱血な男、時に正論のようなことを吐く男として、組織に潜り込んでいました。結果、スパイは情報のみならず、組織内で同じ志の人間同士を一部の真実を織り交ぜつつ間違った方向へ誘導し、内乱を誘発する寸前まで進めていました。


 そしてそこで私登場。

 ……友人も禿げるといいのですよ……。あ、あの人の国、剥げても男の貫禄として見られる国でした。

 話を戻します。

 こうして支部長などに就任させられた若輩の私は下からの突き上げを一つ一つ丁寧に対応し、話し合いを調整し、絡まった糸を解きほぐしていきました。

 その過程で魔法という非科学的な存在を知り、少しづつスパイを追い込み、確保する直前の事でした。何故か穴に落ちて異世界に来ました。


 ……思えばあの穴に作為的なものを感じました。

 飛ばされた先は山奥でした。(……よく生きてましたねぇ、私)

 人里を探して山を下っていく私。そして行き着いた先には……。

 地球で有名な宗教の施設がありました。

 そうともしらず助けを求めた私。すぐに捕まりこの世界について教育させられました。ええ、地下牢の中でですがね。悪質な洗脳というやつでしょうか。反吐がでます。

 さてさて、私ですがこう見えましても荒事には慣れておりますし、前述したように宗教家……、いえ『質の悪い反権力主義者』達のやり方はわかっております。自作自演。騙されたふりをして乗ってあげれば、馬鹿の様に恐怖し、従順に従う。小さな仕事を多くこなし、信頼を積み重ねること数年。気付けば組織の中間ポジションである程度の自由がありました。


 チョロイなこいつら。

 そう思った私は、あっさりと神殿へと駆け込みました。

 表向きは何とでもいえます。

 危険はありますが体の異変について改善せねばなりませんでした。いつまでも怪しい奴らに命を握られ、従えさせられるのは正直ごめんこうむります。


 こうして私は、神殿関係者に怪しまれながら神様の前に立ちました。ここまでくれば儲けものと思っておりました。何より相手は神様です。多忙を極める天上の存在。人間についてなど些事ではありましょうが、私は異世界人。きっと世界の異物について色々と対応することがあるでしょう。その隙に私は帰還の為の情報を、伝手を、髪の毛程でもよいので掴まねばなりませんでした。


 私には歳の離れた可愛い弟妹が、10年前は17歳だった妹を筆頭に7名おりました。

 ……そうです、その当時ですでに、私が異世界に渡り早10年の年月が経過しておりました。


 軍より帰還した時は食糧不足で妹に色々と愚痴を聞かされました。15歳の弟は健気に手伝うが、それより下の子らは餌を待つ雛の様で妹は疲弊しきっておりました。私は語学力と海外のコネのおかげか食料が豊富に手に入る海外関連の仕事ができたのは幸運でした。殺伐とした数年が過ぎ国が落ち着き、そして私の仕事も落ち着いてきていた矢先。この異世界転移です。戻らねば、苦労性の妹が『行き遅れになった!』とプリプリ怒りながらも迎えてくれるうちに……と思っておりました。


「大変言いづらいのだが、地球に戻る事は不可能だ」

 神様が威厳たっぷりに言います。言いづらいのならもうちょっと気を使いましょうね。


「いや、お前さんは大丈夫そうだし」

 偏見です。


「ほら、異世界転移してくると地球人たちは壊れてくるだろ?」

 ほう、私の髪の毛を見て憐れみましたね? よろしい、なれば私にも覚悟があります。


「いや、違うって。抜けるのが10年早まっただけで、それは将来の姿だから。抜け毛は遺伝だから」

 この話を脱線させつづける神様はしばらくしてようやく本題を話始めました。


「え?いいの?もう抜け毛の話はいいの?生やす可能性もあるよ?」

 ……。この後詳しく……。

 コホン。

 それよりも、地球に戻れない、について教えていただきたいのですが?


「ああ、それね。地球って君たちが呼んでいる世界って結構……いや、かなり特殊な世界なのね」

 ウィンクして黒板を出現させた神は図を描きながら説明を続けます。


「人も、動物も、植物も、無機物も、地球と言う世界は全て世界の因果上に連結して存在する世界なのよ。転移してくるという事はあちらの世界から存在そのものが抜け落ちてくるってことなのね。だから戻そうとすると世界の法則に干渉するほどの凄い力が必要となるのよ。抜け落ちて1カ月程度なら何とかなるのだけどもね……」

 ……。それって異世界に来てすぐ神殿に来れれば……。


「私が担当する場合は戻してあげれたね……」

 おーまいがー。


「え?よんだ?」

 いえ。呼んでません。


「……。でもね。もしかしたら。可能性が薄いかもしれないけど可能性はあるんだよ……。可能性低いよ。期待しないでね。もし可能性に欠けてみたいのであれば……」

 よし、売った。


「即決!」

 異世界宗教の情報とか、今後のスパイ活動とか承りました。お任せください。その代わり……、お願いしますよ。


 こうして私は今いる国が『死の国』と呼ばれる国だという事を知り、神様の導きで国を守るために自ら亡者となった宰相様と好を通じ、今回の『異世界宗教一網打尽大作戦』に参加することとなったのですが……。


「ムライさん。見損なったっす」

 発掘作業で同じ班に居た、つる禿のファフリ君イケメンが牢の向こう側から非難の声を上げます。


「禿の風上にも置けない人っす」

 宰相様との連絡が取れなくなったのは、計画が発動して直ぐでした。


「もうちょっと近づいてください。残った髪の毛も引き抜いてやるっす!」

 やめてください!

 今育毛中なのんです!!

 うがーーー、もう! 宰相様、早く連絡ください。どう出ていいのかが見えません。

 ストレスで戦友(髪の毛)と書いて友(抜け毛)と呼ぶもの達が……。


「はぁ」

 こうして私は今日もため息をつき、多方面に時間稼ぎをするため動き出さなけらばなりませんでした。

 宰相様、褒賞の育毛剤は多めに頂きます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る